2009年07月

2009年07月29日

2009年07月28日

at 09:53Today's News 
(注)ホームページ「中東と石油」で第1回~第6回をまとめてご覧いただけます。
http://www.k3.dion.ne.jp/~maedat/A48GCCSWFPart4.pdf

第4回:原油と株式の暴落で足元に火のついた湾岸産油国
 2002年に1バレル26ドル(WTIの年間平均価格)であった原油価格はその後一本調子で上昇、2007年々央には70ドルに達した。そしてその秋に発生した米国のサブプライムショックの影響を受けるどころか同年末には90ドル、翌年初めには100ドルの大台を突破、2008年7月には遂に史上最高の147ドルの値をつけたのである。オイルブームに沸く湾岸諸国では株価も狂乱相場の様相を呈し、湾岸最大のサウジアラビア株式市場の株価指数(Tadawul)も2007年末には10,000を超えた。

サブプライムショックとは無関係に高騰する原油価格と好調な株価。こうして湾岸諸国では「米国の信用不安と湾岸経済は直接関係が無い」とするデカップリング論が支配的となった。好況を謳歌する当事者は、別な地域や業種が不況であっても自分たちとは無関係であると思い込み勝ちである。日本のバブル時代を思い起こせばやはり当事者は同じ過ちを犯しているのであるが、本人たちはそれに気がつかない。湾岸産油国でも同じことが言える。

 石油価格は7月をピークに下落相場に入った。それまでの暴騰相場を演出していた投機マネーに息切れの兆候が見えたのである。世界的な信用収縮が始まり、投機の主犯と言われる欧米のファンドに影響が現われ始めた。それでも2008年秋にリーマンショックが起きる直後まで湾岸諸国にはなおデカップリング論が横行した。

しかし米国で発生した金融危機はたちまちヨーロッパ、さらには全世界へと燎原の火のごとく広がった。それは新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)そのものであり、豊かなオイルマネーを抱えた湾岸諸国と言えども影響を免れなかった。原油価格は下げ足を早め年末にはついに30ドル近くにまで落ち込んだ。わずか半年で2002年の水準に逆戻りしたのである。湾岸各国の株式市場も同じような様相を呈し、サウジアラビアの株価指数は2008年初の11,000から年末には半値以下の4,800にまで暴落した。国家の歳入の大半を石油収入に頼る湾岸各国政府にとって石油の暴落は国家財政の赤字転落に直結する深刻な問題である。また金融市場が未成熟な湾岸諸国の国民にとって株式市場は数少ない利殖手段であり、株価の暴落は個人の不安をあおる。これを放置すれば政府に批判の矛先が向けられる。各国政府は原油暴落と株価暴落に一刻も早く手を打たなければならない。

石油価格は一国の政府だけでは決められない。そこで湾岸諸国を含むOPEC産油国は臨時総会を開催、矢継ぎ早に減産を決めた。一方株価はそれぞれの国の問題であり、湾岸各国は政府資金を株式市場に投入し、株価を買い支えることが求められた。湾岸各国の株式市場には共通した二つの特徴がある。一つは上場企業数が少なく、時価総額も小さいことである。GCC最大のサウジアラビアですら上場企業の数は100社強に過ぎない。従ってオイルブームの恩恵で手元資金に余裕が生まれた一般市民が株式市場に殺到すると、たちまち株価が過熱するのである。そしてもう一つの特徴は上場企業の中に株式を公開した国営企業或いは国家資金の投入された企業が数多くあり、しかもそれら国営、半国営企業の時価総額が市場全体の半分以上を占めていることである。

これはこれまでの政策誘導の結果でもある。つまり各国政府は国家の独占事業分野である石油化学や通信などの国営企業の株式の2~3割程度を公開して一般国民の余ったマネーを吸い上げると共に、安全で有利な利殖の手段を提供してきたのである。サウジアラビアのSABIC(基礎産業公社)は世界有数の石油化学企業であり、UAEのEtisalatは成長分野の通信企業である。国民は競ってこれらの株式を購入した。こうして湾岸諸国の株式市場は成長したのである。

だが今やこれら国営企業の株式も暴落した。株価は公開(IPO)時の価格を大幅に割り込み、一般株主は大きな含み損を抱えた。市民の多くは株の購入のため銀行から借り入れを行なっており、その借金の返済で首の回らなくなる者も出る始末である。クウェイトの投資家のように政府に銀行借金の棒引き、即ち徳政令を求めるケースも出た。個人のマネーゲームによる借金を国が肩代わりするなどというのは普通の国では考えられないことである。しかしクウェイトではかつて「スーク・マナーハ事件」と呼ばれる私設市場の株取引により破産する個人が続出する事件があり、国家資金で関係者を救済したこともある。さすがに今回は公設市場での株取引だけに徳政令は発動されなかったが、産業が未成熟で個人の余裕資金が株式市場に流れ込みやすいGCC諸国では、株価の安定は民心の安定に直結する重要問題なのである。

湾岸SWFは政府の指示を受けて株式の買い上げなど手持ちの資金を投入して国内経済の浮揚に取り組むこととなった。
 
(第4回終わり)

これまでの内容
第1回:はじめに
第2回:サブプライムとリーマン、二つの「ショック」をはさんで
第3回:莫大な損失を抱え込んだKIAとADIA


* HP「中東と石油」にPart I, II, IIIを一括掲載しております。(http://www.k3.dion.ne.jp/~maedat/GCC.html)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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