2014年03月31日
ハラールで「おもてなし」ー伸びるムスリムの観光・食品産業(4)
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0307Halal.pdf
5.ハラール産業の落とし穴
穀類や野菜類は問題ないが、ムスリムはハラール認定証が無い肉や養殖・加工食品は口にしない。豚肉、アルコールは当然「ハラーム(忌避すべきもの)」であるが、牛・羊・鶏肉などもきめられた「と」殺方法で処理されたものでなければならない。また養殖・加工食品についても養殖の餌或いは加工食品の原料に少しでも豚肉またはその油脂或いはアルコールが含まれていればハラームとなる。宗教の規律に無頓着な多くの日本人にとってムスリムがそこまでこだわることを理解するのは難しい。しかしムスリムにとって「ハラール」と「ハラーム」は理屈の問題ではなく信仰の問題なのである。
但し教義の解釈は国によって異なり、さらには各ハラール認定機関に所属する法学者によって認定の基準が違う。世界標準を決定する国際統一認定機関の無いことが問題である。キリスト教のカソリックでは聖職がピラミッド構造であり、トップの法王庁による教義の解釈が絶対とされる。仏教でも本山と呼ばれる最高機関が裁定を下す。但し対象となるのは倫理的な問題であり、社会生活、経済分野にまで及ぶことは少ない。これに対してイスラムは社会経済活動全般を律する宗教であるため、ハラールかハラームか裁定すべき問題の領域が極めて広いのが特徴である。世界統一の裁定機関があればグローバリゼーションの時代に有用であることは間違いない。但し一方では各国、各民族固有の伝統・文化と言うローカリゼーションと合わない不都合も生じる。社会経済活動まで律するイスラムではこのような利害の衝突が避けられない。厄介な問題である。
例えば日本のハラール認定機関で認定された製品がムスリム諸国でそのまま受け入れられるとは限らない。またマレーシアで認定を受けても中東に輸出できる保証はないのである。そのため各認証機関同士で相互の認定を認め合う方式が普及しつつある。認証の国際的な一元化、即ち認証を国際標準化することは現実には難しいようである。多分将来の形としては有力な認証機関(例えばマレーシア政府のJAKIM)の認定基準がデファクト・スタンダード(事実上の世界標準)として普及するものと思われる。
もう一つの問題は「ハラーム(禁忌)」に対するムスリムの感情が揺れ動くことである。近年、「ハラーム」を厳格に適用する傾向が強まっている。数年前、インドネシアで調味料「味の素」の排斥運動があったが、これは製造過程で豚の油脂に由来する原料が使われていることを指摘されたからである。今ではこのような配慮は当然のこととされており、メーカーは細心の注意を払うようになっている。そしてごく最近の例としては「と」殺方法をめぐりムスリム諸国でデンマーク酪農製品の不買運動が起こっている。イスラムではアッラーの名のもとで動物の頸動脈を切ることがハラームとされており、先進各国が通常行っている電気ショックによる「と」殺は認めない。デンマークがイスラム式「と」殺方法は動物に対する虐待であるとして禁止したところ、イスラム諸国で同国酪農製品の輸入禁止運動が発生したのである 。
デンマークは数年前に預言者を戯画化して物議を醸したこともあり、イスラム圏とは相性が悪い。今回の問題ではデンマークの言い分の方が筆者には解りやすいが、ムスリムの宗教感情は全く別物のようである。「ハラールでおもてなし」の掛け声は高いがハードルは決して低くないようである。
以上
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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
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