2006年07月13日

(ニュース解説)「国会とサバーハ内閣の抗争再燃か?-クウェート総選挙と内閣改造」(全5回)

(前回までの内容)
第1回 突然の国会の解散
第2回 今回総選挙の特色と争点:女性初の参政権、改革促進とサバーハ家批判
第3回 選挙戦の実態:事前の候補者調整とお祭り騒ぎの選挙戦


第4回 開票結果:過半数を制した野党連合、全員落選した女性候補


クウェートの総選挙は6月29日(木)の週末に行われ、32人の女性を含む249人が25の選挙区(各区定員2名)で有権者の判断を仰いだ。昨年の国会で女性の参政権が認められたため、今回が始めての男女平等普通選挙である。完全な普通選挙はGCC諸国の中ではクウェートが始めてであり歴史的なできごとと言えよう。

有権者数は34万人強、そのうち女性は193,000人と全体の57%を占めている。25の選挙区の中で最大の選挙区は第21区(Ahmadi)の30,970人であり、最小選挙区は第2区(Murqab)の5,119人である。両選挙区の1票の格差は6倍とかなり大きい。投票は混乱も無く終了し即日開票が行われた。政府の発表では男女合わせた投票率は65%に達したが、女性の投票率は35%にとどまり 、初の男女完全普通選挙として多数の女性が立候補した割には女性有権者の関心はさほど高くなかった。

女性の投票率が低調であった理由は、豊かさに慣れ、保守的で敬虔なイスラム教徒でもある主婦層はそもそも政治に対する関心がさほど高くないためと考えられる。また宗教団体、部族団体等が事前に候補者の出馬調整を行っており、多くの選挙区で当選者が予測されていた。このため女性たちは酷暑の中を(この時期、クウェートの日中の外気温度は40度を超えることが多い)わざわざ投票所まで出向くことを嫌ったのであろう。これに対して男性の投票率は上記から逆算すると80%を優に超えており、これは支援団体による投票所への駆り出しがあったためと推測される。アラブ人男性は宗教及び部族に対する帰属意識が強く、それが高い投票率につながったと言えそうだ。

選挙は投票終了後直ちに即日開票され翌30日にはKUNA(クウェイト国営通信)が全ての選挙区の当選者を確定した。その結果、解散の引き金となった野党「改革派」が解散当時の29人から4人増え33議席を獲得した。因みに野党の中でも最大勢力であるICM(Islamic Constitutional Movement)は擁立候補5人の全員当選を果たしたが、リベラル派は8人から6人に議席を減らすなど明暗を分けた。クウェートでは内閣の閣僚にも国会の議決権が与えられるため選挙で選出された50人に閣僚15人(全閣僚は16人であるが、内1人は現職国会議員のため重複)を加えた65人が総定数である。従って改革派33人は議会の過半数を制したことになる。一方親政府勢力は改選前の19議席から13議席に急落した 。これは野党の掲げた政府の腐敗を糾弾するキャンペーンが国民の強い支持を受けたことを示しており政府にとっては大きな打撃であった。

 但し野党「改革派」は保守的な宗派議員、部族代表のほかリベラル系などから構成される寄り合い所帯である。彼らは内閣及びその背後にあるサバーハ首長家と対決することで一致しているにすぎず、「戦略的」というよりはむしろ「戦術的」な同盟関係に過ぎない 。従って選挙後の新国会でかれらの間にどのような協力関係が生まれるかは不透明である。

 なお全選挙区を通じて当選者の最高得票は第17区の1位当選者の8,095票であり、最低得票は第2区第2位当選者の1,461票であった。最大の選挙区(21区)の2位当選者の得票は6,594票であったから、選挙区による当落の格差はかなり大きい。前回選挙での当選の最高得票及び最低得票は今回と全く同じ選挙区であり、その時の得票数はそれぞれ4,092票及び652票であった 。今回は女性の参加により得票数はほぼ倍増しているものの、数千票で当選可能であるため今回も票の買収の噂が横行した(前回「選挙戦の実態」参照)。

事前の当落予想では女性議員の誕生が取り沙汰されたが、ふたを開けてみると候補者32人は全員落選した。前評判が最も高かったDashti女史は女性候補者では最高の1,500票余を獲得したが、それでも選挙区では第5位に留まった。全員落選の理由としては選挙に対する準備不足及び同性の票が思ったほど獲得できなかったためと言われている。そもそも総選挙は来年7月の任期満了時に実施されるものと考えられていたため、突然の解散で女性立候補者は圧倒的な準備不足のまま選挙戦に突入せざるを得なかったのである。また有力とされる立候補者はいずれも女性活動家やキャリア・ウーマンであったため保守的な女性有権者の同調を得られず、さらに宗派や部族の有力者が顔を利かせる選挙区で彼女たちが日常的な活動をしておらず馴染みも薄かったため、女性票を獲得できなかったのが落選の理由であろう。

 とにもかくにもクウェート史上初の男女完全普通選挙は「改革派」(反政府系)の勝利に終わり、新国会は7月12日に開会されることになった。なお憲法の規定に従い内閣は選挙の翌日総辞職した。

 次回(最終回)は「内閣改造と今後の政局運営」です。


at 09:10Kuwait  
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