2009年06月03日

波乱含みのクウェイトの政局:総選挙と内閣改造(その1)

(注)HP「中東と石油」に全文を一括掲載しました。

はじめに
 5月16日にクウェイト総選挙が行なわれ、即日開票の結果初の女性議員4人を含む50人の議員が選出された。20日にはサバーハ首長がナーセル前首相を再度首相に指名し、29日、ナーセルを含む16名からなる内閣が発足した(注、クウェイトでは憲法上、首相の指名権は首長にある)。そして31日には首長が臨席して第13回議会が開催されたのである。

 ここ数年、クウェイトでは議会と政府が事あるごとに対立し、2006年初めにサバーハ現首長が即位して以来わずか3年の間に3回の総選挙が行なわれ、ナーセル内閣にいたっては今回で改造は6目である。国会は毎年解散と総選挙を繰り返し、内閣は1年も持たないという異常事態が続いている。

 今回の総選挙では女性議員4名が誕生する一方、スンニ派勢力は退潮するなどの変化も見られたが、反政府系議員が多数を占める構図に大きな変化は無く、また内閣も枢要ポストは相変わらずサバーハ家王族が独占するなど新味に欠けるものであった。このため識者の多くは国政の混乱は当分収まらないと見ている。本稿では国会と内閣それぞれの新陣容を概観し、今後の政局の行方を推察する。

選挙方法の改善について
 1963年の第1回議会以来13回目となる今回の総選挙は定員50名に対し211人が立候補して争われた。前々回の2006年6月の選挙で初めて女性に参政権が与えられ、また昨年5月の前回選挙では定数50名は据え置き、選挙区の数をそれまでの25区(定員2名)から5区(定員10名)に集約、投票は4名連記制となった 。過去2回の選挙では30人近い女性候補者が立候補したものの全員落選の憂き目を見ている。

 クウェイトは他の中東諸国同様イスラム宗教勢力が強く、しかも人口の35%をシーア派が占めており、同時にアラブ特有の部族意識が色濃く残っている。人口の6割以上を占める出稼ぎ外国人労働者には選挙権が無く、クウェイト人の成人に限られているため、有権者数は男女合わせても40万人足らずである。

 このような状況で前々回までは選挙区が25もあったため、1選挙区あたりの平均有権者数は1万5千人程度であった。各選挙区の立候補者数は定員の5倍前後のため、単純に計算すれば当選圏は3千票以上となる(女性参政権が付与される以前はさらにその半分程度)。国政選挙とは言え日本の感覚では市町村レベルのミニ選挙とでも言うべきものである。このようにわずかな得票で当選可能であるため、当然のことながら宗派或いは部族による選挙活動が幅を利かせ、彼らはそれぞれのセクトで事前に立候補調整を行い、また候補者による票の買収も半ば公然と横行していた。こうして彼らはリベラル候補や女性候補の選挙運動を陰に陽に妨害したのである。

 サバーハ首長家とその内閣はこれら宗派や部族出身の国会議員に長い間苦汁を飲まされ続けており、特に最近では彼らが首相及び大臣に対する弾劾決議を頻発するため国政が麻痺すると言う現象が恒常化している。このため前回からは部族に有利な細切れの選挙区を改めて5つの選挙区に集約、また今回は宗派・部族勢力の強い反対を押し切って立候補の事前調整に厳しい姿勢で臨んだ。政府はこれによって少しでもリベラル派や女性の政界進出を促そうとしたのである。彼らが直ちに親政府(親サバーハ)勢力と言うわけではないが、彼らの進出によって相対的に宗派・部族の反政府勢力の勢いが削がれることを政府は期待したのである。

総選挙の結果について
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 今回の選挙は政府と議会の果てしない対立にうんざりした有権者が変革を求めた結果であるが、上述の政府の方策が功を奏した面もあり、これまでとは少し違う結果となった。その中で内外のメディアが大きく取り上げたのは女性議員4人の誕生である。これによってクウェイトに新しい風が吹くことを期待する論調が多く見られる。

選挙結果をさらに詳細に分析するとスンニ派イスラム主義者が壊滅的な打撃を受け、一方シーア派が勢力を伸ばしており宗教勢力内部に大きな構造変化の兆しが見える。イスラム・サラーフ同盟(Islamic Salaf Alliance, ISF)は4議席から2議席に半減、ムスリム同胞団の政治組織Islamic Constitutional Movement(ICM)はこれまでの3議席がわずか1議席獲得にとどまった。スンニ派イスラム主義とそれに同調する部族勢力の勢力はこれまでの21議席から11議席に激減したのである。これに対しシーア派勢力は5議席から9議席に躍進している。

一方前回わずか1議席であったリベラル勢力は8議席を獲得した。女性当選者4名のうちの3名もリベラル派である。リベラル派の内訳としてはPopular Action Blockが3議席を獲得している。部族勢力はほぼ現状維持の25名であり、内訳はAwazem族6名、Mutairi族5名、Rasheedi族4名、Ajmans族、Enezi族各3名、Oteibi族2名、Hajeri族、Dossari族各1名となっている (注、部族、宗教、政治的信条が重複しているため、上記合計数は定員の50名を超える)。

このような勢力分布が今後のクウェイトの政局にもたらす影響は、29日に成立した第6次ナーセル内閣の陣容とも深く関係し、31日に始まった第13回国民議会における政府と議会の攻防を見届ける必要がある。ただ多くの専門家はかなり冷めた見方をしており、クウェイトの政局混乱が当分続くとする見解が多いのが事実である。

(続く)

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