2006年03月

2006年03月26日

(上)米・英・仏・露の戦闘機売り込み競争

(下)軍備内容の質的変化―大型兵器から小型兵器・ハイテク防御システムへ
中東各国の軍事費
 中東各国の軍事費がどの程度であるかは、UNDP(国連開発計画)の「人間開発報告書2005」(Human Development Report 2005, HDR2005)から試算することができる。下表はサウジアラビア、イラン、UAE,エジプト及びイスラエルの中東5カ国ならびに参考として日本の数値(2003年)をまとめたものである(但しUAEのGDPはJETRO資料)。

国名     GDP総額(A) 軍事費比率(B) 軍事費(A x B)
サウジアラビア 2,147億ドル 8.7%      187億ドル
イラン      1,371     3.8%      52
UAE 798 3.1% 25
エジプト 824 2.6% 21
イスラエル 1,102 9.1% 100
(参考)日本 43,009 1.0% 430

 GDPの大きなサウジアラビアとイスラエルはGDPに占める軍事費比率も高く、従って軍事費の絶対額が、イラン、UAE、エジプトの3ヶ国に比べて格段に多い。しかしこの3カ国の中でも産油国のイラン及びUAEの軍事費はエジプトを上回っている。特にエジプトの国土面積及び人口がUAEの12倍、17倍であることを考えると、UAEの軍事費が如何に大きいかがわかる。このような産油国の巨額の軍事費を狙い各国の軍需産業は自国政府を巻き込んだ各種兵器の売り込み合戦を行っているのである。

ドバイの兵器ショーIDEX
 兵器の売り込みは通常密かに行われるが、数少ない表舞台となっているのが2年に一度ドバイで開催される国際兵器見本市(IDEX:International Defence Exhibition)である。第1回IDEXは1993年に34カ国から350社が参加して開催されたが、その規模は年々拡大し、2001年の第5回IDEXは主催者側の発表によれば43カ国、865社が参加、来場者は44,000人に達している。米英仏などの軍需大国は戦闘機、ミサイル、戦車などの最新鋭兵器のデモンストレーションを行い、オイル・マネーで潤う産油国からは国防相を含む軍幹部が大挙押しかけた。
 中東では第3次・第4次中東戦争(1967年、1973年)、イラン・イラク戦争(1980~90年)、湾岸戦争(1991年)と国家間の紛争が絶えず、一方では第一次・二次オイル・ショックにより産油国には膨大なオイルマネーが流れ込んだ。王制の危機を肌で感じた湾岸産油国は80~90年代を通じて軍備拡張にオイルマネーを注ぎ込んだが、IDEXはこのような環境が生み出したものである。
産油国の軍幹部達は特に米国の最新鋭戦闘機やハイテク兵器に強い関心を示し、潤沢な軍事予算を持ったこれらの国々は米国の軍需企業にとって最大の顧客であった。但し米国のイスラエルロビーはアラブ諸国に最新鋭兵器を輸出することに強く反対し、結局AWACS、F-16などの最新鋭兵器はイスラエルに与えられたが、アラブ産油国には一世代前の戦闘機しか売却されなかったのである。そのため彼らは英国或いはフランス製の最新兵器に目を向けた。湾岸産油国が米国製最新鋭兵器を買い付けられるようになったのは、中東和平の機運が生まれる一方、世界的な軍縮で不況に陥った米国の軍需産業が輸出の活路を求めて自国政府に泣きついたからであった。UAEと米国のF-16戦闘機輸出商談が実現した背景にはそのような事情がからんでいたのである。

軍備の質的変化の契機となった国際イスラム・テロ
 1960~70年代の中東戦争はイスラエルとアラブの対立、また80年代のイラン・イラク戦争はイスラム教シーア派とスンニー派の対立と捉えられているが、その背後にイスラエルを支援する米国及びイラクを支援するソ連があった。その意味では米ソ対立も紛争の要因の一つと言えよう。しかしそのような二大陣営の対立がなくなると共に中東でも国家間の大規模な戦闘行動が影を潜めた。その結果、戦闘機、戦車、地対空ミサイルなど国家間の戦争を前提とした大型兵器の必要性が薄れた。それでも産油国が米国製の最新鋭大型兵器を購入しようとするのは財政に余裕があるためであり、何よりも軍幹部が最新兵器を欲しがるからである。最新兵器を所有することは彼ら軍人の優越感をくすぐり、また兵器の購入には軍幹部に対するメーカーからの裏リベートがつきものなのである。
 米国一強時代の到来により国家間の大規模な軍事行動が無くなったが、それにかわって登場したのがイスラム過激派による国際的なテロ活動であった。彼らは米国を筆頭とする資本主義・キリスト教国家をテロの攻撃対象とし、或いは西欧に追随し、かつ石油の富を独占しているサウジアラビアなどの湾岸王制国家を揺さぶった。湾岸諸国は王(首長)制の維持が至上命題であり、体制を揺さぶるテロに対する危機感が特に強い。そのためには従来の大型兵器にかわるテロ対策のための装備が必要である。大型兵器から小型兵器、ハイテク防御システムへと軍備の質的変化が生まれつつある。

将来の中東の軍備商談の行方
 大都市の市民に紛れ込むテロ組織と対峙するために必要な装備は決して戦闘機や戦車、ミサイルなどの大型兵器ではない。必要なのはテロ活動を未然に防ぐための警戒システム、監視装置、諜報機器などのハイテク機器であり、また実際の掃討作戦で必要なものはヘリコプターや小型兵器なのである。大型兵器から小型兵器或いはハイテク防御システムへと言う兵器の質的変化は中東産油国を含めた世界的な傾向である。
 この傾向は2001年の9.11テロ事件で一層顕著となった。2005年のドバイ兵器見本市(IDEX2005)では仏Thales社と南ア企業が電子システムの受注を競い合い、UAEは空軍通信システム5.3億Dh(1US$=3.7Dh)を独企業に、またヘリ8機を米ベルの伊子会社にそれぞれ発注したが、戦闘機、戦車などの大型商談はなかった(05/2/14 & 05/2/16 Khaleej Times)。
 このように今後の軍備が小型化、ハイテク化へと向かう時代では、世界の軍需産業は高価格・高性能と低価格・通常性能の二極分化が進むものと思われる。米英仏独などの西欧先進国の軍需企業は豊かな湾岸産油国を相手に高性能兵器・ハイテク防御システムの売り込みを図る。彼らのセールスポイントは、体制転覆を狙うテロをこれらの近代装備により事前に阻止できる、ということであろう。
一方、中国、南ア、ブラジルなど通常型小型兵器の生産国は、低価格をセールスポイントとして小銃、小型ミサイルなどを産油国、非産油国を問わず中東各国に売り込むことになる。かれらは国境地帯でのテロリストの侵入または脱出阻止のため、或いは市街地でのテロリストとの交戦のために、小型で操作が容易な武器を売り込むことになる。この中では特に中国が要注意である。何故なら石油を渇望している中国は、今後石油利権と武器供与を絡めた商談に国家ぐるみで乗り出す可能性が大きいと考えられるからである。
以上


at 20:10 

2006年03月25日

各項目をクリックすれば各紙(英語版)にリンクします。
(サウジ)英皇太子夫妻が公式訪問
(サウジ)日本の学生親善使節団と意見交換

at 14:41Today's News 
記事検索
月別アーカイブ
タグクラウド
QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ