2006年06月
2006年06月18日
(第1回)カタール・バーレーン間の海上橋建設―両国新時代の幕開け
6月12日、バーレーンのマナマで開催された第6回カタール・バーレーン相互協力合同高級会議(The Joint Higher Committee for Mutual Co-operation between Qatar and Bahrain、以下「合同会議」)は、カタールとバーレーン間に海上橋を建設することなどを合意した。合同会議ではタミム・カタール皇太子及びサルマン・バーレーン皇太子が共同議長を務め、海上橋建設の覚書を含めいくつかのMoUが締結された。またカタールの天然ガスをバーレーンに供給する計画についても協議を継続することが合意された(注1)。
カタールはかつてバーレーンの属国であったが、20世紀初頭に現在の首長家であるアル・サーニー家が支配するようになった。アラビア湾に浮かぶ島国であるバーレーンと海上わずか40KMを隔てたアラビア半島のカタールは、両国間に点在する小島の領有権をめぐりしばしば衝突を繰り返し、カタールが国際司法裁判所に提訴する事態にまで進展した。しかし2001年に紛争は解決し、その後両国の関係は急速に改善されつつある。今回の合同会議で広範な協力関係が構築されたことは画期的な出来事と言えよう。
主要な合意内容は、(1)両国をつなぐ40KMの海上橋建設、(2)航空網の拡大のための協力、(3)世界各国の大公使館における外交・領事業務の相互協力、及び(4)経済・ビジネス関係の強化等である。このうち最大の目玉は海上橋の建設であり、これは両国間の海上に総額30億ドル、50ヶ月をかけて架橋するというビッグ・プロジェクトである。今回の合同会議では建設のための事業会社を設立する覚書が締結された。
両国はサウジアラビア、クウェート、UAE、オマーンと共にGCC(湾岸協力機構)を形成しており、外交・経済両面にわたる幅広い協力体制を築いている。しかしGCC6カ国が目標としている関税同盟から通貨統一への道は必ずしも順調ではなく、また対米関係を中心とする外交問題をめぐっても時としてギクシャクした関係が見られる。また、GCCの中では小国のカタールおよびバーレーンは、共にGCC6カ国の中での自国の地位に満足していない。石油資源の乏しいバーレーンは経済的地盤の沈下が激しく将来に不安要素を抱えており(注2)、一方天然ガス輸出で今や一人当たりGDPが6か国中最高となり鼻息の荒いカタール(注3)は、GCC内での発言力が十分でないことに不満を抱いている。
両国は金融及び産業面でお互いに補完できる点がある。バーレーンはオフショア金融について長い経験を有しており、石油価格の高騰でカタールに流れ込むオイルマネーの運用ノウハウがある。またカタールの天然ガスは資源の乏しいバーレーンにとって大きな魅力である。また長い歴史を誇りながら経営危機に陥っているガルフ航空(本拠地:バーレーン)と、大型機を大量に購入し路線網の拡大に走るカタール航空との関係が強まれば、両国にとって大きな意味があろう。両国はWin-win(ウィン・ウィン)の関係にあると言える。なおその根底には両国のサウジアラビアあるいはUAE(特にドバイ)に対する対抗心があることを指摘できよう。
本シリーズでは、今回の覚書締結を踏まえ、両国のこれまでの歴史、関係強化のメリット、今後の両国関係等について自論を交えた解説を試みた。
(続く)
(今後の予定)
第2回 抗争から和解へ―カタールとバーレーンの歴史
第3回 似た者同士のカタールとバーレーン
第4回 Win-winのカタール・バーレーン関係
第5回 両国の狙いと今後の予測―GCCに先駆けて二国間で経済統合か?
注1 “Historic Step”, Gulf Daily News, 2006/6/13
注2 「GCC域外との交易に活路を求めるバーレーン経済」(MENA Informant)
注3 「超金満国家へのいり口に立つカタール経済」(MENA Informant)
6月12日、バーレーンのマナマで開催された第6回カタール・バーレーン相互協力合同高級会議(The Joint Higher Committee for Mutual Co-operation between Qatar and Bahrain、以下「合同会議」)は、カタールとバーレーン間に海上橋を建設することなどを合意した。合同会議ではタミム・カタール皇太子及びサルマン・バーレーン皇太子が共同議長を務め、海上橋建設の覚書を含めいくつかのMoUが締結された。またカタールの天然ガスをバーレーンに供給する計画についても協議を継続することが合意された(注1)。
カタールはかつてバーレーンの属国であったが、20世紀初頭に現在の首長家であるアル・サーニー家が支配するようになった。アラビア湾に浮かぶ島国であるバーレーンと海上わずか40KMを隔てたアラビア半島のカタールは、両国間に点在する小島の領有権をめぐりしばしば衝突を繰り返し、カタールが国際司法裁判所に提訴する事態にまで進展した。しかし2001年に紛争は解決し、その後両国の関係は急速に改善されつつある。今回の合同会議で広範な協力関係が構築されたことは画期的な出来事と言えよう。
主要な合意内容は、(1)両国をつなぐ40KMの海上橋建設、(2)航空網の拡大のための協力、(3)世界各国の大公使館における外交・領事業務の相互協力、及び(4)経済・ビジネス関係の強化等である。このうち最大の目玉は海上橋の建設であり、これは両国間の海上に総額30億ドル、50ヶ月をかけて架橋するというビッグ・プロジェクトである。今回の合同会議では建設のための事業会社を設立する覚書が締結された。
両国はサウジアラビア、クウェート、UAE、オマーンと共にGCC(湾岸協力機構)を形成しており、外交・経済両面にわたる幅広い協力体制を築いている。しかしGCC6カ国が目標としている関税同盟から通貨統一への道は必ずしも順調ではなく、また対米関係を中心とする外交問題をめぐっても時としてギクシャクした関係が見られる。また、GCCの中では小国のカタールおよびバーレーンは、共にGCC6カ国の中での自国の地位に満足していない。石油資源の乏しいバーレーンは経済的地盤の沈下が激しく将来に不安要素を抱えており(注2)、一方天然ガス輸出で今や一人当たりGDPが6か国中最高となり鼻息の荒いカタール(注3)は、GCC内での発言力が十分でないことに不満を抱いている。
両国は金融及び産業面でお互いに補完できる点がある。バーレーンはオフショア金融について長い経験を有しており、石油価格の高騰でカタールに流れ込むオイルマネーの運用ノウハウがある。またカタールの天然ガスは資源の乏しいバーレーンにとって大きな魅力である。また長い歴史を誇りながら経営危機に陥っているガルフ航空(本拠地:バーレーン)と、大型機を大量に購入し路線網の拡大に走るカタール航空との関係が強まれば、両国にとって大きな意味があろう。両国はWin-win(ウィン・ウィン)の関係にあると言える。なおその根底には両国のサウジアラビアあるいはUAE(特にドバイ)に対する対抗心があることを指摘できよう。
本シリーズでは、今回の覚書締結を踏まえ、両国のこれまでの歴史、関係強化のメリット、今後の両国関係等について自論を交えた解説を試みた。
(続く)
(今後の予定)
第2回 抗争から和解へ―カタールとバーレーンの歴史
第3回 似た者同士のカタールとバーレーン
第4回 Win-winのカタール・バーレーン関係
第5回 両国の狙いと今後の予測―GCCに先駆けて二国間で経済統合か?
注1 “Historic Step”, Gulf Daily News, 2006/6/13
注2 「GCC域外との交易に活路を求めるバーレーン経済」(MENA Informant)
注3 「超金満国家へのいり口に立つカタール経済」(MENA Informant)
各項目をクリックすれば各紙(英語版)にリンクします。
(サウジ)グアンタナモの自殺者、無言の帰国
(UAE)前年より低下した政府部門の自国民化率
(UAE)国軍参謀次長、韓国の航空機産業を視察
(ドバイ)エミレーツ航空、BA買収の噂を否定
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2006年06月13日
各項目をクリックすれば各紙(英語版)にリンクします。
(バーレーン・カタール)包括的な協力協定締結、40KMの海上橋建設
(シリア)GCCから活発な投資、首都で5億ドルの不動産プロジェクト
(ドバイ)賃金不払いで中国人建設労働者が現場監督を人質に
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