2007年02月

2007年02月19日

*本稿は平成18年12月20日、財団法人中東調査会発行の「中東研究」第494号(2006/2007 VOL.III)に発表した同名の論文を8回にわたって転載するものです。


第4回: 相似性その3:支配一族による国政の独占

若き君主の登場によって国内の民主化が進展し、欧米先進国からもそれなりの評価を得たとは言え、支配一族による国政の独占と言う構図は持続したままである。両国共、君主(カタルの場合は首長、バハレーンの場合は国王)が首相を指名し、民選議会(または諮問議会)には首相の指名権がない。そして首相が指名する閣僚も多くは王族である。因みにバハレーン内閣は首相以下23名の閣僚のうち12名が王族であり、またカタル内閣では17人のうち9人が王族である。両国共閣僚の半数以上が王族なのである(カタル政府閣僚名簿及びバハレーン政府閣僚名簿参照)。首相以下、国防相、外相、内相など外交と治安に関連するポストは王族が独占している。

君主が首相を指名し、しかも外交、治安関係のポストを王族が独占しているのはサウジアラビア、クウェイトなど他のGCC諸国も同様である。湾岸の君主制国家は、一族で専制支配する姿勢を崩しておらず民主化とは相容れない要素を持っている。またカタル及びバハレーンの場合、他のGCC諸国に比べて人口の割りに閣僚数が多く、しかも王族が閣僚の過半数を占める、と言う特徴が見られる。その第一の理由は上述のとおり一族による国家の専制支配を維持するためであるが、第二の理由としては、両国では産業の裾野の広がりが乏しく、政府部門或いはエネルギー部門以外の有力な産業が無いため、有力王族を閣僚に遇することで、彼らに地位と名誉と財政的基盤を与える必要があるからである。また王族の数が多く、現首長或いは現国王の四親等(従兄弟まで)に限っても、男子王族の人数は、カタルで約50人、バハレーンでも約30人に達し、現存する王族全体の人数は数百人に達するものと推定される 。こうして閣僚以外でも各省庁或いは石油産業、金融・通信業のほか政府の支配が及ぶあらゆる分野の有力ポストには一族の王族が群がっているのである。

従ってたとえ新たな民主化の制度や組織が創設され、或いは経済の効率化を標榜した民営化などの政策が打ち出されても、そこでは王族の既得権に対する巧妙なセーフティ・ネットが張り巡らされるか、さもなくば新しい組織や民営化される企業の高いポストを王族が占めることになる。こうしてカタル及びバハレーンではアル・サーニー家或いはハリーファ家による支配構造が普遍的となり、非効率な行政・経営が拡大するだけなのである。

しかしそれでも両国の統治機構に大きな揺らぎが見られないのは、経済が石油・天然ガスに依存したモノ・カルチャー構造だからである。この石油・天然ガス部門が生み出す利益は、支配一族が一手に握り、国民に対する分配も恣意的に行うことができる。もし国家の人口が相当多く、しかも財政が国民の血税で賄われている場合、支配者は国民の意向を無視できないであろうし、無視すれば革命等の危険性もあるが、カタルやバハレーンのように人口が少なく、しかも君主が国民全般に分配するに十分な富の源泉を握っている場合、君主はその富を国民に分け与えることで国民自身もかなり高い生活水準を維持することができることになり(rentier国家)、国民を懐柔することは比較的容易となる。


(以下の予定)
第5回:米国とカタル及びバハレーンとの関係
第6回:米国の湾岸民主化政策の見直し
第7回:コスメティック・デモクラシーによる体制維持
第8回:「それでも米国」か、「それならイスラム」か?

(これまでの内容)
第1回:まえがき
第2回:カタルとバハレーンの相似性

第3回 相似性その2:政治の歴史的風土と若い君主の登場

at 10:50GCC 
at 10:21Today's News 

2007年02月18日

at 10:12Today's News 

2007年02月16日

at 10:15Today's News 

2007年02月15日

 ロシアのプーチン大統領が2/11から4日間にわたり、サウジアラビア、カタル及びヨルダンの中東3カ国を歴訪した。何れの国においても共同声明は発表されていないので、各国首脳との会談の内容や成果は明らかでない。
 しかし各種の報道から判断すると、プーチン大統領は、イスラエル・パレスチナ和平問題、イラク情勢、イランの核開発問題などの政治・外交問題のほか、石油・天然ガスのエネルギー問題等について各国首脳と意見交換を行ったものと見られる。大統領の最大の目的は米国主導で進められている中東情勢に対し、ロシアの楔を打ち込むことであろう。大統領が中東訪問を前に、米国一強支配に対して強い牽制球を投げていたことがそれを物語っている。

 プーチン大統領が各国で協議したと思われる課題の中で、特に注目されるのは以下の点である。

サウジアラビア:核の平和利用に関するロシアの協力
 12月にリヤドで行われたGCCサミットの宣言で、今後GCCが核の平和利用に取り組むことが盛り込まれた。現在イランのウラン濃縮疑惑が国際問題となっているが、イランの原発はロシアの技術協力で建設されている。サウジアラビアはウラン濃縮及び核兵器開発を強く否定しているが、地域の大国として原発建設には強い意欲を示している。米国及びイスラエルは地域の核拡散に強い懸念を持っているため、サウジが望む核平和利用に技術協力を行うことができるのはロシアのみであろう(英仏も対米協調のため現時点では技術協力を表明できないとおもわれる)。
 プーチン大統領はリヤド滞在中、商工会議所での演説の中で核技術協力を提案している。またサウジアラビアのサウド外相も大統領出国後の15日の記者会見で、ロシアの核技術協力に障害は無い、と語っている。

カタル:ガス版OPEC(天然ガス輸出国機構)設立問題
 ロシアとカタルの天然ガス埋蔵量はそれぞれ世界第1位と第3位である(第2位はイラン)。近年パイプライン或いはLNGによる天然ガス貿易が拡大し、天然ガス輸出国が増加するにともない、輸出国カルテルとしてガス版OPECの設立が取り沙汰されている。
 カルテル設立については生産各国も専門家も時期尚早、という見方が一般的であり、プーチン大統領もカタルのハマド首長も同様の見解を表明している。しかし両者とも将来のカルテル設立の可能性は否定しておらず、大統領は今回のカタル訪問に際し、生産国による天然ガス共同戦略を呼びかけている。
 カタルは、2001年に結成されたガス輸出国フォーラム(GECF)の強化を呼びかけており4月にドーハで開催される会議でどのような進展が見られるかが注目される。

ヨルダン:ロシア製ヘリの購入とその保守のための合弁事業設立
 プーチン大統領の訪問にあわせ、ヨルダンはロシアのKA-226ヘリ6機の購入契約を締結し、同ヘリ保守のためのロシア・ヨルダン合弁事業の設立を発表した。
 ロシアは石油・天然ガス以外の工業製品の輸出促進に力を入れているが、国際競争力のある工業製品は航空機、兵器、原子炉などに限られている。今回のヘリは軍需品では無く、用途は救急医療用とされているが、軍事技術をベースにしたものである。ロシアは今後中東向けに軍需品の輸出拡大を狙っているものと思われる。

以上


at 10:48General 
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