2009年04月23日

サウジアラビア:ナーイフ内相の第二副首相就任が意味するもの(2)

(注)HP「中東と石油」に全6回を一括掲載しました。

(第2回)皇太子そして国王への指定席だった第二副首相ポスト
flag_of_saudi_arabia.png 王位継承問題を協議するため2006年に設立されたサウド家王族の「忠誠委員会」はスルタン後の次期皇太子を指名することが最初の任務とされている。この委員会は勅令で決められたとは言えサウド家王族のみによる私的な委員会である。ナーイフが第二副首相に就任しサウド家No.3のポストに就いたからと言って、副首相職はあくまで公的なポストであり、委員会がナーイフを自動的に皇太子に指名するという訳ではない。

しかしサウジアラビアの第二副首相ポストがこれほどまでに注目されるのは、アブダッラー国王及びスルタン皇太子が共に第二副首相を経て現在の地位に上り詰めたからであり、ファハド前国王も同じ経路をたどって国王となっているからである。つまり過去三代にわたって第二副首相となった者がその後皇太子となり、ファハドとアブダッラーの両名は国王に即位している。

ファハド第5代国王は1964年、ファイサル第3代国王が即位し、ハーリド(後の第4代国王)が皇太子兼副首相になると同時に第二副首相に指名されている。ハーリド皇太子が生来病弱であったためである。1975年にファイサル国王が暗殺され、ハーリドが第4代国王を継いだが、このとき第二副首相のファハドが皇太子となった。そしてその時第二副首相に指名されたのがアブダッラーである。1982年にハーリドが亡くなると、ファハドが国王に即位し、アブダッラー第二副首相が皇太子となっている。このときしばらく第二副首相は指名されなかったが、4年後の1986年にファハドの実弟スルタン国防相が第二副首相に任命されている。そして2005年のファハド死去に伴い現在のアブダッラー国王(兼首相)―スルタン皇太子(兼副首相)体制となり現在に至っている。

このように今回を含めこれまで4回にわたり第二副首相が指名されているが、最初の2回(ファハドとアブダッラー)が国王交代と同時であったのに対し、後の2回(スルタンとナーイフ)の場合は新国王即位後4年が経過している。最初の2回のケースは、いずれもハーリドが皇太子即位前から健康状態が万全でなく、皇太子兼副首相(1964-1975年)、あるいは国王兼首相(1975-1982年)としての激務に問題があったためである。

これに対してスルタンの第二副首相就任(1986年)は、スデイリ・セブンによる支配権を確立しようと試みたファハド国王(当時)の策謀と考えられ、一方今回のナーイフ指名は、スルタン皇太子の健康悪化による国政停滞を避けるためにアブダッラー国王が決断した緊急避難措置と考えられる。今回の措置が国王の思惑通り一時的なものに収まるか否か予断は許さないが、この点については本レポートの最後に改めて取り上げることとする。

サウジアラビアの統治基本法第5条では同国を王制国家と定め、また国王は初代アブドルアジズの直系男子が継承する、と定められている。また国王が首相を務め、国王は勅命により副首相及び大臣を任命する、と規定している(同法56条、57条)。そして副首相には皇太子を充てることが慣例となっている。つまりサウジアラビアはサウド家が絶対的な権力を握り(「サウジアラビア」とはそもそも「サウド家」の「アラビア」という意味である)、しかもそのNo.1(国王)とNo.2(皇太子)が実際の政治の運営に当るという著しく中央集権的な政治形態なのである。

サウジアラビア以外のGCC各国も君主制国家であり、それぞれの呼称はUAE、クウェイト、カタールが「アミール(首長)」、オマーンは「スルタン」(メディアは「国王」と訳している)であり、バハレーンはサウジアラビアと同じく「国王」である。しかし各国はいずれも君主及び皇太子と首相は分離されており、君主が皇太子以外の王族を首相に指名している。これにより君主は日々の煩瑣な国政から解放され、軍事・外交・国内治安などの重要な政務に専念し、皇太子は君主の名代となって国内外でVIPと会談するなど帝王学を身につけるわけである。

ところがサウジアラビアではすべての権限が国王と皇太子に集中しているため、今回のようにスルタン皇太子が病気のため米国に長期療養をする場合、アブダッラー国王が内外の全ての政務に目を配らなければならない。そのため国王は国内にとどまらざるを得ず、外国訪問や国際会議などに出席することが不可能になるのである。ましてアブダッラー国王は健康に問題ないとは言え既に80歳の半ばを超えており、激務がかなりの負担になっていることは想像に難くない。

(続く)

(これまでの内容)
(第1回)突然の第二副首相任命


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