2006年07月01日

(ニュース解説)「GCCに地殻変動の兆し-カタールとバーレーンが広範な協力協定締結」(5回連載)

これまでの内容
(第1回)カタール・バーレーン間の海上橋建設―両国新時代の幕開け
(第2回)抗争から和解へ―カタールとバーレーンの歴史


第3回 似た者同士のカタールとバーレーン

GCC(湾岸協力機構)を構成する6ヶ国の中でカタールとバーレーンにはいくつかの似通った点がある。その一つは共に国土の面積が小さいことである。カタールの面積は11,400平方キロメートルで秋田県よりもやや狭く、バーレーンのそれは709平方キロメートル、奄美大島とほぼ同じ大きさであり、GCC6ヶ国の中で5番目と6番目である。最も広いサウジアラビア(225万平方キロメートル)と比べて如何に小さいかがわかる(注1)。もっともアラビア半島の場合、その殆どは人間が住めない不毛の砂漠地帯である。従って土地が広くても農業や工業に適さず開発余地が少ない。それどころか平坦で長い砂漠の国境線は他国の侵略を招きやすく、またテロリストたちの侵入や逃亡を防ぐことが難しい。アラビア半島では広い国土は不利に作用する。とは言え国際社会においては国土の広さはその国のステータスシンボルでもある。従って国土の狭いカタールとバーレーンはGCCの中で軽視されがちである。

そして人口についてもカタールとバーレーンはGCC6カ国中で最も少なく、カタールは74万人、バーレーンは71万人である。両国以外の人口はいずれも百万人以上で、例えばオマーンは240万人、UAEは430万人である。サウジアラビアは2,300万人でカタール、バーレーンの30倍以上の人口を有している。また湾岸諸国の人口統計には出稼ぎ外国人が多数含まれているのでこの人数を差し引いた純粋の自国民の人口だけで比較するとこの差はさらに大きくなる。即ちカタール及びバーレーンの自国民数はそれぞれ28万人、44万人に過ぎない。サウジアラビアの自国民1,740万人と比較すると、バーレーンは60分の1、カタールは40分の1なのである。このように国土面積だけでなく人口でもカタールとバーレーンのGCC内での立場はかなり弱いと言えよう。これに対して一人当たりGDPを比較するとカタールは38千ドルでトップになり、2位のUAE(24千ドル)の1.5倍以上に達する。またバーレーンの一人当たりGDPはサウジアラビア、オマーンよりも高く6か国中の4位となる。

このようにカタールとバーレーンはGCC6ヶ国の中で、面積及び人口では小国の地位に甘んじているが、経済的には中位から上位に位置するという似通った特徴を持っている。さらに外交姿勢、特に対米関係についても両国は類似点が見られる。

GCC各国はいずれも親米政権であるが、その中でもカタールとバーレーンの対米関係は他の4カ国より一歩踏み込んだものがある。それはカタールによる大規模な米国軍事基地の提供であり、バーレーンの対米FTA(自由貿易協定)締結である。カタール及びバーレーンと米国との関係は1990年の湾岸危機を契機としている。両国は共にかつては英国との関係が深かった。しかし英国から独立した後、イラン・イラク戦争やイラクのクウェート侵攻などの不安定要因が無くならないため、バーレーンは1991年、またカタールは1992年に米国と防衛協定を締結した。こうして現在カタールには米中央軍の前線司令部であるサイリーヤ基地と空軍のアル・ウデイド基地が置かれている。なお2001年のイラク戦争に際し、サウジアラビアが自国からの米軍機の発進を拒否したため、それまでリヤド南方にあった米空軍主力部隊がアル・ウデイド基地に移っており、同基地は今やアラビア半島では最大の米軍拠点となっている。

一方、バーレーンは2004年9月、GCC6カ国の中で最初に米国とFTA(自由貿易協定)を合意した。米国がFTA協定を締結している中東・北アフリカの国は、ヨルダン、モロッコ及びバーレーンの3カ国だけである。この3カ国の地理的な位置を考えると、米国の中東・北アフリカ地域に対するFTA戦略がよくわかる。ヨルダンとのFTAはイスラエルに対する間接的な支援が目的であり、モロッコとのFTAはEUに対する牽制が目的と言えよう。そしてバーレーンの場合、米国は石油・天然ガスの豊富なGCC産油国への足がかりにしようと考えている。そうでなければ人口も経済規模も小さく貿易相手として魅力があるとはとても思えないバーレーンとFTAを締結する意味が理解できないからである。

米国が中東・北アフリカ各国とFTAを締結するのは、その背後に「中東民主化構想」を実現しようとし、或いはEUやロシアなどに対抗して地域での政治的プレゼンスを高めようとする米国の意図が垣間見られる。GCC内での地位の復活を狙うバーレーンはこのような米国の戦略に相乗りしようとしたのであろう。たとえそれが双方にとって「同床異夢」であったとしても小国バーレーンにとってはチャンスだったはずである。ただこれに対してGCCの盟主を自認するサウジアラビアは、対米FTAは抜け駆けでありGCCの結束を乱すとしてバーレーンを強く牽制している。一昨年末にバーレーンで開催されたGCCサミットでバーレーンとサウジアラビアが激しい非難の応酬をするという事件も起こっているほどである(注2)。

しかしバーレーン及びカタールの非軍事面での米国との関係は最近冷え込んで来たように見受けられる。混迷を深めるパレスチナ情勢、治安が悪化するイラク、さらにイランの国連制裁問題などにより湾岸諸国の一般市民の中に反米感情或いは嫌米感情が蔓延している。そのため各国の為政者は国民感情に配慮して米国と距離を置こうとしている。GCCの中で最も親米色の強いカタールもバーレーンも他の湾岸諸国と同じような態度を示し始めた。こうして両国のGCC回帰現象が生まれつつあるが、そこではGCC内での地位の向上を図るために両国が結束しようとする動きが見られるのである。

次回は両国の結束を可能としているWin-winの関係について解説する予定である。


(今後の予定)
第4回 Win-winのカタール・バーレーン関係
第5回 両国の狙いと今後の予測―GCCに先駆けて二国間で経済統合か?

注1 MENA Informant「GCC6ヶ国の国勢比較」参照
注2 MENA Informant「米国との自由貿易協定で崩れるGCCの結束」参照

以上


at 10:50GCC  
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