2015年09月
2015年09月09日
(サウジ)居住ビザ不携行など微罪の外国人は拘留せず:内務省が告知。
(サウジ)自国民より外国人の権利を重視しすぎると諮問評議会が労働省を批判。
(サウジ)中国・華為(Huawei)、ダハラン・テクノ・バレーにイノベーションセンター設立。石油・ガス技術開発でHoneywell、横河電機等と共同研究。
(アブダビ)世界銀行グループの国際復興開発銀行が事務所開設。
(バハレーン)国王訪仏。エアバス50機の商談、来年1月の航空ショーで発表の予定。
(イラン)オーストリアが自動車部品など8千万ユーロを契約。経済制裁解除後、西側で初。
*日本郵船プレスリリース参照:
http://www.nyk.com/release/3560/004058.html
2015年09月08日
(注)本レポート(1)~(8)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0354SaudiKingSalman.pdf
8.米国にすがるほかないサルマン
9月4日、サルマン国王は即位後初めて米国を訪問、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談した。会談にはバイデン副大統領、カーター国防長官、ケリー国務長官など大物が顔をそろえ、対するサウジ側は息子で副皇太子兼国防相のムハンマドの他、国王顧問のアブドルイッラー殿下など腹心の王族並びに財務相、商工業相、外相など主要閣僚が陪席した 。ただエネルギー関係の主要人物、すなわちナイミ石油相あるいは国王の子息のアブドルアジズ石油省副大臣の名前が見当らないことが若干気になるところである。後述するように現在の米国にとって原油価格あるいは安定供給は大した問題ではないからであろうか。
会談でオバマ大統領は「イランに核兵器を持たせない」ことをサルマン国王に保証し、イランの脅威におびえる国王はひとまず安堵したようである。とは言えサウジアラビアにとって軍事的脅威はイランだけではない。隣国イエメンでは反政府勢力のシーア派フーシ勢力およびスンニ派「アラビア半島のアル・カイダ(AQAP)」が優勢を誇っている。苦戦するイエメン政府に対してサウジアラビアはアラブ連合軍を編成して数カ月にわたり空爆を行ってきたが、事態打開の展望が開けないまま空爆による一般市民の被害が拡大しサウジアラビアは苦しい立場に追い込まれている。
さらにシリアとイラクにまたがって勢力を拡大しつつある「イスラム国」はインターネットを使った巧妙なソシアルメディア戦術で周辺諸国の為政者を脅かしている。サウジ国内で「サウジアラビアのイスラム国」を名乗る過激派組織が出現しないとも限らない。もちろん「イスラム国」は世俗勢力「サウド家」の「アラビア」を認めるはずはないので、おそらく「アラビア半島のイスラム国」とでも名乗るつもりであろう。世俗王政国家サウジアラビアの弱い下腹部を狙うイスラム過激思想の侵入はサウド家にとって最も厄介な問題であろう。サウジ政府は金に糸目を付けず軍備と最新ハイテク技術を導入して国境の防衛体制および国内の治安体制を強化しなければならない。
サルマン国王は米国・イランの核合意をむしろ苦々しく思っており、それが証拠にオバマ大統領が5月にGCCサミットを呼びかけた時、皇太子および副皇太子を派遣し自らは欠席した。息子の副皇太子をロシアあるいはフランスに派遣し、両国大統領と会談させたのも米国への当てつけと言えなくもない。しかしサミットのわずか3か月後のサルマン自身の訪米は、彼の対米外交の迷走ぶりを示している。
これは今のサウジアラビアが米国に縋り付く他ないと言う事実を明白に物語っている。かつて世界が、そして米国自身がサウジアラビアの石油に依存して時代、サウジアラビアは石油戦略によってある程度米国と対等に渡り合えることができた。しかし米国内でシェール・ガスおよびオイルの生産が急増している。国際石油会社BPのデータをもとに試算すると、昨年の米国の石油と天然ガスの自給率は61%および96%であり、両者を合わせた自給率は75%に達する 。2007年の自給率は51%であったからシェール・オイルおよびガスが米国の自給率を劇的に変化させつつあることがわかる。米国の石油の輸入先は中南米、アフリカ西海岸など環大西洋諸国に移り、遠隔地のサウジなど中東地域は対象外となりつつある。米国はもはやサウジアラビアの石油を必要としなくなっており、エネルギーに関する両国の力関係は180度変化したのである。
さらに米国は地政学的な軸足を中東から環太平洋地域に移している。サルマン国王は中東紛争を調停してくれる域外の国としてロシア、フランスに色目を送ったが、この2か国にそのような能力が無いことは明らかである。ロシアは米国と対抗するためだけにサウジに玉虫色のシグナルを送り、かたやフランスは旧植民地のシリアなどレバント諸国の混乱には見て見ぬふりで、難民問題にも及び腰である。
サウジアラビアは米国のロッキード・マーチン社からフリゲート艦2隻など10億ドル相当の兵器を買い付けるようである 。サウジアラビアは世界第5位の兵器輸入国であり、米国の国防産業の最大の顧客である。サルマン国王が米国と対等に話ができるのはこの点だけであり、その他については米国にすがる他ないのである。
上記以外でサルマン国王がもう一点米国にすがるとすれば、それは息子ムハンマド副皇太子のことではないだろうか。余命が長くないサルマンにとって若いムハンマドを次々期の国王にすることは悲願である。それは例えて言うなら豊臣秀吉とその子秀頼の関係である。秀頼は秀吉57歳の時の子であり、秀吉は死の間際まで秀頼の行く末を案じていた。サルマンもきっと心の中で叫んでいるに違いない。「ムハンマドをよろしくお願いする!」と。
以上
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