2011年09月
2011年09月25日
(注)本レポートは「前田高行論稿集:マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0201GccSwfPart6.pdf
はじめに
デフォルト(債務不履行)の危機が囁かれるギリシャ。7月にStandard & Poors(S&P)とMoody’sはギリシャのソブリン格付けをそれぞれ最下級のCC或いは下から2番目のCaに相次いで引き下げた。両社の格付けはギリシャのデフォルトを宣言したも同然と言える。国債のみならず大量の不良債権を抱えたギリシャ国内の銀行は財務状況が急激に悪化し、新たな資本注入か合併の必要に迫られている。
そのような中で8月末にギリシャ国内二位と三位の銀行の合併が公表され、カタール政府系ファンド(Sovereign Wealth Fund, 略称SWF)のカタール投資庁(Qatar Investment Authority, QIA)が転換社債5億ユーロを引き受けるとの報道が流れた 。カタールは3月に金融不安が取りざたされているスペインの銀行に対し3億ユーロを投資したばかりである 。QIAはこの他にも後述するようにヨーロッパで目覚ましい投資活動を行っている。
湾岸産油国にはQIAのような政府系ファンドが各国にある。最も有名なのはアブ・ダビ投資庁(ADIA)であり、またクウェイト投資庁(KIA)は湾岸で最古の歴史を誇っている。サウジアラビアは独立したSWFを持たないが同国の中央銀行サウジアラビア通貨庁(SAMA)がその役割を果たしている。
筆者は湾岸各国のSWF(以下サウジのSAMAを含めて単に「湾岸SWF」と称する)について、これまで5回にわたりレポートした(http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/SWF.html参照)。最初のレポート「Part I 湾岸産油国のSWFを探る 」(2007.12-2008.1月)は各国のSWFの成立と現状について概要をまとめたものであり、続いて「Part II 投資国(Investor)と受入国(Recipient) 」(2008.4-6月)ではサブプライム問題に見舞われた米国の金融機関と湾岸SWFの関係を分析した。そして湾岸SWFと日本との協力の可能性を見据えて「Part III 湾岸SWFが開く新シルクロード 」(2008.6-8月)を提唱した。
しかしその直後の2008年9月にリーマンショックが発生、そのあおりを受けて湾岸産油国自身もドバイショックに襲われた。加えて原油価格が147ドル(バレル当たり)から一気に30ドルに急落、石油収入を元手とする湾岸SWFは大きな岐路に立たされた(「Part IV 世界金融危機後の湾岸SWF 」(2009.6-8月)参照)。湾岸SWFを含めた世界の投資国と受入国は秩序ある対外直接投資(FDI)を目指して「サンチアゴ宣言」を出した。この間の経緯を取りまとめたものが「Part V 2008年を乗り越えて 」(2009.10月)である。
2010年以降、原油価格は徐々に回復し、WTI原油は今年初めの90ドル(バレル当たり)から5月には110ドルを超え、現在は85ドル前後となっている。この結果湾岸産油国には再びオイルマネーが貯まっている。天然ガスが主体のカタールも例外ではなく日本の福島原発事故の影響を受けて同国のLNGは引っ張りだこである (シェールガスの増産でガス価格が下落している米国は唯一の例外 )。現在のカタールは余剰ドルが溢れ、海外の有望な投資先を漁っている状況である。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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2011年09月24日

・イエメン、サーレハ大統領驚きの帰国。混沌とした情勢。 *
*8/19付け拙稿「イエメン大統領の帰国問題に悩むサウジアラビア」参照。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0195YemenSaleh.pdf
2011年09月23日
(イスラム関連)仏でベール着用の女性に罰金刑。 *

(バハレーン)日揮がガスコンプレッサーステーションのEPC工事を4千万ドルで受注。

*仏では今年4月、公共の場でのニカブ(顔全面を覆うイスラム女性のベール)着用が禁止され、違反者には罰金刑を課す法律が施行されている。
2011年09月22日
(注)本レポート(1)~(4)は「マイ・リブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0200MenaRank15.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その15)
4.MENAの分野別競争力
4-1.分野別競争力(続き)
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/5-15dGciByPillar.pdf 参照)
(9)技術的即応性(Technological readiness)
この分野では世界ランクは21位のイスラエルがMENAトップである。続いてUAE(世界30位)、カタール(同33位)、バーレーン(39位)が世界30位台である。一方、イラン、シリア、アルジェリア、モーリタニア及びイエメンは世界100位以下である。
(日本:25位)
(10)市場規模(Market size)
市場規模の競争力ランクではトルコが17位、イラン21位、サウジアラビア23位、エジプトが27位である。この指標は人口規模と密接に関係しており、MENAの人口大国が上位に並んでいる。これに対してUAE(43位)、カタール(59位)、クウェイト(61位)などの湾岸産油国は一人当たりの購買力は高いが、人口の絶対数が少なく、市場規模の競争力は高くない。
(日本:4位)
(11)ビジネスの洗練度(Business sophistication)
カタールがMENA1位(世界12位)であり、これに続くのがイスラエル(16位)、サウジアラビア(17位)、UAE(23位)である。一方、イラン(92位)、シリア(94位)など経済制裁を受けている国々は、欧米の経営ノウハウの流入が遅れており、洗練度が低く競争力は見劣りすると評価されている。
(日本:1位)
(12)イノベーション(Innovation)
イスラエルは世界6位であり、技術先進国として評価が定着している。同国に次ぐMENA2位はカタール(世界18位)、以下サウジアラビア(26位)、UAE(28位)であり、MENA1位のイスラエルと2位以下の格差は大きい。またエジプト、レバノン、シリアなどは100位以下であり、アラブ諸国はイノベーション分野では後進地域と見なされているようである。
(日本:4位)
4-2.主要国の分野別競争力(レーダーチャート)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/5-15eGciRadarChart.pdf 参照)
MENA諸国のうち主要5カ国(エジプト、トルコ、サウジアラビア、イラン及びUAE)と日本、中国の分野別競争力を比較してみる。ここではこれら7か国を総合世界ランクが近い国同士で上位グループ(日本とUAE)、中位グループ(UAEと中国)及び下位グループ(トルコ、イラン、エジプト)の3つのグループに分け、レーダーチャート図によって各国の競争力の特徴を比較検討する。
レーダーチャート図は最も外側が世界順位1位であり内側の中心は世界150位である。また最上段の総合順位以下時計周りの1から12の数字は各分野を示している。各分野の世界順位を結ぶ輪が各国の状況である。レーダーチャートの輪が外側に広がっているほど世界での順位が高く、また輪の形が円に近いほど各分野で平均した競争力があることを示している。
まず日本(総合世界9位)とサウジアラビア(総合世界17位)を比較すると、「マクロ経済の安定性」がサウジアラビアの世界12位に対して日本は113位の低位にとどまっている。サウジアラビアが無借金体制であるのに比べ、日本は国債の対GDP比率が世界で最も高い200%近くに達することが主な理由であろう。一方、「保健及び初等教育」(日本9位、サウジアラビア61位)或いは「労働市場効率」(日本12位、サウジアラビア50位)などのように人材面では日本が優れている。そして「市場規模」、「ビジネスの洗練度」、「イノベーション」は日本は世界のトップレベルにあり、サウジアラビアは20位前後にとどまっている。
次にUAEと中国を比べると総合順位は27位、26位と拮抗している。12項目のうち5項目で中国の順位はUAEを下回っているが、「市場規模」ではUAEの43位に対し中国は世界2位であり大きく差が開いている。
トルコとイランとエジプトは共に7千~8千万人の人口を有するMENAの大国である。3カ国の総合ランクはトルコ59位、イラン62位、エジプト94位でありエジプトの競争力は他の2カ国より低い。「制度」、「インフラ」の面では3カ国に大きな差は無いが「マクロ経済の安定性」ではイランが27位とも最も高く、トルコ69位、エジプト132位と3カ国で大きな格差がみられる。「労働市場効率」は3カ国とも130位以下で非常に低いが、その一方「市場規模」ではいずれも世界20位前後の高いランクである。
(完)
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