2007年12月02日

湾岸産油国の政府系ファンド(SWF)を探る(その2:カタル)

(注)HP「マイ・ライブラリー」に「湾岸産油国のSWFシリーズ」が一括掲載されています。(2010.1.7付記)

2.カタルの政府系ファンド(SWF):カタル投資庁

(1)運用資産の推定額
 カタルの政府系ファンド(SWF, Sovereign Wealth Fund)を統括しているのはカタル投資庁(Qatar Investment Authority, 略称QIA)である。QIAの運用資産については米国ワシントンのPeterson Institute for International Economicsは500億ドルと推定しており、また日本の国際金融情報センターでは400億ドルとしている。
 いずれにしてもアブダビ投資庁の推定資産5-9千億ドル(アブダビの項で詳述)、或いはサウジアラビア通貨庁の推定3千億ドル(サウジアラビアの項で詳述)と比べて一桁少ない。これはアブダビ、サウジアラビアが古くから石油を生産し、特に1970年代の第一次・第二次オイルショック以降余剰オイルマネーが発生し、これをSWFとして運用してきたのに対し、カタルは石油生産量が少なく、1997年に日本向けのLNG輸出を開始したことにより漸く余剰ドルが発生し始めたためである。しかもLNG輸出施設の建設に多額の対外借入を行ったため、例えば2000年末の同国の財政状況は国内総生産(GDP)164億ドルに対し、対外債務残高が131億ドルもあり、外貨準備高はわずかに18億ドルであった。従ってQIAの運用資産が4~500億ドルに達したのはここ数年のことと思われる。
 しかしカタルのLNG輸出は昨年インドネシアを抜いて世界一になり、2009年にはLNG年産能力が7,800万トンに達する見込みである。カタルは人口が百万人弱(自国民だけであれが30万人弱)であり、従って余剰マネーは今後急激に膨らむものと考えられる。この結果QIAの資産は近い将来クウェイト(推定1,000-2,000億ドル、クウェイトの項で詳述)を追い抜くことは確実であり、サウジアラビア或いはアブ・ダビの水準に達することも十分考えられる。

(2)カタル投資庁(QIA)
 カタル投資庁は首長直轄の組織と考えられる。取締役会会長はタミーム皇太子、副会長はハマド首相で、共にカタルを支配するサーニー家の王族である。タミーム皇太子はハマド首長の寵妃で第二夫人のモーザ妃の次男であり、未だ27歳(1980年生)と言う若さである。またハマド首相は1959年生まれで首長の遠縁である。取締役としてはこのほかアッティヤ副首相兼エネルギー・工業相、フセイン・カマル財務相を含め5名がいる。
 QIAの組織は(1) Strategic and Private Equity, (2)Asset Management, (3)Real Estate, (4)Risk Managementの4つの部門にわかれている。投資分野は大きく分けてreal estate(不動産)、private equity(株式取得、M&A)およびinvestment funds(ファンド)の3つであり、不動産については子会社Qatari Diar Real Estate Investment Company、M&AについてはQatar Holding及びDelta Two Ltd.と呼ばれる企業がある(下記参照)。またカタル国内の有力企業についてはQIAが株式を直接所有しており、その主なものは、Qatar Telecom(持ち株比率55%)、Qatar National Bank(同50%)、Qatar National Hotels Company(同100%)などがある。
 なお最近、QIAはリビアのLibyan Investment Corporationと水資源開発のための共同投資のMoUを締結している。

(3)Qatari Diar Real Estate Investment Company
 不動産投資を目的とするQIA傘下のファンドである。国内のほかモロッコ、エジプト、シリア、英国、マレーシアなどで不動産投資を行っている。英国では同国最大の介護施設チェーンを50億ドルで買収した。さらに今年4月にはロンドン・チェルシー地区にある国防省の兵舎跡地を6億ポンド(12.2億ドル)で買収したほか、同地区のGrosvenor Watersideの3つの建物を取得している。またマレーシアのクアラルンプールでは商業モールに投資している。
 なおExecutive Presidentのナーセル・アル・アンサリは同社の資本金が110億ドル、また国内外での18件の大型プロジェクトに対する総投資額は88億ドルに達すると述べている。

(4)Qatar Holding及びDelta Two Ltd.
両社は外国企業の株式取得(M&A)を目的としたQIAの関連企業である。Qatar Holdingはロンドン証券取引所(LSE)の株24%を買収、また北欧諸国の証券取引所を運営するOMXの9.98%の株も所有している。LSEとOMXについてはドバイが先行買収する形で、現在ドバイとカタルの間で激しい争奪戦が繰り広げられている。
 最近、QIAはDelta Twoを通じて英国の大手スーパーJ Sainsburyに対して106億ポンドで敵対的買収を仕掛け25%の株を取得したが、結局買収を断念したと報じられている。
 このほかでは欧州エアバス社の親会社であるEADS社(European Aeronautic, Defence and Space Company)の株式3.12%を所有しているが、これはDubai International Capitalと共同取得したものである。
その他の株式取得としては、Industrial Commercial Bank of China(中国、2.05億ドル、05年)、Lagardere(仏、5.1%)、Raffles Medical Group(Singapore, 5%)などがある。

(5)ドル投資の見直しおよび資金調達
カタルの首相でありQIAの副会長でもあるハマド首相は、CNBCのインタビューで、同国の投資の姿勢について、以前は99%ドル建てであったが、最近2年間でユーロ建て40%、ドル建て40%、その他20%に変更したと述べている。同国はドルへの過度の依存を見直し、またドル安への対策を講じているようである。
資金調達については10月にHSBC(香港上海銀行)、スタンダードチャータード銀行、シティ、モルガン、三菱UFJ銀行など世界の30行から30億ドルを借り入れたと報じられている。QIAの投資活動は非常に活発であり資金需要は旺盛であるが、実際にはQIA自体の運用資産は4-500億ドル程度と見られる(上記1参照)。外部からの借入はこのように投資計画と自己資金のバランスが取れていないためと考えられる。

(その2:完)

(これまでの内容)
その1:はじめに

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