2009年07月

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2009年07月19日

(注)ホームページ「中東と石油」で第1回~第6回をまとめてご覧いただけます。
http://www.k3.dion.ne.jp/~maedat/A48GCCSWFPart4.pdf

第3回:莫大な損失を抱え込んだKIAとADIA
 サブプライムショックによる株価下落を底値と見たクウェイト投資庁(KIA)はシティグループとメリル・リンチに合わせて50億ドルを、またアブダビ投資庁(ADIA)もシティグループに75億ドルをそれぞれ出資したわけであるが、両行はその後の株価暴落で莫大な損失を蒙った。彼らはどれほどの損失を出したのであろう?

本来機密を重視する投資ファンドは民間、政府系を問わず情報開示に対して極めて消極的であるが、特に政府系ファンドにその傾向が強い。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(PE)・ファンドなどと呼ばれる民間のファンドは、出資者に対しては運用実績を明らかにしなければならない。出資者から金を預かっている以上当然の義務である。また外貨準備高や年金を原資とする政府系ファンドであれば、原資は国民の汗の結晶の一部であるから、運用について国民に明らかにすべきであろう(但し、共産党独裁の中国のように国民に情報を開示せず、今回巨額の損失を計上しても表立って責任問題が論じられないケースもある)。

石油・天然ガスのように国営企業が独占するコモディティによって生み出される余剰金で運営されるSWFは、国民の汗の結晶というわけではないが、それでもノルウェーのような国民主権の民主主義国家では、運用実績の開示は当然のこととされる。ところが同じ産油国であってもアブダビ、カタール、サウジアラビアなど湾岸諸国は専制政治の国であり、政府の積極的な情報開示は期待できず、一般国民が政府にそのようなことを求めることもない。SWFの実質的な支配者である為政者即ち王族たちは、誰に気兼ねすること無く、自らの判断で投資先を自由に決定する。その運用実績が今回のようにマイナスになったとしても、その実態を明らかにすることもなく、まして責任問題が生じることも無いのである。つまり湾岸産油国のSWFは運用の状況が外部からはほとんどうかがい知れないのである。

損益はおろか、SWFはそもそもその資産規模すら明らかにしていない。世界最大のSWFとされるADIAの資産はこれまで8,750億ドル程度とされてきた。本シリーズの随所で取り上げたADIAの運用資産額はこの数値を援用している。しかし米国のあるシンクタンクは07年末のADIAの資産を5千億ドル程度と推定しており、国連貿易開発会議(UNCTAD)では5,000~8,750億ドルと両論併記の形をとっている 。そして今年1月、ワシントンの外交問題評議会(CFR、外交誌「フォーリン・アフェアーズ」の発行で知られる著名なシンクタンク)が公表した「GCC Sovereign Funds; Reversal of Fortune」 はアブダビのSWF(ADIA/ADIC合計)の2007年末の資産4,530億ドル、翌2008年末の資産残高を3,280億ドルとしている。2008年中に新たに基金に組み入れられた資産は590億ドルと見込んでおり、従って差引すると同年中の資産の目減りは1,830億ドルということになる。つまり1年間でSWFの資産が40%減少している。同じようにカタール投資庁(QIA)の資産は270億ドル減少(前年比41%減)し、クウェイト投資庁(KIA)は-940億ドル(-36%)と試算している。これら3カ国は押しなべて資産の40%前後が目減りする深傷を負ったようである。

 実はこれら3カ国の中で問題が国内で公になった国が一カ国ある。クウェイトである。クウェイトは湾岸君主制国家の中では最も民主主義が発達した国であり、KIAの資産状況についても毎年公表されている。そして今回の巨額の損失については議会がその内容と責任を明らかにするよう迫った。これに対して政府は渋々情報開示に応じ、KIAがシティグループとメリルリンチに投資した50億ドルは、28億ドルに激減、22億ドルの含み損を抱えていると説明した 。

上記CFRのレポートでは、KIAの2007年末資産2,620億ドルに対し、2008年末は2,280億ドルに減少、同年中の新規流入額が570億ドルとされ、資産の目減りはマイナス36%であるが、クウェイト国会における政府説明から見ても、CFRの推定値はかなり精度が高いと見て間違いないであろう。

このように湾岸産油国のSWFは(比較的傷の浅かったサウジアラビアを除き)いずれも世界を襲った金融危機のため巨額の損失を抱え込んだ。しかし湾岸SWFは実はもう一つの試練に直面している。それはリーマンショックとほぼ同じ時期に襲った原油価格の暴落である。昨年の7月にバレル当り147ドルの史上最高値をつけた石油価格がその後一転して暴落、年末には30ドル台にまで落ち込み、最近は60ドル前後を行き来している。この結果、各国の石油収入は激減、国内の株式市場も完全に失速した状況である。湾岸産油国としては国内景気の浮揚が最優先課題となったのである。こうしてSWF資金の欧米離れと本国回帰が始まった。

(第3回終わり)

これまでの内容
第1回:はじめに
第2回:サブプライムとリーマン、二つの「ショック」をはさんで


* HP「中東と石油」にPart I, II, IIIを一括掲載しております。(http://www.k3.dion.ne.jp/~maedat/GCC.html)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp


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