2017年02月

2017年02月28日

2017228

荒葉 一也

 

  サウジアラビアのサルマン国王が2月26日から日本を含むアジア5か国歴訪の旅に出かけた。国王は1935年12月生まれで、現在83歳の天皇陛下とは2歳しか違わない高齢である。加えて健康に不安があり2015年1月の即位以来外国への公式訪問はエジプトとGCC諸国など近隣諸国の他は同年5月に訪米したくらいであり、それ以外は私的な夏季休暇を外国の別荘で過ごす程度である。

 

ところが今回の外国訪問は31日間という長期にわたりアジア5か国を歴訪、帰途ヨルダンに立ち寄る予定になっている。2月26日に最初の訪問国マレーシアに3日間滞在したのち、インドネシアではバリ島での5日間の休養を含め12日間を過ごし、次いで中国に4日間、さらに日本を3日間公式訪問する。そして最後にモルディブを訪問、帰途ヨルダンに立ち寄るという強行スケジュールである[1]

 

リヤドからのフライト時間だけで見ればヨーロッパはもとよりワシントンの方がよほど近い。そしてサウジアラビアが現在抱えている外交或いは経済問題から考えた場合、今回訪問するアジア各国は近隣アラブ諸国或いは欧米諸国との関係に比べ外交の優先度が低いことは明白である。

KingSalman

国王本人の健康問題或いはサウジアラビアが置かれた状況から考えて今回の長期外遊には違和感がぬぐえないのである。勿論今回の訪問国がサウジアラビアにとって重要な国々であることは論をまたない。マレーシアとインドネシアは東南アジアのイスラーム国家であり、イスラームの盟主であるサウジアラビアにとって需要な国であろう。中国と日本はサウジアラビアの原油の最大の顧客である。そしてサウジアラビアは今、ビジョン2030を掲げ石油依存の経済から先進国家に脱却しようと固い決意で臨んでいる。そのためにサウジアラビアは先進イスラーム経済国家であるマレーシアとインドネシアとの協力が必要であり、また経済大国である日本と中国の先端技術或いは資本が必要であることは理解できる。

 

 しかしそれらの事情を踏まえたうえでなぜサルマン国王がこの時期に長期にわたり国を留守にしてまでアジア4か国(モルディブ訪問には政治的経済的背景は考えにくい)を訪問するのであろうか。敢えて今回の外遊を裏読みすると次のような憶測も否定しきれないのである。

 

憶測1.何らかの手術或いは治療をするのではないか?

 マレーシアは医療設備が整っており実際多くのサウジ人が手術・治療のため同国に出かけている。いわゆる医療ツーリズムである。GCC各国の君主はサルマン国王の実兄故ファハド国王がスイスで長期療養し或いはオマーン現国王がドイツで手術しているように海外の病院に入院することが珍しくない。そして時には治療目的を隠して外国に出かけることもある。今回の外遊がそのためと考えられないこともない。但しインドネシアを除き各国の滞在期間が短いことを考えると入院手術は無理かもしれない。

 

憶測2.外遊目的は半分保養、半分ビジネスではないか?

 中国と日本の訪問前にインドネシアのバリ島に立ち寄り、両国訪問後にモルディブを訪れることになっている。サルマン国王が高齢かつ病弱であるため中国・日本訪問のハードスケジュールの前後に休養日程を入れたことは間違いないであろう。ただサルマン国王がアジアの保養地を訪れるのは初めてである。国王は皇太子時代から夏の休暇シーズンを南仏ニースの別荘で過ごしてきた。しかし一昨年ニースに行ったとき、国王一行は地元民から激しい拒絶反応を受けた。その年の1月にパリでイスラーム過激派による風刺画週刊誌シャルリー・エブド本社襲撃事件があり、仏全土に嫌イスラーム(イスラム・フォビア)感情が高まったためである。国王一行はわずか1週間でニースを引き揚げた。それ以来、西欧にサルマン国王が安息できる場所はなくなった。そこで浮かび上がったのが穏健なアジアのイスラーム国である。季節的にも今のアジアモンスーン地帯は保養にうってつけである。

 

憶測3.日本及び中国に恩を売るつもりか?

 もし国王の歴訪がビジネス半分、保養半分であれば、日本及び中国はサルマン国王来訪に過大な期待はできそうもない。両国にとってサウジアラビアは重要な石油供給源であり、最高のもてなしで国王を心地よく迎え、そして送り出せれば成功と言えよう。幸い日中双方ともサウジアラビアとの間に面倒な問題は無い。イスラーム問題で険悪になりがちな米国トランプ政権やヨーロッパ諸国とは状況が異なる。またイスラーム国(IS)掃討作戦でロシア、イラン、トルコがシリア・アサド政権との連携を強める中で、サウジアラビアはシーア派のイランを極度に警戒し、IS対策では反政府組織の支援に固執しており、同国はシリア和平問題で蚊帳の外に置かれている。その点、日本及び中国に対してサルマン国王は石油の安定供給をちらつかせるだけで十分恩を売ることができる。

 

憶測4.中国、日本訪問は息子ムハンマド副皇太子への側面支援?

 サルマン国王は最愛の息子ムハンマドにサルマン家とサウジアラビアの将来を託している。ムハンマドを強引に副皇太子に引き上げのはムハンマド・ビン・ナイフ皇太子(国王実兄故ナイフ皇太子・内相の子息、即ち息子ムハンマドとは従兄弟関係)に男児がいないため、サルマンの思惑通りに事が運べば王位はいずれ息子ムハンマドとその子孫、即ちサルマン系統に収れんされるとにらんでいるに違いない。その息子ムハンマド副皇太子はビジョン2030を掲げて華々しい活躍を見せている。

 否、今のところは活躍している、と言うべきであろう。ビジョン2030はあまりにも野心的すぎるため、現在多くの障害にぶつかり実現の見通しに危険信号がともり始めたからである。石油に依存しない経済を創るには国内産業の多角化のため外国の資本と技術の導入が不可欠である。それには是非日本と中国から協力を取り付けたい。同時に経済改革の原資は石油しかなく、そのため原油の長期安定的な顧客である中国と日本をつなぎ留めなければならない。一方、日本と中国にとっても資本と技術の輸出相手、そして石油の輸入相手としてサウジアラビアと緊密な関係を保つことが必要である。

サウジアラビアと日本、或いはサウジアラビアと中国は現在のところ政治や宗教で面倒な問題がなく、経済ではウィン-ウィンの関係である。サルマン国王にとって訪中、訪日は苦境にたちつつある息子副皇太子に対する強力な側面支援なのではないだろうか。そのためであればサウジ国内ではよほどのことがない限りビジネスマンと面談することのない国王が例えば東京でソフトバンクの孫社長を謁見することも考えられないことではなさそうだ。

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jpエジプト

       携帯; 090-9157-3642



[1] Saudi Gazette on 2017/2/23, ‘Many pacts to be signed during King’s 31-day Asian tour next week’,

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/many-pacts-signed-kings-31-day-asian-tour-next-week/




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2017年02月27日

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2017年02月26日

(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0398MenaRank10.pdf

MENAなんでもランキング・シリーズ その10)

 

3.2012年~2016年の日本とMENA諸国の貿易(続き)

(http://menarank.maeda1.jp/10-T04.pdf 参照)

 

(サウジ、UAE、カタールからの輸入は急減、過去5年間で最低水準!)

()主な国の輸入額の推移

(http://menarank.maeda1.jp/10-G05.pdf 参照)

 サウジアラビア、UAE、カタール、イランおよびイラクは石油・天然ガスの主要な輸入国であるが、これら5カ国の過去5年間の国別輸入額の推移を見ると、5年間を通じてサウジアラビアの輸入額が最も多く、その額は2012年の4.4兆円から2014年には5兆円に増加した。しかし2015年は前年比4割減の3兆円に急減、2016年はさらに前年比3割減の2兆円台ぎりぎりであった。

 

 UAEはサウジアラビアとほぼ同様の傾向を示し、2012年の3.5兆円から2014年には4.4兆円のピークに達した後、2015年、2016年は共に前年比で34%前後の大幅な落ち込みとなり、2016年にはピーク時の2014年の4割にとどまっている。天然ガスの主要な輸入国であるカタールの場合、ピークとなった2014年(3.5兆円)から2年連続で40%強減少しており、2016年の輸入額は2014年の3分の1に落ち込んでいる。同国からの輸入減はLNG価格の下落、同国以外の輸入ソースの多様化等の影響と言えよう。

 

 これら3カ国に対してイラクからの輸入額は3,000億円以下で低迷し、特に2013年以降は3年連続で減少、2016年の輸入額は1,200億円と2013年から半減している。イランについては2012年から2014年までの3年間は6,000億円台であったが、2015年および2016年は3,000億円台に急減している。経済制裁による輸入抑制と原油価格下落の影響が大きく表れている。

 

(好調な輸出に陰りがみえるサウジアラビア、UAE、底が見え始めたイラン向け輸出!)

()主な国への輸出額の推移

(http://menarank.maeda1.jp/10-G06.pdf 参照)

 MENAの日本からの輸出額では過去5年間を通じてUAEがトップである。これはドバイを通じた第三国への再輸出が多いからである。UAE向けの2012年の輸出は7,200億ドルであったが、その後はオイルブームにより2012年以降同国向けの輸出は4年連続で増加、2014年、15年は1兆円の大台を超えている。但し昨年は8,700億円まで減少、2013年の水準に戻った。

 

 オイルブームは同じ湾岸産油国のサウジアラビアにも表れており、同国向け輸出は2012年の6,600億円から2015年には1.3倍の8,300億円に増加している。但し2016年は前年比で51%も減少し5,500億円にとどまり、2012年を下回る5年間では最低の水準にとどまっている。

 

同じ産油国であるがイラン向け輸出は対イラン経済制裁により2012年の521億円が2013年には164億円にとどまっている。その後は回復の兆しが見え、2016年には632億円と過去5年間で最も多かった。

 

 地域の経済大国であるトルコ向け輸出は2012年以降毎年増加しており、2016年は3,107億円と5年前の2012年の1.6倍に達している。またもう一つの地域大国エジプトは過去5年間を通じて1,200億円から1,500億円の間を上下しており大きな変化は見られない。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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2017年02月25日

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2017年02月24日

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