2012年09月24日
中東VIP劇場英国篇:ロイヤル・コネクションー英国王室とGCC王家・首長家(2)
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0243VipTheatreUkRoyalFamily.pdf
カタール:英国を席巻するカタールのLNGとマネー
(LNG基地開所式に揃う両国元首)
2009年5月、英国ウェールズ州サウス・フックで欧州最大のLNG基地の開所式が行われた。カタールのハマド首長がエリザベス女王と並んで施設を案内、首長の二番目の妻で皇太子の母親でもあるモーザ王妃が女王のすぐ後ろを歩いた(写真参照)。
LNG基地はカタール石油、ExxonMobil及び仏Total社3社の合弁事業であり、QatarGasの 第四、第五Trainで生産されるLNGの英国受入基地として建設されたものである。カタールはこのサウス・フック基地建設に合わせて、スエズ運河を通過できる最大級のLNG運搬船Q-Maxも建造している。かつて北海油田全盛期の1990年代には石油を輸出し、原油とともに産出する天然ガスで国内需要を満たしていた英国は、油田の減退によりガスの生産量は毎年10%近く減少しており、今や天然ガスの輸入国になってしまったのである 。
欧州はこれまでロシア、ノルウェーからパイプラインによって天然ガスを輸入しており、その他アルジェリアからも海底パイプライン或いはLNGを輸入しているが、ロシアへの過度の依存を解消し、供給源を多様化することが悲願であった。一方、世界最大規模のLNG生産体制を整えたばかりのカタールは米国のシェールガス開発により北米への輸出の道を閉ざされ、新たな販路として欧州市場の開拓を狙った 。サウス・フックLNG基地は欧州への本格的な進出を目指すカタールと、欧州LNG市場の覇者を狙う英国の思惑が一致したプロジェクトである。従って開所式に英国女王とカタール首長の両国元首が出席したのは当然のことだったと言えよう。
(ロンドンを席巻するカタール・マネー)
環境に優しいエネルギーとして近年目覚ましい成長を遂げる天然ガスは福島原発事故を契機に更に脚光を浴びている。2000年以降の天然ガスの貿易量の年平均増加率は6.4%であり、2011年にはついに1兆㎥を超えている。中でもLNG貿易の伸びが高く、過去10年で2.4倍、2010年には対前年比24%と言う驚異的な増加率を示している 。
この追い風を受けてカタールの財政は毎年莫大な黒字を生み続け、2011年のLNGによる歳入は360億ドル 、同年の予算黒字は前年比3倍増の122億ドルに達した 。この黒字額は一日平均に直すと約26億円となり、人口の少ないカタール国内だけではとても使いきれる金額ではない。余った資金はカタール投資庁(QIA)とその関連企業を通じてヨーロッパなど海外に積極的に投資されることになる。英国はカタールの主要な投資国の一つである。
QIAに限らず湾岸諸国の政府系ファンドの投資姿勢は慎重かつ安定志向である。従って投資対象は間接投資なら西側大国の政府債・国債、直接投資なら優良な不動産か企業ということになる。カタールは英国ではまずロンドンの不動産に手をつけた。2007年にチェルシー地区の国防省の兵舎跡地を12億ドルで購入したのを手始めに、シティと並ぶ金融センターとして開発に着手されたCanary Wharfの開発事業にも参画した。2010年には有名百貨店Harrodsをエジプト人実業家Al-Fayedから手に入れている。因みにAl-Fayedの息子はダイアナ元皇太子妃の恋人であり、二人が1997年に交通事故で死亡した事件は有名である。そして先に触れた通りカタールは今やロンドンの目抜き通りに欧州最高層のビルを所有するまでになったのである。
株式投資分野で見るとカタールは英蘭系の国際石油企業Shellの3%弱の株を保有し、最近その比率を7%に増やすと表明している 。また世界の株式市場の雄ロンドン証券取引所についてもドバイに次ぐ第二位の株主であることは特筆すべきであろう。ロンドンっ子はカタールのオイル(ガス)マネーの威力を思い知らされているのである。
(続く)
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