2016年10月

2016年10月26日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0391ImfWeoOct2016.pdf

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米国のGDPは全世界の4分の1!)

3.2016年の各国の名目GDP

(http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-B-2-09.pdf 参照)

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-B-2-02.pdf参照)

IMFでは今年の世界の名目GDP(at Current Price)総額を75兆ドルと推定している。地域別ではEUが17兆ドル、全体の22%を占めている。またASEAN5か国は2.1兆ドル(全体の2.9%)MENA地域は3.2兆ドル(同4.2%)である。

 

国別では米国が世界トップの19兆ドルで全世界に占める割合は25%、同国一国だけで世界のGDPの4分の1を生み出している。米国に次ぐGDP大国は中国の11兆ドルであり世界全体の15%を占めている。この2か国が世界でも突出している。第3位は日本(4.7兆ドル)であるが、米国の4分の1あるいは中国の4割にとどまっている。EUの経済大国ドイツのGDPは3.5兆ドルであり、EU全体の5分の1を占めている。その他の主な国を見るとインドは2.2兆ドル、韓国1.4兆ドル、ロシア1.3兆ドルなどである。

 

MENA17カ国(エジプト、シリアを除く)の中で2016年の名目GDPが最も大きい国はトルコの7,360億ドルであり、サウジアラビアが6,380億ドルで続いている。この2カ国がMENAの合計GDPに占める比率はそれぞれ21%と18%であり、両国はMENA諸国の中では突出している。第3位はイランの4,120億ドル、第4位UAE(3,750億ドル)はいずれもトルコ或いはサウジアラビアの半分強にとどまっている。

 

5位以下11位まではイスラエル(3,120億ドル)、アルジェリア(1,780億ドル)、カタール(1,570億ドル)、イラク(1,560億ドル)、クウェイト(1,100億ドル)、モロッコ(1,050億ドル)であり、以上10カ国が年間GDP1千億ドルを超える国々である。UAE、カタール、クウェイトなど人口の少ない産油国がイラン、イラクなど地域の大国とそん色のないGDPを誇っている。

 

GDPが1千億ドル未満の国は、オマーン(600億ドル)、レバノン(520億ドル)、チュニジア(420億ドル)、ヨルダン(390億ドル)、リビア(390億ドル)、バハレーン(340億ドル)、イエメン(310億ドル)である。MENAGDPが最も小さいバハレーン、イエメンはサウジアラビア或いはトルコの20分の1程度である。

 

(続く)

 

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        前田 高行         183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)

 

7.二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」

 20世紀も残すところ10年となった1990年代、米国の二人の政治学者が相次いで発表した著書が大きな評判を呼んだ。1992年に出版されたフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」と1996年に出版されたサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」である。世紀末が近づくと「ハルマゲドン」或いは「ノストラダムスの大予言」など世界の終末をおどろおどろしく語るキワモノが出回るが、「歴史の終わり」と「文明の衝突」は高名な学者による文明論である。但し二人の論調は対照的である。

 

 二つの著書は中東アラブ・イスラム世界だけ取り上げたものではないが、中東は有史以来東西文明の交叉点として歴史に翻弄されてきた。その意味では中東の歴史を見るうえで両書が示唆するところは大きい。


43-1歴史の終わり
  フクヤマは、21世紀の世界は民主主義と市場経済が定着したグローバル社会となり、もはやイデオロギーなどの大きな歴史的対立がなくなる「歴史の終わり」の時代になろう、と予言している。一方、ハンチントンは21世紀の世界は地球規模の一体化という方向ではなく、むしろ数多くの文明の単位に分裂してゆき、相互に対立・衝突する流れが新しい世界秩序の基調になる、というものである。

 

43-2文明の衝突
  ハンチントンは現代の主要文明として西欧文明、イスラム文明、中華文明、ヒンズー文明のほか東方正教会文明、ラテンアメリカ文明及び日本文明の7つを挙げている。通常民俗学、地政学的には極東アジアの範疇に入る日本をハンチントンは独立した文明と捉えていることは興味深い。これら7つの文明の中で西欧文明が最も新しく18世紀の産業革命から始まったものであり、自由主義、資本主義といったイデオロギー(智)を中核としている。

 

これに対してイスラム文明は14世紀のムハンマドに始まる宗教(心の絆)を中核とする文明であり、東方正教会文明も同じくキリスト教文化という宗教に根差した文明である。そして中華文明及びヒンズー文明は世界四大文明とされる黄河文明、インダス文明、エジプト文明、メソポタミア文明のうちの黄河文明及びインダス文明の流れを汲み、民族(血の絆)を中核とする文明と見ることができる。(エジプト文明及びメソポタミア文明は継承するものが無く、考古学上の文明として名を残すにとどまっている。)ラテンアメリカ文明や日本文明もこの民族(血の絆)の文明の範疇に入ると考えられる。ただ現在のわれわれ日本人にとっては「日本文明」という呼称に違和感を覚え、むしろ「日本文化」と言い方が一般化しているようである。

 

 「文明」と「文化」は英語ではそれぞれcivilizationcultureであるが、一般にはほぼ同じ意味で使われている。広辞苑によれば文明(civilization)は「「宗教・道徳・学芸などの精神的所産としての文化に対し、人間の技術的・物質的所産」であり、他方、文化(culture)は「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」としており、文化の方が文明より意味が広いようである。

 

 フクシマの「歴史の終わり」は、ベルリンの壁が崩壊し(1987年)、ソ連が解体して(1991年)世界が米国一強時代になった時代、即ち社会主義・共産主義が駆逐され、自由主義・資本主義がデファクト・スタンダード(事実上の世界標準)になった時代の申し子として生まれた。一方、ハンチントンの「文明の衝突」はイラン革命(1979年)、ソ連のアフガニスタン侵攻と撤退(1990年~1989年)、さらには湾岸戦争(1991年)と続く中東の激変の歴史に強く影響を受けたことは間違いないであろう。

 

 劇的に変化する歴史のパラダイムシフトの中でこれら2冊の思想書が世に出たが、それらと並行して実践的なイデオロギーとして米国で頭角を現わしたのが「新保守主義(Neo Conservatism)」、いわゆる「ネオコン」である。ネオコンそのものの歴史は1930年代までに遡るが、第二次大戦後の米ソ冷戦時代にソ連との緊張緩和(デタント)に反対する勢力の理論的支柱として育っていった。そしてそのネオコンを支えたのは在米ユダヤ人たちイスラエル・ロビーである。

 

 1964年の共和党大統領候補バリー・ゴールドウォーターが行った演説は保守派の熱狂的な支持を集め共和党の主流となった。

 「自由を守るための急進主義は、いかなる意味においても悪徳ではない。そして、正義を追求しようとする際の穏健主義は、いかなる意味においても美徳ではない」

 

 1981年のレーガン大統領から1993年のブッシュ()大統領まで続いた共和党政権は、米国が自国の正しさを確認し、自分たちが神に選ばれ世界平和の使命を与えられたと確信した時代であった。米国はアフガニスタンからソ連を撤退させ、東西ドイツ統一を推進し、イラン・イラク戦争で世俗政権のイラクを支援した。そして経済の分野では自由貿易による単一市場化(グローバリゼーション)を押し付け、世界経済における米国の力を不動のものにしたのである。

 

 このシナリオはまさにフクヤマの「歴史の終わり」そのものである。フクヤマは決して歴史が終わると言っているのではない。彼は冷戦が終わった後の世界は民主主義と市場経済が唯一のイデオロギーへと収れんする歴史の最終章の始まりだ、と説いたのである。20世紀末にこのような一種の歴史終末論を主張したことが「歴史の終わり」をベストセラーたらしめたのである。

 

米国は独裁者フセインを湾岸戦争で力づくで封じ込めてアラブ・イスラム諸国の為政者たちを震え上がらせ、フクヤマの「歴史の終わり」を中東に実現させて21世紀を迎えるつもりであった。しかしフクヤマの思想に異議を唱えたのがハンチントンの「文明の衝突」であった。不幸にして21世紀はハンチントンの予言を裏付けるような9.11同時多発テロ事件で幕を開けたのであった。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

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drecom_ocin_japan at 08:56コメント(0)トラックバック(0)中東の戦後70年 

2016年10月25日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0391ImfWeoOct2016.pdf

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前回より下方修正された今年と来年の成長率!)

2.前回(20164)と今回(201610月)の比較

(http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-B-2-08.pdf参照)

(http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-B-2-01.pdf参照)

(1) 世界および主要地域・国

 上述のとおり今回(WEO2016Oct)の全世界の成長率見通しは今年(2016年)が3.%であり、来年(2017年)は3.4%である。これに対して前回(WEO2014Apr)の見通しでは2016年が3.2%、2017年は3.5%であり、いずれも前回よりわずかではあるが0.1%下方修正されている。つまり2016年から2017年にかけて成長が高まるとの見通しに変わりはないが、加速の度合いが鈍っている。IMFは世界経済の回復が遅れると予測しているようである。

 

 今年の見通しについて国・地域毎に見ると、米国以外の地域・国は前回よりわずかながらも上方修正されている。例えばEU1.5%1.9%と0.4%上方修正されており、ドイツも1.5%1.7%に修正されている。中国、韓国及びASEAN-5+0.1%、インドは+0.2%である。これに対して米国の今年の成長率は前回の2.4%から今回は1.6%に下がっている。日本は前回の据え置き(+0.5)である。

 

2017年の成長率はアップした国とダウンした国・地域がほぼ半々である。成長率を上方修正した国・地域の中では日本が-0.1+0.6%とプラス成長に見直されている。またロシア、韓国、インドもそれぞれ+0.3%、+02%。+0.1%と上方修正されている。中国の2017年成長率は6.2%で前回4月と変わらない。一方米国は2.5(4月見通し)2.2(今回10月見通し)と下方修正されており、ドイツも+1.6+1.4%と成長率は下がる見通しである。とは言え米国の場合は日本、EU、ドイツと比べ成長率が高いことは特筆に値する。

 

(2)MENA諸国

MENA地域の成長率は2016年が前回の3.1%から3.4%に、また2017年は3.5%から3.4%に改訂されており、今年は上方修正し、来年はそれを維持すると予測している。ところがGCC6カ国については今年は2.22.1%、来年は2.4%→2.5%であり、今年は落ち込み来年は回復すると見込んでいる。

 

国別で見ると18か国のうち今年の成長率を上方修正または現状維持とした国は6か国であり、残る12か国は下方修正している。大きく上方修正された国はエジプト(3.33.8)とイラク(7.210.3)であり、一方大幅に下方修正されたのはイエメン(+0.7-4.2%)、リビア(-2.0-3.3%)である。

 

来年の成長率見通しについては上方修正または現状維持とした国は8か国であり、下方修正した国は10か国とほぼ均衡している。上方修正された主な国はリビア、オマーン、モロッコ、イエメンなどであり、一方下方修正されたのはイラク、トルコなどである。

 

(続く)

 

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        前田 高行         183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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2016年10月24日

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