2010年04月08日
中東プラントビジネス業界に吹き荒れる韓国旋風(下)
(注)「マイライブラリー(前田高行論稿集)」に上下編が一括掲載されています。
3.韓国躍進の秘密は低価格と政府のバックアップ
中東における韓国のプラントビジネスが躍進した最大の理由はその価格競争力であろう。UAEの原発商談で当初受注を有力視されていた米、仏の二大グループを出し抜いて韓国グループが受注したのは、価格が米仏グループに比べて40%以上安かったからと言われる。メディアによる各種入札案件の情報でも、韓国プラントメーカーの応札価格が日本或いは欧米メーカーより低いことを伝えるものが多く、サウジアラビアの合弁製油所プロジェクトも韓国勢の受注が有力視されている(上述)。
しかし韓国勢躍進の理由は価格の安さだけではない。中東各国の顧客は過去の数多くの実績を通じて韓国の技術力と納期を守る施工能力に高い評価を与えている点も無視できない。それとともに韓国の場合大統領など政府要人によるトップセールスと言う官民一体となった受注努力も侮れない。UAEの原発商談で李明博大統領がアブダビ皇太子に対して6回以上も直接電話で受注を懇請したと伝えられていることなどはその顕著な例である。
4.リスクも官民のスクラムで対処
勿論プラントビジネスにはリスクが付き物である。落札後の発注取消或いは工事着手後の仕様変更による追加工事、資材の高騰などによる損失が発生することは避けられない。特に欧米流の契約書絶対主義が浸透している中東諸国では契約書の不備を突かれ顧客から追加工事費用の支払いを拒否されることが多く、その結果業者側は大きな損失を蒙ることになる。ドバイの地下鉄工事で日本のゼネコンが大幅な赤字決算を強いられたことなどはその一例である。
韓国もその被害を受けている。昨年3月、Samsungはドバイのナヒール社から10億ドル規模の工事をキャンセルされ、また同じ時期にクウェイトのアルズール製油所建設プロジェクトも発注取消されている。クウェイト国営石油会社(KNPC)は精製設備、タンク設備などいくつかの工事に分けて2008年に発注、その多くの部分を韓国企業群が受注した(日本の日揮も一部受注)。しかしクウェイト国会でプロジェクトそのものが否決され、翌年にはKNPCから正式に発注取消が通告されたのである。
この発注取消については今年1月、KNPCが契約金額の2%、総額3億ドル超の違約金を支払うことで和解したと伝えられる。これはキャンセルの理由が一方的にクウェイト側の内部事情によるものであること、およびクウェイトが湾岸諸国の中では契約不履行問題に対して透明性が高いからである。しかし筆者の経験から言えばこのような政府系企業の案件で違約金が支払われるケースは極めて珍しい。クウェイト以外の湾岸諸国であれば外国企業の泣き寝入りとなることが多いのである。
筆者はクウェイトの求償交渉で韓国政府自身がかなり積極的な役割を果たしたと考える。通常のケースでも受注者は発注者よりも立場が弱い。まして発注者が政府もしくは国営企業であれば交渉は至難の業である。受注企業にとって求償交渉には自国政府のバックアップが不可欠である。米国や西欧は湾岸諸国に対して伝統的に強い立場にあるため、欧米企業は概して強気である。しかし中東からのエネルギー安定確保を外交の柱とするアジア各国の政府は自国企業と湾岸諸国とのビジネストラブルに弱腰であることは否定できない。韓国の場合はエネルギー確保に加え、輸出立国が国是であるため、この種のトラブルについて同国政府は微妙な舵取りを求められる。
ただ民間企業の立場としてはトラブルに対して自国政府が毅然とした態度でバックアップしてくれなければ安心して中東ではビジネスができない。韓国政府はそのことを十分認識していると言えるのではないだろうか。
(完)
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