2010年09月24日

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(17)

「国境の南」作戦(5)

羊を放牧していたベドウィンの少年は西から東に向かう飛行機雲に見とれていた。最初は3本の筋であった。まもなく西の空に編隊飛行のジェット雲が現れた。先頭が2機、その後に3機、さらに最後尾4機の見事な編隊飛行である。少年にはそれがサッカーの攻撃の布陣そのもののように見えた。9機は最初の3機に追いつき、合計12機の大編隊となり、次には4機ずつの3編隊に分かれた。その後、左右の2編隊はジグザグ飛行を続けながらも次第に遠ざかり、残る中央の1編隊は真っ直ぐに飛び続け砂漠の地平線に消え去った。それはまさに見事なページェントを見る思いであった。少年はあんぐりと口を開けたまま空を仰ぎ興奮気味につぶやいた。<テントに戻ったら両親や友達に話さなくっちゃ>。

3機に取り囲まれたイスラエルの護衛機は時には速度をあげ、時には急上昇、急降下、旋回を繰り返し、敵機を振り切って給油機に合流しようとした。しかしサウジアラビア機はぴったりとそして執拗に寄り添ったままである。両方の戦闘機は全く同じ米国ゼネラル・ダイナミック(現ロッキード・マーティン)社製のF16である。飛行性能が同じであるためイスラエル機が如何にアクロバット技能を駆使しても結局サウジアラビア機を引き離すことはできない。

イスラエルのパイロットはミサイルで相手を攻撃することもできない。当たり前の話だが空対空ミサイルは真っ直ぐ前方にしか飛ばないから真横や真後ろにいる敵機は撃ち落とせない。むしろ後尾につけたサウジアラビア機ならいつでも自機を撃墜できるはずだが、攻撃する気配は見せない。サウジアラビアの3機はただ無言でイスラエル機と編隊飛行を続けるばかりであった。

イスラエル機のパイロットは言い知れぬ恐怖感と威圧感の中で次第に焦りを覚え始めた。追尾を振り切ろうとアクロバット飛行を繰り返したおかげで燃料を予想以上に使い果たしたようである。給油機と引き離され、砂漠の上空をあてどなく飛び続け、最早帰投のために残された燃料はぎりぎりである。ここはアラビア半島上空の敵地の真っただ中、砂漠に不時着する訳にはいかない。イスラエルの護衛機2機は基地に帰投する選択肢しか残されていなかった。

護衛の2機が踵を返すのを確認したサウジアラビア機のパイロットは基地の作戦本部に作戦終了を報告して帰途についた。
「客人の従者はお帰り願いました。」

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)



drecom_ocin_japan at 08:33コメント(0)トラックバック(0)荒葉一也シリーズ  

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