2013年05月14日
(サウジ王室レポート)王族の勢力図に地殻変動の兆し(1)
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0267SaudiRoyalFamily.pdf
1. ナイフ皇太子死去に始まった新旧世代交代の波
サウジアラビアでは昨年6月から1年足らずの間にかつてないほど多くの王室関連ニュースが報じられた。6月17日にはわずか8カ月前にスルタン皇太子の死去を受けて新皇太子に即位したばかりのナイフが亡くなり 、2日後に実弟のサルマン国防相兼第二副首相が新しい皇太子に指名された 。その後しばらく第二副首相ポストは空位のままであったが、今年2月に初代国王の35男で国王、皇太子の異母弟ムクリン王子を第二副首相に任命する勅令が発令された 。
この二つの重要な勅令が発令された8カ月の間にも王族にかかわるニュースが次々と伝えられている。ナイフの死後、後任の内相に任命されたアハマド(スデイリ・セブンの一人でナイフ実弟)がわずか4カ月でナイフの息子ムハンマド内務副大臣に大臣ポストを譲って引退した 。州知事についてもリヤド、マッカと並ぶサウジ三大州の一つである東部州知事がファハド前国王の息子ムハンマドから故ナイフ前皇太子の息子サウド王子に、またマディナ州知事はアブドルアジズ王子(初代国王27男マジド王子の子息)からサルマン皇太子の子息ファイサル王子に交代した(共に今年1月) 。
その他故スルタン元国防相の息子のハリド国防省副大臣が辞め、後任にはサウド家の外戚のファハド王子が任命されている(今年4月) 。また中央情報局次官のアブドルアジズ・ビン・バンダル王子が昨年10月辞任している(後任は非王族) 。
これら辞任或いは交代のニュースに隠れて目立たなかったが、アブダッラー国王の異父弟バドル王子(初代国王20男) やサッターム王子(同30男)が亡くなっており、第二世代の王族が次々と舞台から消えつつある 。アブダッラー国王自身も椎間板ヘルニアに悩まされ 外国公賓を車椅子で接見するなど肉体の衰えは隠せない。また第三世代ではあるが今や72歳のサウド外相も昨年8月には何度目かの手術を受けている 。このようにサウド家の王子たちは第二世代(初代国王の子息) の若返り、或いは第三世代(初代国王の孫)へのバトンタッチが続出する状況である。
その若返り、世代交代のドラマの中でこれまで隆盛を誇ってきたスデイリ・セブン一族にも落日が明らかな家系(ファハド家、スルタン家)と生き残りをかける家系(ナイフ家、サルマン家)に明暗が分かれつつある。さらにアブダッラー国王の息子たちは残り少ない父王の在位中に将来の権力基盤を築こうと暗躍している。そしてムクリン王子が第二副首相の地位を得たことでこれまで冷や飯を食っていた王子たちも権力の中枢に食い込むチャンスをうかがっていることは間違いないであろう。
ごく常識的に見れば今後数年(長くとも10年)以内に国王はアブダッラーからサルマンに移るであろう。但し2年足らずの間にサルマンの実兄である二人の皇太子が亡くなるという異常事態が続き、「二度あることは三度ある」、即ち病気を抱えたサルマンがアブダッラーよりも先に亡くなるという可能性がないとは言えない。サルマンの次はムクリン第二副首相であるとしても彼とて今年70歳である。国王に即位するとしてその時果たして彼は何歳になっているであろう。
サウド家の国王レースは混とんとしている。衆目が一致する国王候補はサルマンだけであるが、彼を含め国民に人気があり国王として嘱望される王子は見当たらない。コンセンサスを重んじ個人的に突出することを嫌う部族社会のサウジアラビアでは第三世代の誰かが自ら国王候補に名乗りでるとは考えにくい。むしろ国王と言う最高ポストよりも有力な権力基盤を確保することにより来るべき世代交代にむけて勢力を温存したいと考えている第三世代が多いのではなかろうか。
本稿ではこれまで権力の中枢にいた有力家系について今後の消長を推察してみるつもりである。サウド家内部は厚いベールに覆われており情報は極めて少ない。部外者の予想外の結果になることもあろうが(最近のムクリン王子の第二副首相起用もまさにその一例である)、一つの観測記事として読んでいただきたい。
(続く)
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