2011年11月
2011年11月26日
2011年11月25日
(注)本レポートは前田高行論稿集「マイ・レポート」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0208FrenchBusinessInME.pdf
5.ハイテク技術の無いメイド・イン・フランス
中東の市街地ではフランス製の自動車や家電製品を見かけることはほとんどない。民生用の先端技術商品ではフランス製品は明らかに見劣りがする。フランスにもルノーやプジョー・シトロエンのような世界的な自動車メーカーがあり、エレクトロニクスメーカーも多々あるが、トヨタ、GM、メルセデスなど日米独の自動車メーカー或いはソニー、サムソンなど日韓のエレクトロニクスメーカーのように世界の隅々のマーケットに浸透している製品は余りない。
フランスにハイテク技術が無い訳ではない。同国が得意とする原発や戦闘機、高速鉄道にはハイテク技術が使われている。問題はハイテク技術が一部の産業に偏っており、また技術の他産業への応用つまり異業種とのコラボレーションが乏しいことではないかと考えられる。Rafale戦闘機の商談でUAE側がエンジンをSafranグループのSnecma社製に、またThales社製レーダーを更に高性能な他社製への変更を要求したが、本体メーカのダッソー社はこれを拒否した、と報じられている 。原発について言えば福島原発の汚染水処理にAreva社が持ち込んだ処理装置はトラブル続きで事故処理の足を引っ張り、結局東芝製に切り替えたと伝えられている。
世界の市場でフランス製の液晶テレビ、スマートフォンなど民生用電子機器はまったく見かけない。フランス国内では国産品が流通しているものと思われるが、海外市場に出回らないのは品質及び価格の面で国際競争力がないからに違いない。国内市場がそれなりの規模であり、フランス人は国産品に対する愛着が強いため、メーカーはそれに安住して過酷な世界市場の競争を避けているとしか思えないのである。中東のスーパーマーケットにはフランスの酪農製品が氾濫しており、フランスはむしろ農業大国と言うべきかもしれない(中東はイスラム圏のため仏の誇るワインはないが)。
但しフランスはハイテク技術で他の欧米先進国や日本、韓国に劣るものの、水・電力の分野では複合的なプラントをシステム全体で運営する優れたノウ・ハウを持っている。水関連の総合企業Veolia Water社は上水道から下水道に至る水処理施設を設計・建設し同時に設備の補修、料金の徴収など複雑多岐な事業を数十年間にわたって請け負う民営化プロジェクトに強みを持っている。同社は今年1月オマーンの水電力省とそのような契約を締結した 。またGDF Suez社は電力・ガスの供給実績では世界2位の規模を誇っており、同じオマーンで日本の双日、四国電力とコンソーシアムを組みIPP(独立発電事業)プロジェクトに取り組んでいる 。
6.イラク、リビアの戦災復興需要が頼り
フランスは中東のビジネス商戦で苦戦している。しかしフランスと中東は歴史的に深い関係で結ばれ、米国や極東の日韓両国よりも地理的に近いためビジネスのつながりは強い。現在フランスが狙っているのは独裁政権が倒れた後、国内の混乱が収束しつつある国々における復興需要である。イラクは2003年のフセイン政権崩壊後も長らく混乱状態を続けていたが、最近インフラ設備の復旧工事に本格的に着手した。これを受けて発電設備や車両製造の世界的メーカーAlstom社は既にバクダッドの地下鉄、ニネヴェの発電所工事などを手掛け、最近ではマンスリーヤの発電プラントを5.5憶ドルで受注している 。また石油分野では国際的企業のTotalが第二次入札でハルファヤ油田開発事業を落札(オペレーターは中国CNPC)、石油・ガスのエンジニアリング企業Technipも近々契約を締結すると報じられている。
カダフィ政権が倒れ民主化の道を歩み出した北アフリカのリビアの場合、フランスはさらに積極的である。そもそもフランスはNATOの空爆を主導したこともあり、政権交代後の復興需要を取り込もうと積極的に動いている。9月初めにはTotal, GDF Suez, Peugeotなど仏の名だたる企業のトップが二千億ドルとも言われるリビア復興需要についてパリで会議を開催した 。リビア新政権の核となるTNC首脳がベンガジからトリポリに乗り込んだわずか6日後の9月半ばには、サルコジ大統領がイギリスのキャメロン首相とともにトリポリを訪問している。
イラクとリビアは治安が完全とはとても言えない。それでもフランスはリスクを覚悟でビジネスチャンスを求めている。ハイテク製品の市場は平和で繁栄した国々であるが、それを持たないフランスは日本とは異なる市場で異なる対応を見せているのである。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
2011年11月23日
(注)本レポートは前田高行論稿集「マイ・レポート」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0208FrenchBusinessInME.pdf
3.GCCの鉄道整備計画に食い込む
フランスのプラントビジネスの強みは官民一体の体制を組んでいることである。しかも大統領が率先して受注活動を行うのが特徴である。米国や日本も国策に沿った大型案件では政府が協力するが、あくまでも民間企業を後押しすると言う姿勢が強い。受注獲得を目指す企業が孤軍奮闘しているのが日本のプラントビジネスの実情である。
但し石油化学などモノづくりの合弁事業の場合、中東各国は国内市場が小さく、また海外に販売ルートがないため、国内消費量を上回る製品の引き取り義務を外国側パートナーに課する例が多い。日本の場合は総合商社がメーカーと組んでプラントの建設及び製品販売の両方を行うことが可能である。しかしフランスはその面が弱い。
原発による電力或いはここで触れる鉄道建設などはそのような制約がなくフランスにとって取り組みやすい案件である。しかもこれらの案件では政治力がものを言う。この点はフランスのお箱である。フランスが原発と鉄道商談に力を入れるのはこのような理由からである。但し鉄道建設のうち貨物専用鉄道や貨客併用の在来型など技術力を余り必要としない通常のプロジェクトは中国、韓国などコスト競争力が高い国が有利でありフランスの出番はない。フランスが目指すのは高速鉄道や大都市のモノレール、トラム(地下鉄)のような技術力と設計施工実績がものを言うプロジェクトである。
GCC諸国には鉄道プロジェクトがいくつかある。サウジアラビアの場合は西海岸の「巡礼鉄道」(ハラメイン高速鉄道)及びリヤドージェッダ間の鉄道プロジェクト(ランドブリッジ鉄道計画)がある。カタールとバハレーンには海上橋「フレンドシップ・コーズウェー」を経由して両国の首都を結ぶ高速鉄道計画がある。さらにペルシャ(アラビア)湾沿いにGCC6カ国を貫通する鉄道プロジェクトも計画されている。フランスはこれら全てに計画段階から関与しており、プロジェクトの受注を狙っている。
しかしこれまでのところフランスはいずれのプロジェクトについても受注できていない。サウジアラビアの「巡礼鉄道」については先月末、スペインの企業連合が落札した。同じサウジアラビアの「ランドブリッジ鉄道計画」は近く受注企業が決定する見込みである。但しこの鉄道は在来型に近くTVGのような高速専用型ではないためコスト勝負となり仏企業連合は苦戦を強いられる。
残るカタール-バハレーン鉄道は昨年6月に海上橋建設計画の凍結が報じられ、鉄道工事の入札も宙に浮いたままである。さらに今年春バハレーンで騒擾事件が発生したため、建設資金の大半を負担するカタールは自国への波及を恐れ鉄道建設計画の実現は遠のいた感がある。GCC貫通鉄道についてはGCC首脳会議で前向きな発言もあるが、もともとプロジェクトの採算性が大きな問題であり、現在のような景気低迷下では計画が先送りされる可能性が高い。いずれにしてもフランス企業が近い将来GCC諸国の鉄道プロジェクトを受注できる見通しは暗いと言えよう。
4.Rafale戦闘機の売り込み
RafaleはMirageの次期戦闘機として開発されたものである。MirageはUAE及びカタールに納入されている。因みにカタールはNATOの対リビア空爆作戦に自国のMirageを提供している。フランスは国威をかけたRafale戦闘機を世界各国に売り込んだが、米国のボーイング、ロッキード及び英国のBAE(ユーロファイター)の牙城を切り崩すことができず、未だに1機も輸出できないままである。国防予算が潤沢でMirageの納入実績があるUAEとカタールに対しフランスは猛烈なセールスをかけたのである。
アブダビのルーブル美術館分館建設は原発と戦闘機受注のためのフランスの手土産であることは先に述べたが、フランスはこれに加えてもう一つの手土産を用意した。2008年1月、サルコジ大統領はUAEを訪問、原発協力と合わせて軍事協力協定 を締結し、翌年5月には500人規模の仏海軍基地を開設したのである 。アラビア(ペルシャ)湾にはこれまで米国がカタール(ウデイド空軍基地)、バハレーン(第5艦隊基地)及びクウェイト(イラク後方支援基地)に基地を設けているが、米国以外ではフランスのUAE海軍基地が初めてである。
アラビア(ペルシャ)湾対岸のイランは宗教がイスラム教シーア派であり、かたやGCC諸国はスンニ派が多数を占めている。そしてイランは宗教指導者による共和制であるのに対してGCC諸国は君主制国家であり、イランのような民衆革命を最も恐れている。このようにイランはGCC諸国にとって常に脅威の的である。GCCは経済力こそあるものの国防能力はイランに劣る。そのためGCCはアラビア湾の防衛体制を欧米に依存せざるを得ないのである。さらにUAEの場合はアラビア湾の3島を巡るイランとの領有権争いを抱えている。そのような地域情勢であるが、米国はペルシャ湾から太平洋にシフトしようとしており、フランスはUAEの後ろ盾となることをアピールし自国の戦闘機(及び兵器)を売り込む絶好のチャンスなのである。
2008年7月、UAEは現有のMirage 60機をRafaleに代替することを真剣に検討中である、と表明したが、1年後の海軍基地開設時も態度を明確にしなかった 。そしてついに今月半ばアブダビのムハンマド皇太子はRafale戦闘機メーカのダッソー社の提示条件は「話にならない(unworkable and uncompetitive)」とこき下ろした。交渉の過程でUAE側はもっと強力なジェットエンジン及び高性能なレーダーシステムに取り換えるよう要求したが、ダッソー社がそれを拒んだと言われ、UAEの当局者はダッソー社の態度が傲慢である、と非難した 。
UAEはRafaleの強敵Typhoonのメーカー英BAE社を呼びつけて交渉を始めた。但しムハンマド皇太子はダッソー社を非難しているもののサルコジ大統領の指導力は称賛している。UAEは大統領が外交的、政治的な決断をすることを期待しているようである。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp