2011年03月

2011年03月26日

(注)本シリーズ1~5回は前田高行論稿集「マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0175GccCrisis.pdf

(お断り)本シリーズのテーマであるGCC各国の情勢は時々刻々変化しており、個々の記載内容は掲載時点の最新情報に基づいています。従ってシリーズの前後で記述内容あるいは事実関係に齟齬を生じるかもしれませんので予めご承知おきください。

アメとムチ:「懐柔」と「抑圧」(その1 予算のバラマキ)
 国民大衆に不穏な動きがみられた時、為政者は洋の東西を問わず「アメとムチ」の政策を打ち出す。「アメ」は大衆をなだめるための懐柔策であり、「ムチ」は彼らを抑えつける抑圧策である。懐柔策の例としては国民の経済的不満を和らげるため大盤振る舞いのバラマキ行政を行うケース、或いは政治の民主化・変革を求める声に配慮して国民参政権の拡充や不人気な大臣の首をすげ替えるケースなどである。

 一方、抑圧策としては為政者に不都合な情報を阻止し、逆に自己に都合のよい情報のみを流すメディア・コントロールのようなバーチャルで間接的な方法の他、治安部隊によるデモの鎮圧或いは戒厳令・夜間外出禁止令などによる反政府活動の阻止、更には活動家の拘束など目に見える直接的な行動がある。

 為政者は状況をにらみながらこのような硬軟両面の方策を繰り出すのであるが、財政が豊かな湾岸諸国においてまず最初に打ち出されるのが「予算のバラマキ」である。湾岸諸国ではこれまでも石油価格が上昇し経常収支が大幅な黒字になった場合、各種のバラマキ政策が行われているが、今回は大幅黒字に加え政情不安の余波が各国に押し寄せたため、これまで以上にバラマキが実施されている。それらを国別に概観すると次のとおりである。

(1) サウジアラビア
 サウジアラビアではアブダッラー国王の帰国前に住宅ローン5.85億リアル(1.6億ドル)の帳消し案が出されており(2月5日)、帰国直後には同国初の失業手当制度導入や住宅ローン枠引き上げ、海外留学生の手当支給増などを含む総額360億ドルに達する臨時支出案が発表された(2月24日)。さらに3月19日には5,000億リアル(1,300億ドル強)の支出計画が公表されている。その中味は住宅50万戸の建設、公務員に対する2カ月の臨時ボーナス、月額3,000リアルの最低賃金保証、住宅ローンの限度額引き上げなど国民の歓心を買うための大盤振る舞いである。

 また18万人の政府臨時職員を正採用とする方針が示された(2月27日)。失業対策の中には内務省による6万人雇用が含まれているが、これなどは若者の雇用創出という名分で治安維持の強化を画策する政府の意図が透けて見える。また現在11万人を数える海外留学生(3月14日)に対する手当増額は、若者に優雅な留学生活を体験させることで国内での過激な行動の芽を摘もうとするものであろう。ともかく一連の施策はインフレで生活水準の悪化に不満を持つ(それでも非産油国から見れば格段に恵まれていることは間違いない)勤労者階級と、就職難にあえぐ(と言っても給与とポストを高望みしているにすぎない)若者、それぞれを懐柔するためである。

(2) バーレーン
 石油収入の少ないバーレーンはバラマキのための財源が乏しいが、それでも激化するデモを鎮めるため全所帯に1千ディナール(邦貨約21万円)の現金給付を行うことを発表した(2月11日)。しかしこの金額は1カ月近く前にクウェイト政府が行った同様の政策(下記参照)に比べてかなり見劣りがし、多数を占めるシーア派住民の満足するところではなかったようである。

(3) クウェイト
 クウェイトはシーア派が人口の20-25%を占めておりバーレーンに次ぐ比率である。同国は自由選挙による議会制度が機能しておりGCCの中で最も民主的な国家との評価を得ている。しかし首長が首相の任免権及び法律の拒否権を持っており、サバーハ家内閣と野党議員が多数を占める議会は対立しており常に政情が不安定である。このため首長或いは首相は国民大衆に対しこれまでも種々の「アメ」を与えてきた。

 今回も政府は全国民に1千KD(約30万円)と14カ月分の無料の食料を支給した(1月17日)。これは独立50周年、湾岸戦争20年の記念と言う名目であったが、チュニジア、エジプトと続く政変に恐怖を抱いたサバーハ家が打った布石であることは言うまでも無い。1990年のイラク侵攻の記憶が生々しいサバーハ家は内外の政治情勢に対して極めて敏感なのである。

(4) オマーン
 オマーンは今回のMENA政変でバーレーンに次いで大きな影響を受けているが、これは同国がGCC6カ国の中でバーレーンと同様国家規模の割に石油・天然ガス収入が少ないことと無縁ではなかろう。
 カブース国王に対する国民の人気は高くバーレーンのような王制打倒の動きは見られないが、若者の失業率は高く物価高とインフレで国民の不満が高まっている。このため同国でも最低賃金の保証(2月15日)に始まり、5万人の雇用及び月額150リアルの失業手当支給(2月27日)、さらには食料品に対する補助金追加(3月20日)などの大盤振る舞いが打ち出されている。

(5) UAE、カタール
 このような中でUAEとカタールはUAEが米、パンに対する補助金を打ち出した(3月10日)以外は特に目立ったバラマキ行政は行っていない。国民一般が既に十分石油の富を享受しているためであろう。両国の場合は次項に触れるように「民主化」という名の政治的な餌を見せることに重点を置いているようである。

(続く)


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(サウジ)不法滞在者、猶予期間後も10~15万人
(クウェイト)津波のような砂嵐襲う


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2011年03月25日

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