2016年09月
2016年09月12日
2016年09月08日
(MENAなんでもランキング・シリーズ その3)
5.主な国の要素別開発指数の比較(レーダーチャート)
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/3-G01.pdf 参照)
ここでは総合指数及びそれを構成する三つのサブ指数(オンライン・サービス、通信インフラ、人材)についてイスラエル、GCC6カ国及びトルコ、エジプト、イランの10カ国、並びに日本、米国及び中国を加えてレーダーチャートで比較する。
これら13カ国をその指数レベルに応じて便宜的にAグループ(高度開発国:イスラエル、日本及び米国)、Bグループ(GCC6カ国)及びCグループ(低度開発国:トルコ、エジプト、イラン及び中国)の3グループに分けレーダーチャートで表示した。
レーダーチャートは例えばAグループの場合は最も外側が1.0000、中心は0.6000であり、各国の評価は総合指数と3つのサブ指数を結ぶ四角形で表される。四角形の各点が外側にあるほどその国の開発度が高いことを示しており、また4点を結ぶ形状が正方形に近いほど開発の均整が取れていることを示している。なお指数の表示範囲はAグループが最外周1.0000、中心部0.6000であり、Bグループは0.9000~0.5000、Cグループは0.8000~0.2000である。
(1) Aグループ(高度開発国:日本、米国及びイスラエル)
日本は総合指数(0.8440)が米国(0.8420)とほぼ同じであるが、通信インフラ指数は0.8277で米国の0.7170、イスラエルの0.6175を大きく引き離している。その一方、人材指数は0.8274にとどまり米国(0.8815)及びイスラエル(0.8619)より低い。イスラエルは総合指数が0.7806で3カ国中最も低い。
(2) Bグループ(GCC6カ国:サウジアラビア、UAE、カタール、クウェイト、オマーン、バハレーン)
GCC6カ国はMENA19か国の中ではイスラエルについで2位から7位まで上位を独占している。6カ国の順位はバハレーン、UAE、クウェイト、サウジアラビア、カタール、オマーンの順番であり総合指数はバハレーンが0.7734で最も高く、最も低いオマーンは0.5962である。
分野別でみるとオンライン・サービスはUAEが最も高くこれにバハレーンが続いている。両国は指数が0.8000以上であるが、その他の4カ国は0.6000前後であり大きな格差がある。通信インフラに関してはバハレーンの0.7762が最も高く、次いでクウェイト(0.7430)、UAE(0.6881)、カタール、クウェイトと続き、オマーンが最も低い0.5147である。比較的6カ国の格差が少ないのは人材指数であり、サウジアラビアの0.7995に対してカタール、クウェイト及びバハレーンも指数0.7000台である。6カ国の中で最も低いのはUAEの0.6752となっている。
(3) Cグループ(低度開発国:トルコ、エジプト、イラン及び中国)
地域の大国であるトルコ、エジプト及びイランはE-Government開発指数に関しては中国とともに開発度の低い国といえる。4カ国の各指数に大きな差異はなく、総合指数では中国が0.6071、トルコ0.5900であるが、イラン(0.4649)及びエジプト(0.4594)は若干見劣りがする。オンライン・サービス指数は中国の0.7681が4カ国中で最も高く、トルコ、エジプト及びイランの順であるが、各国ごとの格差は大きい。これに対して通信インフラ指数は4カ国とも0.3000台と世界水準からは大きく見劣りする。人材指数はトルコの0.7910が最も高く、イラン(0.7101)、中国(0.6860)と続きエジプト(0.6048)が最も低い。
以上
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第4章:中東の戦争と平和
8.ナクバの東
イスラエルの独立を賭けた第一次中東戦争でアラブが惨敗したため、アラブ諸国ではこの戦争のことを「ナクバ(大災厄)」と呼んでいる。その最大の被害者はパレスチナに住んでいたアラブ人、すなわちパレスチナ人であった。戦争終結後の数年間で約75万人のユダヤ人が世界各地からパレスチナに流れ込んだが、それとほぼ同数のパレスチナ人が難民となって国外に押し出された。その後の中東戦争でも多数のパレスチナ難民が生まれ、難民の総数は世界全体で1千万人と言われるが、その多くは東の隣国ヨルダンに逃れたのである。ヨルダンが「ナクバの東」という訳である。
しかしもともと貧しい国であるヨルダンではパレスチナ難民の暮らしは苦しく、彼らの多くはそのころ石油ブームが始まったばかりのクウェイト、サウジアラビアなどの湾岸アラブ産油国へ移住した。彼らはナクバの地パレスチナからヨルダンを経てさらに東へと移動していったのである。湾岸産油国で彼らは重宝がられた。同じアラブの同胞、共にアラビア語を話す容易な意思疎通、宗教はイスラーム、宗派も同じスンニ派。そしてサウジアラビアやクウェイトがなによりも重宝したのはパレスチナ人の学力の高さであった。
湾岸諸国では外国から来る出稼ぎ者を「ゲスト・ワーカー(客人労働者)」と呼び、自らを「ホスト国」と称した。アラビア語で日常会話をし、金曜日にはモスクで一緒に礼拝するパレスチナ人出稼ぎ者は地元では最良の「ゲスト・ワーカー」だった。ただし「ゲスト(客人)」という言葉の響きに惑わされてはならない。石油の富の分け前を求めてこの国にやってくるパレスチナ人はあくまでも出稼ぎ労働者に過ぎない。だからパレスチナ人たちは冷遇される。時には自らを棚に上げてパレスチナ人を罵倒する者もいる。子供たちもそれを真似て理由もなくパレスチナの子供たちをいじめる。
しかしパレスチナ人たちはじっと耐え忍ぶしかない。ここでは故郷の数倍の給料がもらえるが、身分は不安定で、雇用主の気分次第で簡単に首にされ国を追い出される。出稼ぎはまさに現代の奴隷制度である。
ただ出稼ぎは移民と異なることを指摘しておく必要があろう。移民は他国から移住してその国の市民権を取得した人々である。社会的差別があるにしても移民は本来の国民と同様の政治的権利を持ち、社会保障を受ける権利を有する。しかし出稼ぎ労働者にはそのような権利は与えられない。
パレスチナ人は明らかにクウェイトやサウジアラビアの国民よりも学問があり、経験豊かで礼儀正しかった。それでも出稼ぎという現代の奴隷制度のもとでは彼らは屈辱に耐えて働き続けるほかなかった。彼らは毎月の給料の大半をひたすら故郷に送り続けた。いずれ退職してヨルダンに帰ったときにアパートを建てて家主になるか、或いは小さな店を開いて自営業者になることが彼らの夢だったのである。
彼らは子供たちに大学教育をつけてやることにも熱心であった。流浪の難民が他国で生きていくためには人並み優れた知識や専門技術が必要だったからである。クウェイトで働くシャティーラ家とアル・ヤーシン家はそれぞれ教師と医師であったため、人一倍教育熱心であり、シャティーラ家では苦しい家計をやりくりして次男を米国に留学させた、サウジアラビアの石油会社で働く長男のシャティーラも給料の何がしかを弟の学費の足しにと父親に渡した。彼らは弟が米国の大学を卒業し市民権を取ってくれることを期待した。そこには万一、中東での生活が危うくなったとき、米国に移住しようという思惑もあったのである。
ただ父親自身はトゥルカムに戻る希望を失っていなかった。彼には故郷の町で私塾を開き子供たちに学問を教えて余生を過ごしたいという夢があった。彼はクウェイトでの教師として定年を迎えた1970年代末にクウェイトを離れ、ヨルダンに戻った。シャティーラ家と前後してアル・ヤーシン家も娘のラニアをカイロのアメリカン大学に留学させると、それを機にヨルダンに戻った。こちらは医師の免許があるのでヨルダンに永住する覚悟を決め、パレスチナ国籍からヨルダン国籍に変更した。1970年の「黒い9月」事件以後、パレスチナの政治組織PLOはレバノンに移り、ヨルダンはフセイン国王の下で平穏な情勢であった。湾岸諸国に移住したパレスチナ人たちはいろいろな思惑を胸にヨルダンに戻ったのである。「ナクバ」の地パレスチナから東へ東へと移動したパレスチナ人は再び西へ移動し、ヨルダンでパレスチナに帰還できる日を待ちわびたのであった。
(続く)
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荒葉一也
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2016年09月06日
(MENAなんでもランキング・シリーズ その3)
4.要素別開発指数
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/3-T02.pdf 参照)
E-Government開発指数は(1)Online Service(オンライン・サービス), (2)Telecommunication Infrastructure(通信インフラ)及び(3)Human Capital(人材)の3つの分野で構成されており、それらを総合した世界193カ国あるいはMENA19か国の順位はすでに説明したとおりである。本項では各国の3分野の指数及びMENAの順位を概観する。
(1) Online Service(オンライン・サービス)
オンライン・サービスの開発指数がMENAで最も高いのはUAEの0.8913である。この分野では総合世界11位の日本(指数0.8440)、同12位の米国(同0.8420)を上回っている。オンライン・サービスでUAEに続いて高いのはイスラエル(指数0.8623)及びバハレーン(同0.8261)が0.800台であり、0.700台はモロッコ及びチュニジアの2カ国である。指数が0.600台の国はサウジアラビア、クウェイト、カタールのGCC3か国及びトルコである。MENAの平均は0.5267であり、イラン、エジプト、イラク等7カ国は指数が0.500未満で開発度が低く、特にアルジェリアの開発度は0.100未満となっている。
(2) Telecommunication Infrastructure(通信インフラ)
通信インフラの開発度が高い国はバハレーンとクウェイトが指数0.700台であり、UAE、イスラエル、カタールの3か国が0.6000台であるが、その他のMENA各国は0.500台以下であり上位2カ国との格差が大きい。因みに日本は0.8277であり、英国、米国よりも高く、バハレーンあるいはクウェイトをかなり上回っている。
UAEはドバイが先端インフラを備えた都市としての評価が高いが、通信インフラに関しては開発指数は0.6881であり必ずしも欧米先進国の水準には達していない。MENAの平均値は0.4325であるが、アルジェリア、イラク、イエメンはこの水準を大幅に下回る0.1000台である。因みに中国の指数は0.3673でMENAではトルコとエジプトの中間に位置している。
(3) Human Capital(人材)
人材面で高い評価を受けているのはイスラエル(指数:0.8619)であり日本より高く米国をやや下回る水準である。この分野で世界最高レベルにあるのは英国(指数:0.9402)である。イスラエル以外のMENA各国の指数は低く、同国に続くサウジアラビアの指数は0.7995である。ただしこの指数は他の二つの指数に比べ世界的な格差が比較的小さく、MENAの平均値は0.6624となっている。
(続く)
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