2009年10月30日

湾岸産油国のSWF Part V:2008年を乗り越えて(下)

(注)本シリーズ(上)、(下)はHP「中東と石油」に一括掲載されています。

2.バクーのSWF国際フォーラム
 10月初め、アゼルバイジャンの首都バクーで第1回SWF国際フォーラムが開かれた。世界から20のSWFが集まり二日間にわたって討議が行なわれ、前年10月にチリのサンチャゴでワーキンググループが採択した「Santiago Principles(サンチャゴ原則)」を遵守することを確認した 。「サンチャゴ原則」とはInternational Working Group of Sovereign Wealth Funds(SWFの国際ワーキンググループ)が作成した「Generally Accepted Principles and Practices (略称:GAPP)」のことを指す 。

 GAPPはSWFの透明性の確保、情報開示の促進、組織の明確性、出資者(国家)からの中立性などを24ヵ条にわたって明記したものであり、SWFの自発的な行動基準である。2008年にGAPPが策定された背景には、2000年以降の世界貿易の拡大及び石油価格の急激な上昇の結果、中国やシンガポールなどアジアの新興国及び中東などの産油国でSWF(政府系ファンド)が相次いで設立された。そして巨大化したSWFが国際経済の撹乱要因となったからである。特に中国による海外の資源エネルギー企業買収、或いはシンガポール、ドバイのSWFによる先進各国のインフラ・物流事業の買収などが、被買収国の脅威となった。

 世界のリーダーを自負し、またイスラム・テロに対して過剰ともいえる反応をしていた当時の米国ブッシュ政権は中国及び湾岸アラブ産油国のSWFを目の敵にしていた節がある。2005年のCNOOCによる米国石油企業ユノカル買収事件及びDubai Port Worldの英P&O買収によるニューオーリンズなど米国内の港湾施設管理権問題等で、米国は国益を盾に中国及び湾岸産油国SWFの動きを封じた。

その反面、2007年のサブプライム問題では米国政府はフィクサーとしてSWFによるシティ銀行などへの資本導入に旗を振った。このとき出資に応じたアブダビ投資庁(ADIA)、KIA(クウェイト投資庁)或いは中国のCICも銀行経営に口を出すつもりは無かったと思われる。しかし米国政府は自らが作り上げ意のままに操ってきた国際金融システムに、SWFの株主である中国やアラブ各国の政府が介入するのではないかと疑ったのである。SWFの背後に潜む新興国政府の意思は米国には分をわきまえぬ態度にしか見えなかったのであろう。米国はIMFを動かし、SWFの行動に枷をはめるべくサンチャゴ原則を作らせたと考えられる。

ところが昨秋以降、SWFを取り巻く環境は政治・経済の両面で大きく変化した。政治ではブッシュからオバマへと米国の政権が交替し、経済ではリーマン・ショックで世界経済が更に悪化し各国に保護主義が蔓延し始めた。オバマ政権は米国一強主義から国際協調外交へと舵を切り、また保護主義がグローバル化の後退、世界経済全体の縮小均衡につながることを懸念したIMF、世銀、UNCTAD(国連貿易開発会議)などの国際機関および先進各国は対外直接投資(FDI)の奨励策を打ち出した。FDIの重要な一翼を担うSWFが再び脚光を浴びたのである。

国際フォーラムには世界の期待に応えようとするSWFの自負が窺える。コミュニケにうたわれた透明性の確保、情報の開示などはそのようなSWFの自信の裏返しと言えなくも無い。彼らは世界経済が自分たちを必要としており、またその期待に応えることができると確信しているようである。ただSWFがそれぞれの国家の分身であることは紛れも無い事実であり、彼らの投資行動は単なる利潤追求にとどまらず、その背後にある国家の意思が反映することはまちがいない。バクー会議に出席したChina Investment Corp(CIC)のJin会長が「SWFは非公開企業であり四半期ごとに情報を開示する必要は無く、四半期報告は害が多い」と述べたことは、政府あってのSWFという姿勢を端無くも露呈していると言えよう 。

次回のSWF国際フォーラムは2010年5月にオーストラリアのシドニーで開催される予定である。

(湾岸産油国のSWF Part V 完)


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