2011年05月29日

荒葉一也SF小説「ナクバの東」Part II「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」

(注)荒葉一也のホームページ「OCIN INITIATIVE」でまとめてご覧いただけます。(http://ocin.web.fc2.com/)


第二章 パーティーにて(3)
  ある日のパーティーで彼は米国軍人の夫人たちに囲まれ話をせがまれた。彼の話が好きなのは男性だけではない。女性にとっては話の内容だけではなく話し手の容貌も重要だ。男盛りの引き締まった顔、軍服に身を包んだ凛々しい姿、物静かだが内に秘めた情熱。彼の全身からにじみ出る男臭さが婦人たちを魅了した。彼女たちはまるでハリウッドの有名俳優に会ったような憧れの眼差しで彼を見つめていた。
 女性ばかりに囲まれ熱い眼差しで見つめられ、いつもとは違う雰囲気に彼は少しばかり緊張した。話し馴れたはずの戦争の話も時々言葉がつかえ、一瞬の沈黙が生まれる。内気で頑固な彼本来の姿が顔をのぞかせた。夫人たちはその一瞬を見逃さない。噂どおりの男だと知って夫人たちは安心すると同時にますます食い入るように彼を凝視するのであった。

 実際のところ彼女たちにとっては20数年前の第二次世界大戦或いはその5年後の朝鮮戦争について夫たちが語る武勇談はもう聞き飽きていた。気の抜けたシャンパンよりも始末が悪い。それでも夫たちはパーティーで飽きもせず同じ話を繰り返し女性たちをうんざりさせていたのである。
 時代は朝鮮戦争が終わり冷戦の真っ只中であった。1960年に米国の目の前のメキシコ湾でキューバ危機が発生し、世界中が緊張したが米ソの衝突は瀬戸際で回避された。さらに数年後ベトナム戦争が起こったが当初米国内では全く問題視しなかった。東南アジアの貧しい国のゲリラ活動など、米国から見れば物の数ではなかった。後日この戦争が米国人の心に大きな傷を残すとは思いもしなかったのである。米国はソ連との冷戦の対決に全神経を注いでいた。

 戦場で砲弾が飛び交う本物の戦争と異なり冷戦では紛争当事国以外の国では軍人の出番がない。特に現場の将官クラスがそうである。冷戦はスパイが暗躍する謀略戦争である。謀略戦争の影は次第に軍の内部にも浸透し始めた。そこでは頭の切れる、要領のいい将官が出世する。民間企業に例えれば、最前線の営業部隊より、本社の戦略企画部隊が肩で風を切るようになった。民間企業のような売上とか利益と言った明確な目標がないだけにかえって始末が悪い。ライバルのソ連と正面から向き合うのはペンタゴンではなく、外交を一手に取り仕切る国務省であった。


(続く)



drecom_ocin_japan at 11:37コメント(1)トラックバック(0) 

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コメント一覧

1. Posted by Louboutin Pas cher Prix   2014年08月13日 18:26
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