2007年11月
2007年11月19日
(注)MENAランキング・シリーズはホームページ「中東経済を解剖する(MENA Informant)」 の「中東基本統計編」にまとめて掲載中です。
MENA(中東・北アフリカ)22カ国の「男女の格差」(2007年版)
東はアフガニスタンから西はモーリタニアまでのMENA(中東・北アフリカ)22カ国をいろいろなデータで比較しようと言うのがこの「MENAなんでもランキング・シリーズ」です。「MENA」は日頃なじみの薄い言葉ですが、国ごとの比較を通してその実態を理解していただければ幸いです。
第8回のランキングは世界経済フォーラム(World Economic Forum, WEF)が行った「世界男女格差報告2007(The Global Gender Gap Report 2007)」からMENA諸国をとりあげて比較しました。
1.「世界男女格差報告2007」について
「世界男女格差報告2007(The Global Gender Gap Report 2007)」(以下「報告書」)を発表した「世界経済フォーラム」(World Economic Forum, WEF)は、スイスのジュネーブに本部を置く非営利団体であり、毎年1月にスイスのダボスで行われる「ダボス会議」の主催者としてよく知られている。
「報告書」は世界128カ国を対象に経済、教育、健康、政治の4つの分野について、世界或いは各国の公的機関が公表する男女別のデータに基づき、それぞれの分野の男女間の格差を指数化し順位付けを行ったものである。
(詳しくはWEFホームページhttp://www.weforum.org/en/initiatives/gcp/Gender%20Gap/index.htm 参照)
2.比較対象される分野とその内容
対象とされるのは以下の4つの分野であり、各分野にはそれぞれ二つ乃至五つの比較項目がある。
1. 経済参画分野:経済活動への参加度及び参画の機会(Opportunity)に関する男女格差
比較項目:(1)労働参加比率、(2)同一労働賃金格差、(3)平均所得格差、
(4)幹部職比率、(5)専門・技術職比率
2. 教育分野:教育の機会に関する男女格差
比較項目:(1)識字率、(2)初等教育就学率、(3)中等教育就学率、(4)高等教育就学率
3. 健康・寿命分野:健康と寿命に関する男女格差
比較項目:(1)新生児男女比率、(2)平均寿命
4. 政治参画分野:政治参画の度合に関する男女格差
比較項目:(1)女性議員比率、(2)女性閣僚比率、
(3)過去50年間の女性元首(首相等)在任期間
3.指数化の方法と順位付け
128カ国について上記四つの分野の各比較項目に関する男女それぞれの数値或いは比率のデータを抽出し、この男女のデータについて男性を1とした場合の女性の指数を算定する(最大値は1とする)。この指数の意味は、指数1の場合男女が完全に平等であることを意味しており、指数が低くなればなるほど男女の格差が大きいことを示している。
各比較項目の指数を加重平均したものを、その分野の指数とする。最後に4つの分野の指数を加重平均したものがその国の格差指数であり、128カ国の指数を上位から順に総合順位を付けるのである。(計算例については末尾参照)
4.MENA22ヶ国の男女格差の総合指数とランク
「報告書」は、上記の方法により128カ国のそれぞれの総合指数を算出し順位付けを行ったものである。このうちMENAは22ヶ国中17カ国が順位付けの対象となっている。昨年度の対象国数は14カ国であり、MENA全体の6割強にとどまっていたが、今年は8割に達し、MENAの主要国がほぼカバーされている。なお今回も調査対象とならなかったのはレバノン、イラク、リビア、スーダン及びアフガニスタンの5ヶ国である。
MENA諸国のトップはイスラエルであり、同国の総合指数は0.6965、世界ランク36位である。イスラエルに続くのはクウェイトであるが、同国の場合は、指数0.6409、世界ランク96位であり、トップのイスラエルとの格差は大きい。そして本調査の対象国の数が128カ国であることは、クウェイト自身が世界水準から大きく遅れていることを示しており、その他のMENA諸国も以下の通りかなり低い順位にとどまっている。
クウェイトの次に位置するチュニジアは世界ランク102位であり、MENAの3位以下は全て世界順位100位以下となる。即ちMENAの第4位以下を列挙すると、シリア(世界順位103位)、ヨルダン(同104位)、UAE(同105位)、アルジェリア(同108位)、カタル(同109位)、モーリタニア(同111位)、バハレーン(同115位)、イラン(同118位)、オマーン(同119位)、エジプト(同120位)、トルコ(121位)、モロッコ(同122位)、サウジアラビア(同124位)およびイエメン(同128位)であり、イエメンの128位は世界最下位である。
このようにMENAは男女格差が世界でも最も大きく、男女平等が最も遅れた地域と評価されている。評価の4分野、即ち経済、教育、健康及び政治のそれぞれにを見ると、いずれの分野でもイスラエルを除き世界順位は低いが、特に経済と政治の両分野の世界ランクが低い。
なお日本は世界順位91位に位置づけられており評価が非常に低い。これは4分野のうち経済(世界97位)及び政治分野(同94位)でのランクの低いことが主たる原因であり、その点ではMENA諸国と似通っている。
5.2006年との比較
MENAの中の順位は各国ともほぼ昨年並みであるが、トルコの8位から14位への転落が目立つ。今年新たに3カ国が加わったとは言えトルコの凋落は特に目立つ。またモロッコも10位から15位に下がっている。
但し世界ランクで見ればMENAの全ての国が昨年よりランクを落としている。昨年は6カ国が100位以内であったが、今年はイスラエルとクウェイトの2カ国のみが100位以内であることと比較すると、全世界の調査対象国が13カ国増えた(115カ国→128カ国)とは言え、MENA全体では明らかに男女平等に関する世界での地位が低下していることを示している。
昨年と今年の総合指数を比較すると、14か国中11カ国は指数がアップしており、昨年より指数が悪化したのはトルコ、モロッコ及びイエメンの3カ国だけである。このことはMENAの多くの国では男女の格差が是正されていることを示している。それにもかかわらずMENA各国の世界順位が落ちているのは、世界全体では男女格差の是正が進んでいるにもかかわらず、MENA地域では是正が遅れていることを意味している。
追記:指数の計算例(日本の場合)
例えば日本の場合、「経済参画分野」の指数は以下のように算定されている。
(1) 労働参加比率: 女子61%、男子85%。従って男女格差の指数は0.61/0.85=0.71。
(2) 同一労働賃金格差:女子は男子の61%(データ調査)。従って男女格差の指数は0.61。
(3) 平均所得格差(PPP US$):女子18,130ドル、男子40,885ドル。
従って男女格差の指数は18,130/40,855=0.44。
(4) 幹部職比率:女子10%、男子90%。従って男女格差指数は0.1/0.9=0.11。
(5) 専門・技術職比率:女子46%、男子54%。従って男女格差比率は0.46/0.54=0.85。
上記(1)~(5)の指数を加重平均した値(0.71+0.61+0.44+0.11+0.85)/5=0.549が経済参画分野の男女格差指数であり、128カ国中の順位は97位(上表参照)である。
その他の分野も同様の方式で指数化されているが、その男女比率及び格差指数をまとめると以下の通りである。
女子 男子 指数
2.教育分野 (1)識字率 99% 99% 1.00
(格差指数0.986) (2)初等教育就学率 100% 100% 1.00
(世界順位69位) (3)中等教育就学率 100% 99% 1.01
(4)高等教育就学率 51% 57% 0.89
3.政治参画分野 (1)女性議員比率 9% 91% 0.10
(格差指数0.067) (2)女性閣僚比率 13% 88% 0.14
(世界順位94位) (3)女性元首在任期間 0年 50年 0.00
4.健康・寿命分野 (1)新生児男女比率 49% 51% 0.94
(格差指数0.979) (2)平均寿命 78歳 72歳 1.08
(世界順位37位)
以上の結果、総合指数は(0.549+0.986+0.067+0.979)/4=0.645となり、世界ランクでは91位となる。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp
MENA(中東・北アフリカ)22カ国の「男女の格差」(2007年版)
東はアフガニスタンから西はモーリタニアまでのMENA(中東・北アフリカ)22カ国をいろいろなデータで比較しようと言うのがこの「MENAなんでもランキング・シリーズ」です。「MENA」は日頃なじみの薄い言葉ですが、国ごとの比較を通してその実態を理解していただければ幸いです。
第8回のランキングは世界経済フォーラム(World Economic Forum, WEF)が行った「世界男女格差報告2007(The Global Gender Gap Report 2007)」からMENA諸国をとりあげて比較しました。
1.「世界男女格差報告2007」について
「世界男女格差報告2007(The Global Gender Gap Report 2007)」(以下「報告書」)を発表した「世界経済フォーラム」(World Economic Forum, WEF)は、スイスのジュネーブに本部を置く非営利団体であり、毎年1月にスイスのダボスで行われる「ダボス会議」の主催者としてよく知られている。
「報告書」は世界128カ国を対象に経済、教育、健康、政治の4つの分野について、世界或いは各国の公的機関が公表する男女別のデータに基づき、それぞれの分野の男女間の格差を指数化し順位付けを行ったものである。
(詳しくはWEFホームページhttp://www.weforum.org/en/initiatives/gcp/Gender%20Gap/index.htm 参照)
2.比較対象される分野とその内容
対象とされるのは以下の4つの分野であり、各分野にはそれぞれ二つ乃至五つの比較項目がある。
1. 経済参画分野:経済活動への参加度及び参画の機会(Opportunity)に関する男女格差
比較項目:(1)労働参加比率、(2)同一労働賃金格差、(3)平均所得格差、
(4)幹部職比率、(5)専門・技術職比率
2. 教育分野:教育の機会に関する男女格差
比較項目:(1)識字率、(2)初等教育就学率、(3)中等教育就学率、(4)高等教育就学率
3. 健康・寿命分野:健康と寿命に関する男女格差
比較項目:(1)新生児男女比率、(2)平均寿命
4. 政治参画分野:政治参画の度合に関する男女格差
比較項目:(1)女性議員比率、(2)女性閣僚比率、
(3)過去50年間の女性元首(首相等)在任期間
3.指数化の方法と順位付け
128カ国について上記四つの分野の各比較項目に関する男女それぞれの数値或いは比率のデータを抽出し、この男女のデータについて男性を1とした場合の女性の指数を算定する(最大値は1とする)。この指数の意味は、指数1の場合男女が完全に平等であることを意味しており、指数が低くなればなるほど男女の格差が大きいことを示している。
各比較項目の指数を加重平均したものを、その分野の指数とする。最後に4つの分野の指数を加重平均したものがその国の格差指数であり、128カ国の指数を上位から順に総合順位を付けるのである。(計算例については末尾参照)
4.MENA22ヶ国の男女格差の総合指数とランク
「報告書」は、上記の方法により128カ国のそれぞれの総合指数を算出し順位付けを行ったものである。このうちMENAは22ヶ国中17カ国が順位付けの対象となっている。昨年度の対象国数は14カ国であり、MENA全体の6割強にとどまっていたが、今年は8割に達し、MENAの主要国がほぼカバーされている。なお今回も調査対象とならなかったのはレバノン、イラク、リビア、スーダン及びアフガニスタンの5ヶ国である。
MENA諸国のトップはイスラエルであり、同国の総合指数は0.6965、世界ランク36位である。イスラエルに続くのはクウェイトであるが、同国の場合は、指数0.6409、世界ランク96位であり、トップのイスラエルとの格差は大きい。そして本調査の対象国の数が128カ国であることは、クウェイト自身が世界水準から大きく遅れていることを示しており、その他のMENA諸国も以下の通りかなり低い順位にとどまっている。
クウェイトの次に位置するチュニジアは世界ランク102位であり、MENAの3位以下は全て世界順位100位以下となる。即ちMENAの第4位以下を列挙すると、シリア(世界順位103位)、ヨルダン(同104位)、UAE(同105位)、アルジェリア(同108位)、カタル(同109位)、モーリタニア(同111位)、バハレーン(同115位)、イラン(同118位)、オマーン(同119位)、エジプト(同120位)、トルコ(121位)、モロッコ(同122位)、サウジアラビア(同124位)およびイエメン(同128位)であり、イエメンの128位は世界最下位である。
このようにMENAは男女格差が世界でも最も大きく、男女平等が最も遅れた地域と評価されている。評価の4分野、即ち経済、教育、健康及び政治のそれぞれにを見ると、いずれの分野でもイスラエルを除き世界順位は低いが、特に経済と政治の両分野の世界ランクが低い。
なお日本は世界順位91位に位置づけられており評価が非常に低い。これは4分野のうち経済(世界97位)及び政治分野(同94位)でのランクの低いことが主たる原因であり、その点ではMENA諸国と似通っている。
5.2006年との比較
MENAの中の順位は各国ともほぼ昨年並みであるが、トルコの8位から14位への転落が目立つ。今年新たに3カ国が加わったとは言えトルコの凋落は特に目立つ。またモロッコも10位から15位に下がっている。
但し世界ランクで見ればMENAの全ての国が昨年よりランクを落としている。昨年は6カ国が100位以内であったが、今年はイスラエルとクウェイトの2カ国のみが100位以内であることと比較すると、全世界の調査対象国が13カ国増えた(115カ国→128カ国)とは言え、MENA全体では明らかに男女平等に関する世界での地位が低下していることを示している。
昨年と今年の総合指数を比較すると、14か国中11カ国は指数がアップしており、昨年より指数が悪化したのはトルコ、モロッコ及びイエメンの3カ国だけである。このことはMENAの多くの国では男女の格差が是正されていることを示している。それにもかかわらずMENA各国の世界順位が落ちているのは、世界全体では男女格差の是正が進んでいるにもかかわらず、MENA地域では是正が遅れていることを意味している。
追記:指数の計算例(日本の場合)
例えば日本の場合、「経済参画分野」の指数は以下のように算定されている。
(1) 労働参加比率: 女子61%、男子85%。従って男女格差の指数は0.61/0.85=0.71。
(2) 同一労働賃金格差:女子は男子の61%(データ調査)。従って男女格差の指数は0.61。
(3) 平均所得格差(PPP US$):女子18,130ドル、男子40,885ドル。
従って男女格差の指数は18,130/40,855=0.44。
(4) 幹部職比率:女子10%、男子90%。従って男女格差指数は0.1/0.9=0.11。
(5) 専門・技術職比率:女子46%、男子54%。従って男女格差比率は0.46/0.54=0.85。
上記(1)~(5)の指数を加重平均した値(0.71+0.61+0.44+0.11+0.85)/5=0.549が経済参画分野の男女格差指数であり、128カ国中の順位は97位(上表参照)である。
その他の分野も同様の方式で指数化されているが、その男女比率及び格差指数をまとめると以下の通りである。
女子 男子 指数
2.教育分野 (1)識字率 99% 99% 1.00
(格差指数0.986) (2)初等教育就学率 100% 100% 1.00
(世界順位69位) (3)中等教育就学率 100% 99% 1.01
(4)高等教育就学率 51% 57% 0.89
3.政治参画分野 (1)女性議員比率 9% 91% 0.10
(格差指数0.067) (2)女性閣僚比率 13% 88% 0.14
(世界順位94位) (3)女性元首在任期間 0年 50年 0.00
4.健康・寿命分野 (1)新生児男女比率 49% 51% 0.94
(格差指数0.979) (2)平均寿命 78歳 72歳 1.08
(世界順位37位)
以上の結果、総合指数は(0.549+0.986+0.067+0.979)/4=0.645となり、世界ランクでは91位となる。
以上
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