2012年02月

2012年02月25日

2012年02月24日

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0225KuwaitCrisis.pdf

1.はじめに
 今月2日、クウェイト議会の選挙が行われイスラム系の野党連合が定数50議席のうち7割近くの34議席を獲得し圧勝した。イスラム主義勢力の躍進はチュニジア、エジプトなどに続く動きであり、昨年中東・北アフリカ(MENA)地域に吹き荒れた「アラブの春」の余波を受けたものであることは間違いない。しかし選挙結果には他国に見られないいくつかの同国特有の事情も見られる。


 クウェイトには他のGCC諸国には見られない近代的な議会制度があるとはいえ、社会そのものは今も部族単位で成立している。同国を支配するサバーハ首長家は最大部族の一つであるが、歴史的な経緯があり権力基盤は強くない 。それぞれの部族は宗教面ではサバーハ家などアラビア半島から移住してきたスンニ派とイラク南部やイランから移住してきたシーア派に分かれている。人口に占める宗派の比率はスンニ派が7割を占め、3割前後のシーア派は少数派である。


 このため選挙はスンニ派とシーア派の各部族による組織選挙の様相を呈する。クウェイトでは政党が認められていないため政治信条に基づく立候補者(女性を含む)は孤軍奮闘を強いられる。こうして冒頭に述べたように選挙結果は大部族のスンニ派議員と少数部族のシーア派議員のイスラム系議員が多数を占める。そして都市部の浮動票により少数の民主改革派議員や中立的な議員或いは女性議員が当選するという図式である。


 一方、行政府のトップである首相は首長が指名し(国民の直接投票或いは議院内閣制ではない)、内閣の主要ポストはサバーハ家の有力王族が独占している。その結果、国会と内閣は殆ど対話のないまま宿命的な対立を続け、さらに国会内部でもスンニ派部族とシーア派部族が瑣末な問題で対立して国政は救いようのない停滞に陥る。このような状況は1960年の国会開設以来繰り返されてきた歴史であるが、昨年の「アラブの春」騒動以来その傾向が一層強くなり、国政の混乱は収拾不能な様相を呈している。


 しかし石油価格の高騰により同国の財政は大幅な黒字であり経済面では全く問題は見当たらない。議員は政府の揚げ足を取って支持者に媚を売り、一方のサバーハ家政府はバラマキ行政で国民の歓心を買うことに余念がない。それでも財政がびくともしないのは豊富なオイルマネーのおかげである。全ての不満をカネで解決しているのである。

今のクウェイトは石油があるがために却ってスポイルされている。石油の海に溺れ、国家の行く末を見失っているのが現在のクウェイトである。


2.5年半で総選挙4回、内閣改造7回
 国会は昨年12月に首長によって解散され(クウェイトでは国会の解散権は首長にある)今月初めに総選挙が実施された。サバーハ現首長が即位した2006年以来解散総選挙は4度目である。つまりほぼ毎年選挙を行う異常事態が続いている。原因は議会と政府が抜き差しならない対立状態にあるためである。首相の指名権は首長にあり、その首相が閣僚の任命権を握っているためクウェイトの内閣は首相以下内相、国防相、外相など有力閣僚ポストはサバーハ家の王族が独占している。一方の議会は成人男女による普通選挙で選ばれた議員で構成される。彼ら議員の殆どは国内各地の部族或いはイスラム教の宗派(スンニ又はシーア)の後押しで選出され、サバーハ家とは無縁である。このため政府と議会は宿命的に対立するのである 。


 このような対立は議会制度発足以来続いているが、近年国民の政治意識が高まるとともに支持母体の選挙民を意識した議員が王族閣僚或いは首相本人の弾劾決議を提出するケースが多くなった。非サバーハ系議員が多数を占める国会では弾劾議案が上程されると可決されることはほぼ間違いない。そのため首相は弾劾の対象とされた王族閣僚を自発的に辞職させ、首相自身の弾劾に対しては首長が国会を解散するのである。このためわずか5年半で4回も国会が解散したのであるが、過去3回の解散では総選挙後にその都度サバーハ首長はナーセルを首相に再任した。この結果5年半の間にナーセル首相は閣僚の交代を含め実に6回も組閣しているのである。つまり内閣の平均寿命は1年に満たない。これは他のGCC各国には見られない極めて特異な状況なのである。


(続く)


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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drecom_ocin_japan at 11:11コメント(1)トラックバック(0) 
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