2011年08月

2011年08月31日

(注)本レポートは「前田高行論稿集 マイ・ライブラリ」で上下一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0196Libya.pdf

3.外国の勝ち組と負け組
 かつてのイドリス王朝時代はリビアの石油操業はオクシデンタル、シェブロン、イタリアのENIなどの国際石油企業(IOC)が担っていた。しかし1969年にカダフィ大佐が軍事クーデタで権力を握ると、彼は国際石油企業と対決(1971年トリポリ協定)、1973年にはついに石油企業を国有化した。以後、IOCは単なる操業請負企業に甘んじることとなる。この間隙をついてリビアに進出したのが社会主義国のソ連であり、最近では世界中で石油買い付けに走りまわる中国であった。


 内戦が終結しまず最初に求められているのが経済再建の鍵となる石油産業の復旧である。国民評議会(TNC)の勝利はNATOの空爆に負うところが大きいことは言うまでも無い。NATO空爆を主導したのは英国とフランスなどの西ヨーロッパ諸国であるが、彼らの意図がカダフィ政権崩壊後のリビアの石油権益にあることは誰も疑わない。


 その先陣を切ったのがかつてリビアを植民地支配していたイタリアである。イタリアは現在も石油・天然ガスの多くをリビアから輸入しており、両国間には地中海を横断するガス・パイプラインがある。イタリア国営石油会社ENIは内戦終結と見るやすぐさま調査団をリビアに派遣した。フランティニ伊外相は、ENIこそ将来のリビア石油産業を担うNo.1企業である、と国営テレビで宣言した。イタリアはまさに火事場泥棒的にリビアの石油産業に食い込もうとしているように見える。フランスはと言えば大国の風を装い平和の使者のごとく振る舞っているが、本音は原発、鉄道、水などの大型インフラプロジェクトと武器輸出と言った大きなビジネスチャンスを狙っているのであろう。


 但しイタリアにとってもバラ色の話ばかりではなさそうだ。今後荒廃したリビアから大量の経済難民が発生することが考えられる。彼ら難民はリビア本土と目と鼻の先の地中海に浮かぶイタリア領ランペドゥーサ島に押し寄せる。この難民問題についてはイタリアのベルルスコーニ首相とカダフィ議長が2009年に結んだベルルスコーニ・カダフィ協定と呼ばれるものがある。これは同島に上陸した難民はイタリアが有無を言わせずリビアに送り返すと言う内容であり、国際人権団体から問題視されている。イタリアは石油と天然ガスは喜んで受け入れても、押し寄せる難民は追い払うつもりなのであろうか。リビア国民に対する人道的支援と言うのが国連安保理におけるNATO空爆の理屈だったことを想起するとイタリアが今後どのような対応をとるのか極めて興味深い。


 そしてもう一つ西欧以外の勝ち組がある。湾岸の産油国カタールである。カタールはアラブ各国がカダフィ政権の帰趨について判断に迷っていた時、いち早くフランスの意向に沿って自国の仏製戦闘機をNATO軍に派遣し、さらには国民評議会(TNC)のために原油の輸出に力を貸し、さらにアラブ諸国の中で最初にTNCを承認したのである。カタールは小国の身軽さとハマド首長の決断でリビア問題の勝ち組となった訳である。


 一方、今回の負け組は中国とロシアである 。紛争解決はカダフィ政権と国民評議会の話し合いにゆだねるべきであるとして両国はNATO空爆に反対し、国連安保理決議は棄権した。カダフィ政権を弱体化させることは自国の利益につながらないと判断したためである。ロシアの関心はリビアへの武器輸出にある。2008年に当時のプーチン大統領がリビアを訪問した際、冷戦時代のリビアの対ソ負債45億ドルを帳消しする見返りとして武器の輸出やベンガジ-シルテ間の鉄道建設等に関する協定を締結している 。同時にロシアはリビアとのエネルギー協力関係を強化することを目論んだが、これはEU諸国がロシアの対抗馬として北アフリカの産油(ガス)国を抱きこもうとする動きをロシアがけん制していると見ることができよう 。


 中国の場合はリビア原油の獲得が目的であることは言うまでも無い。昨年の中国のリビアからの原油輸入量は15万B/D弱で、全輸入量(480万B/D)に占める比率はさほど高くないが 、冒頭に触れた通りリビアの石油埋蔵量は大きく今後の油田開発による増産余力がある。このため中国はカダフィに取り入ってリビアの国内インフラプロジェクトに積極的に食い込んできた。その結果内戦直前の今年初めにはリビア国内で活動する中国企業は75社にのぼり、50のプロジェクトに36,000人の中国人が従事していた 。内戦勃発後、NATO空爆開始と同時にその全てが雲散霧消した。国民評議会(TNC)もカダフィ時代の中国との契約を引き継ぐ意思はなさそうだ。


 ロシアと中国は今回の事件に関する限りは負け組である。しかし国際舞台では勝ち負けのメンバーは刻々変化する。リビアについても勝ち組は植民地・王制時代のイタリア・国際石油企業組から、カダフィ時代にはロシア・中国に変わり、今また西欧諸国・国際石油企業に入れ替わっている。長い歴史で見れば勝ち負けを云々するのは余り意味のないことかもしれない。


 因みに米国政府及び石油企業はリビアにさほど関心はなさそうである。9.11テロ事件以来、米国がイスラム・アラブ諸国に対して理屈抜きで警戒感或いは嫌悪感を持っているためだと考えれば、彼らがリビアに関心を示さない(あるいはあえて無視しようとする)のも納得できるのである。


以上


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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2011年08月28日

(注)本レポートは「前田高行論稿集 マイ・ライブラリ」で上下一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0196Libya.pdf

1.はじめに
 40年以上にわたって北アフリカの産油国リビアを独裁支配してきたカダフィ政権が崩壊しつつある。昨年末に隣国チュニジアで発生し瞬く間にアラブ諸国を席巻したいわゆる「アラブの春」と呼ばれる一連の政変はリビアにも波及した。今年2月以降は首都トリポリの政権側と東部ベンガジに本拠を置く反政権側の「国民評議会(TNC)」との間で激しい内戦を繰り広げたが、英仏を主力とするNATO軍による空爆に支えられた反政権側が6カ月の戦闘の後ほぼ勝利を手中にした。これによって内戦前の160万B/Dから10万B/Dにまで落ち込んでいた石油生産の回復が期待されている。


 巷間では石油の生産・積出設備は大きな損傷を受けておらず政情が安定すれば生産回復は案外早いのではないかと言われている。但しロイターによる専門家アンケート調査では生産量が100万B/Dを回復するには今後1年かかり、内戦前の水準に達するには2年近くかかると言うのが多数意見のようである 。リビアはこれまでも石油(あるいは天然ガス)の開発・生産技術を外国企業に頼ってきたが、今後石油生産を回復し、或いは更なる増産を目指すためには外国の国際石油企業の協力が不可欠である。


2.リビアの石油資源と経済の現状
 BPの統計資料「Statistical Review of World Energy, 2011」によれば、2010年末の同国の石油確認埋蔵量は464億バレルである 。世界1位のサウジアラビア(2,646億バレル)の6分の1であるが、ロシアに次いで世界第8位でありアフリカではトップの埋蔵量を誇っている。同じ年の生産量は166万B/Dでここでは世界18位である(世界一はロシアの1,027万B/D)。埋蔵量を生産量で割った「可採年数」は世界平均の46年を上回る77年であり、同国は世界有数の産油国であると同時に今後の増産に大きな期待を持てることがわかる。


 リビアは面積が176万平方キロメートルと日本の4.6倍の広さであるが国土の大半は砂漠であり人口もわずか6百万人強にすぎない(外務省ホームページより)。同国のマクロ経済をOPECの資料「OPEC Annual Statistical Bulletin, 2010」で見ると、GDP総額は742億ドル、1人当たりGDPは11,300ドルである。これはUAE、クウェイト、カタールなど人口の少ない湾岸産油国に比べてかなり低いが、サウジアラビア(17,000ドル)と肩を並べる水準である。


 輸出は総額463億ドルのうち9割以上を石油と天然ガスが占めており、典型的な天然資源依存型のモノカルチャー経済である。石油と天然ガスは主として欧州に輸出され、見返りに食料品、消費財など生活物資の大半を輸入に頼っており、国内にはめぼしい産業が殆どない。よく引き合いに出されるのが国内初のチョコレート製造工場の話である。工場の完成式にカダフィから招待された外国人記者団が目にしたのは、スイスから輸入された完成品チョコレートが「Made in Libya」と印刷された包装紙で仕上げられていたというものである 。


 豊かな石油収入に支えられ同国は毎年多額の経常黒字を計上しており、資産として蓄えられた余剰資金は1,500億ドルに達すると推定される 。これら資産の一部はReserve Fund(政府系ファンド, SWF)として運用されている。


(続く)


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