2009年05月18日

サウジアラビア:ナーイフ内相の第二副首相就任が意味するもの(5)

(注)HP「中東と石油」に全6回を一括掲載しました。

(第5回)風を読む国王派と栄華の夢を追うスデイリ派
 5月16日付けのUAEのKhaleej Timesに、サウジ国内の77人の改革派が立憲君主制及び国民投票による議会、そして非王族の首相を求める請願書を出した、との興味ある記事が掲載された 。近代化を進めるサウジアラビアでは最近このような民主化を求める請願書が珍しくない。2003-04年にかけて同様の請願書が出されたときは何人かの活動家が逮捕されており、請願書の提出はかなりのリスクを伴う行動である。しかし今回のことは改革を求める動きがもはや抑えがたいものであることを示していると言えよう。

 もちろんアブダッラー国王が請願書の要求をいれて直ちに具体的な行動を起こすとは考えられない。「サウジアラビア」とは「サウド家のアラビア」のことであり、サウド家の絶対支配体制を維持することは国王はじめ一族全てにとって譲れない一線であろう。現在勅任制の諮問評議会がいずれ公選制となることはほぼ既定方針と見られている。但しサウド家が首相職を手放す可能性は極めて小さい。

 超保守派と言われ宗教界をバックに権力のトップを目指すナーイフ内相は今回の請願運動にどのように対処するつもりであろうか。2003年当時リヤドでは過激派テロ事件が続発、ナーイフは一般国民(そして当時のブッシュ米政権)の後押しを受けて過激派を押さえ込んだ。これによって彼の評価が急騰したのであるが、前回の請願起草者の逮捕はこのような当時の状況があったからと考えられる。

しかしイスラムテロが下火になり、しかも米国がオバマ新大統領体制となった現在は風向きが変わりつつある。アブダッラー国王は基本的に保守思想の持ち主であり、急激な改革に手をつけないことは明白である。但し一般論として言えばそもそも君主とは保守的なものであり、例えばカタールのハマド首長は開明的だと評価されているが、同国にはいまだに議会が無い。バハレーンは立憲君主国を標榜しているが、これも実際には権力を保持するための隠れ蓑の様相が強い。極端な言い方をすれば、かれら君主のやり方は国民を懐柔し、西欧諸国に媚を売るためである。「民主主義」をファッションのごとく装うこと、つまり「ファッション・デモクラシー」とでも言うべきものなのである。

 サウド家の絶対支配体制とその政策は決してほめられたものではないが、その意味で言えばサウド家自身に国内の急速な民主化を求めることはそもそも無理な相談であり、漸進的な改革こそ期待すべきであろう。そしてその漸進的な改革は今や不可逆的な流れとなりつつある。アブダッラー国王とその一派はその風を読んでいるのである。それに対してスルタン皇太子、ナーイフ内相等のスデイリ一派は宗教保守派を味方につけて権力を掌握し、長兄である故ファハドの栄華の時代の再来、即ち第二次スデイリ王朝を夢見ているようである。

img20090518.jpg しかしスデイリ一派もかつてのような一枚岩ではなさそうだ。スデイリ7兄弟のうち残された6人兄弟の結束が乱れているわけではない。問題は彼らの息子たちの世代の結束である。彼らスデイリ兄弟の息子たちは従兄弟同士ということになる。例えば故ファハド国王(写真)の次男ムハンマド東部州知事とスルタン皇太子の息子バンダル国家安全保障会議議長(元駐米大使)などはその例である。従兄弟同士の結束が彼らの親たちの兄弟同士の結束とは比べ物にならないくらい弱いのは自明の理である。7兄弟の息子たちの間ですら異母兄弟という微妙な関係があり、結束は乱れがちである。故ファハド国王の息子ムハンマド東部州知事とアブドルアジズ国務相の対立がそれである。彼らは父ファハドの遺産を巡って骨肉の争いを行なったと言われる。つまりスルタン皇太子、ナーイフ内相、サルマン・リヤド州知事等の兄弟がいかに努力しようとも、既に高齢に達した彼らにはスデイリ全体を一本に纏め上げることは困難と思われる。

 外部の風を読むことに長けたアブダッラーは、多分サウド家内部に吹く風についても十分読んでいるものと思われる。彼は「スデイリセブン」なるものの結束が緩み、いずれ瓦解すると見ているであろう。サウド家による永続的な支配を悲願とするアブダッラー国王が恐れていることは多分二つある。その第一は後継者選びを巡りサウド家全体の不協和音が大きくなり外部勢力に付け入る隙を与えることであり、二番目は超保守主義者ナーイフによる第二次スデイリ王朝という時代錯誤的な政権が生まれることであろう。

(続く)

(これまでの内容)
(第1回)突然の第二副首相任命
(第2回)皇太子そして国王への指定席だった第二副首相ポスト
(第3回)長老会議(マジュリス)で決定された国王
(第4回)明文化された王位承継方式


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