2011年11月25日

中東の大型商談で連戦連敗のフランス(3)

(注)本レポートは前田高行論稿集「マイ・レポート」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0208FrenchBusinessInME.pdf

5.ハイテク技術の無いメイド・イン・フランス
 中東の市街地ではフランス製の自動車や家電製品を見かけることはほとんどない。民生用の先端技術商品ではフランス製品は明らかに見劣りがする。フランスにもルノーやプジョー・シトロエンのような世界的な自動車メーカーがあり、エレクトロニクスメーカーも多々あるが、トヨタ、GM、メルセデスなど日米独の自動車メーカー或いはソニー、サムソンなど日韓のエレクトロニクスメーカーのように世界の隅々のマーケットに浸透している製品は余りない。


 フランスにハイテク技術が無い訳ではない。同国が得意とする原発や戦闘機、高速鉄道にはハイテク技術が使われている。問題はハイテク技術が一部の産業に偏っており、また技術の他産業への応用つまり異業種とのコラボレーションが乏しいことではないかと考えられる。Rafale戦闘機の商談でUAE側がエンジンをSafranグループのSnecma社製に、またThales社製レーダーを更に高性能な他社製への変更を要求したが、本体メーカのダッソー社はこれを拒否した、と報じられている 。原発について言えば福島原発の汚染水処理にAreva社が持ち込んだ処理装置はトラブル続きで事故処理の足を引っ張り、結局東芝製に切り替えたと伝えられている。


 世界の市場でフランス製の液晶テレビ、スマートフォンなど民生用電子機器はまったく見かけない。フランス国内では国産品が流通しているものと思われるが、海外市場に出回らないのは品質及び価格の面で国際競争力がないからに違いない。国内市場がそれなりの規模であり、フランス人は国産品に対する愛着が強いため、メーカーはそれに安住して過酷な世界市場の競争を避けているとしか思えないのである。中東のスーパーマーケットにはフランスの酪農製品が氾濫しており、フランスはむしろ農業大国と言うべきかもしれない(中東はイスラム圏のため仏の誇るワインはないが)。


 但しフランスはハイテク技術で他の欧米先進国や日本、韓国に劣るものの、水・電力の分野では複合的なプラントをシステム全体で運営する優れたノウ・ハウを持っている。水関連の総合企業Veolia Water社は上水道から下水道に至る水処理施設を設計・建設し同時に設備の補修、料金の徴収など複雑多岐な事業を数十年間にわたって請け負う民営化プロジェクトに強みを持っている。同社は今年1月オマーンの水電力省とそのような契約を締結した 。またGDF Suez社は電力・ガスの供給実績では世界2位の規模を誇っており、同じオマーンで日本の双日、四国電力とコンソーシアムを組みIPP(独立発電事業)プロジェクトに取り組んでいる 。


6.イラク、リビアの戦災復興需要が頼り
 フランスは中東のビジネス商戦で苦戦している。しかしフランスと中東は歴史的に深い関係で結ばれ、米国や極東の日韓両国よりも地理的に近いためビジネスのつながりは強い。現在フランスが狙っているのは独裁政権が倒れた後、国内の混乱が収束しつつある国々における復興需要である。イラクは2003年のフセイン政権崩壊後も長らく混乱状態を続けていたが、最近インフラ設備の復旧工事に本格的に着手した。これを受けて発電設備や車両製造の世界的メーカーAlstom社は既にバクダッドの地下鉄、ニネヴェの発電所工事などを手掛け、最近ではマンスリーヤの発電プラントを5.5憶ドルで受注している 。また石油分野では国際的企業のTotalが第二次入札でハルファヤ油田開発事業を落札(オペレーターは中国CNPC)、石油・ガスのエンジニアリング企業Technipも近々契約を締結すると報じられている。


 カダフィ政権が倒れ民主化の道を歩み出した北アフリカのリビアの場合、フランスはさらに積極的である。そもそもフランスはNATOの空爆を主導したこともあり、政権交代後の復興需要を取り込もうと積極的に動いている。9月初めにはTotal, GDF Suez, Peugeotなど仏の名だたる企業のトップが二千億ドルとも言われるリビア復興需要についてパリで会議を開催した 。リビア新政権の核となるTNC首脳がベンガジからトリポリに乗り込んだわずか6日後の9月半ばには、サルコジ大統領がイギリスのキャメロン首相とともにトリポリを訪問している。


 イラクとリビアは治安が完全とはとても言えない。それでもフランスはリスクを覚悟でビジネスチャンスを求めている。ハイテク製品の市場は平和で繁栄した国々であるが、それを持たないフランスは日本とは異なる市場で異なる対応を見せているのである。


以上


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp




drecom_ocin_japan at 11:18コメント(0)トラックバック(0) 

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