2012年03月

2012年03月21日

 Eco_Sabic
   

上の写真は去る2月26日、三井化学がサウジアラビアのSABIC(サウジ基礎産業公社)と技術供与契約に調印した時の模様である 。契約の内容は三井化学がポリウレタンの基礎原料であるTDI及びMDIの製造技術をSABICに供与するというものである。同社のプレスリリースによれば2013年までに合弁事業の可否を判定、2016年にプラント運転開始にこぎつけたいとしている。三井化学はSABICとの事業で安価な原料をベースにした競争力のある製造拠点を確保し、世界における生産体制を再編する計画である 。


サウジアラビアの石油化学分野では既に三菱商事を中核とするサウディ石油化学(SPDC)及び住友化学によるラービグ・リファイニング・アンド・ペトロケミカル・カンパニー(PetroRabigh)が操業中であり、今回の三井化学の案件と合わせ三菱、三井、住友の三大財閥が出揃ったことになる。


1970年代に日本の石油化学産業は海外展開を目指したが、その最大の理由は二度のオイルショックによる石化原料の高騰であった。日本国内の石油化学工業は千葉、四日市、水島などのいわゆる「石油化学コンビナート」に立地し、製油所が生産するナフサを原料として操業している。そこでは製油所の主力製品はガソリン、軽油等の燃料であり、ナフサはあくまでも副産物であった。しかし1973年と79年の二度のオイルショックで原油価格は10倍以上に値上がりし、それに伴ってナフサの価格も上昇したため、石油化学製品は国際競争力を失った。


このため三大財閥は商社を核として海外進出を図ったのであるが、この時各財閥はそれぞれ異なる道を歩む。三菱と三井は原料の安価な中東産油国を目指し、住友は将来の市場の成長性を見込んでシンガポールに進出を図った。三菱と三井は相手としてサウジアラビアとイランを選んだのであるが、これが両者の明暗を分けた。


サウジアラビアに進出した三菱グループはエチレン、エチレングリコール、ポリエチレン等を生産する合弁企業SHARQをSABICと設立し、1985年にアラビア(ペルシャ)湾沿岸のジュベールで生産を開始した。SHARQはその後数度の設備拡張を経て現在に至っている。一方の三井グループは1973年にイラン・ジャパン石油化学(IJPC)を設立、イラク国境に近いバンダルシャプールで建設工事に着手した。しかし建設工事がほぼ完成に近付いた1979年にイラン革命が発生、建設工事は中止に追い込まれた。悪いことは重なるものでイラン・イラク戦争がこれに追い打ちを掛け、結局完成を目前にして三井は撤退した。日本政府から保険金を受け取ったものの、三井グループの心理的ダメージは大きかった。筆者はサウジアラビア駐在当時、三井物産の関係者から「中東での石油化学事業の話は社内ではタブーだ」と何度も聞かされた経験がある。IJPCは三井グループのトラウマだったのである。


シンガポールに進出した住友化学はそのような影響を受けなかったが、原料コストが勝負である石油化学産業ではシンガポールはいかにも中途半端だった。2005年に米倉社長(当時、現経団連会長)の英断により、国営石油会社サウジ・アラムコと組み、紅海沿岸のラービグに石油精製と石油化学の巨大コンビナートを建設、2009年に操業にこぎつけた。


三つのグループのサウジアラビア進出形態を比べると微妙に異なることに気が付く。三菱が石油化学公社SABICとのオーソドックスな合弁事業であるのに対し、後発の住友の相手は国営石油会社アラムコである。最後発の三井の相手は三菱と同じSABICであるが、まずは技術ライセンスの供与から始め経済性を検討した上で合弁事業に進むか否かを決めるとしている。


住友と三井はSABICに対してシビアな評価をしたと考えられる。1970年代のサウジアラビアでは石油の生産と精製はアラムコ、石油化学はSABICとはっきり分けられていた。そのため三菱はSABICと組む他なかった。しかし石油化学産業の独占に胡坐をかいたSABICはパートナーの外国企業に対して傲慢とも言える態度をとるようになり、また製品市況によって引き取り条件がSABICの恣意に委ねられるなど契約条件がパートナーに不利な点が少なくなかった。このためSABICがその後ファインケミカルなど新たな石油化学分野に乗り出そうとしても欧米企業は相手にしなかった。設立以来40年近く経った今もSABICの製品がポリエチ、ポリプロなどの汎用樹脂に限定されているのはそのためである。同社は売上や利益では世界のベストテンに入るが、化学企業としては中味の無いいわば「ウドの大木」にとどまっているのである。住友がアラムコと組み、また今回三井が技術供与からスタートするのもそのような理由からである。


最近、日本の産業界では財閥意識が薄れている。例えば銀行損保部門では三井・住友が一本化し、また住友金属が新日鉄と合併するなど財閥の垣根は崩れつつある。しかし筆者が社会人になった頃は三大財閥が高度成長と海外展開を牽引していた。また筆者自身もこれまでサウジアラビアに深く関与してきた。今回のニュースは二重の意味で誠に興味深いのである。


以上


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2012年03月19日

drecom_ocin_japan at 09:56コメント(1)トラックバック(0) 
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