2015年08月28日

迷走と暴走を繰り返す老国王:サルマン・サウジアラビア国王(5)

(注)本レポート(1)~(8)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0354SaudiKingSalman.pdf

5.揺れ動く対米外交
 米国オバマ大統領の呼びかけで5月14日、ワシントン郊外のキャンプデービッドに湾岸GCC諸国の首脳が集まった。イランとの核協議合意を目指して最終段階にあった米国は、シーア派のイランに強い警戒心を抱くGCC諸国を説得し、同時にシリア、イラクでますます勢いを増すIS(イスラム国)対策としてGCCの支援(特に資金的な支援)を得る必要があった。


CampDavid

 大統領の呼びかけに対してサウジアラビアは国王自身ではなく皇太子と副皇太子の二人のムハンマドを送りこんだ 。この会議に最高首脳が出席したのはクウェイトとカタールの2か国のみで、サウジアラビアの他、UAE、オマーン、バハレーンはいずれも皇太子・外相クラスの代理出席であった。米国とGCC諸国の格の違いを考えれば、4か国がこのような形で対応するとはオバマ大統領も随分軽く見られたものである。


 UAEのハリーファ大統領、オマーンのカブース国王が病気のため海外訪問できないことは周知の事実である。バハレーンのハマド国王はサウジアラビアに気兼ねして本人出席を見合わせたのであろう。サルマン国王の欠席理由について多くのメディアは米国がイランに譲歩しようとしていることに強い不快感を抱いたためであると報道した。蛇足ながらイスラエルのネタニヤフ首相も同じ理由でオバマ大統領を非難している。日頃から対立し、それでいて中東で最も親米的なサウジアラビアとイスラエルが米国に対して同じような姿勢を見せているのは極めて興味深いことである。


 メディアの推測はほぼその通りなのであろう。しかし少しうがった見方をするならばサルマン国王欠席には別な理由も考えられる。それはサルマンが米国を嫌っているのではないかと言うことである。もう少し正確に言うなら、米国がサルマンをうさん臭く見ていることに対して彼が不信感あるいは猜疑心を持っているためと思われる。さらに加えるとすれば、サルマンが外交に疎いこと、そして最愛の息子ムハンマド副皇太子に対米外交デビューをさせるための親心と考えられないだろうか?。


 9.11米国同時多発テロでイスラム慈善事業に対する米国の疑惑が表面化した。モスクでの金曜礼拝で多額の寄付が集められ、その浄財は貧者、戦争孤児、寡婦、パレスチナ難民など国内および世界各地のイスラム教徒(ムスリム)救済に向けられてきた。米国はかねてから寄付の一部が複数の外国銀行口座を通じてマネー・ロンダリング(資金洗浄)されイスラム過激派組織に流れていると疑っていたが、9.11テロを契機に追及を始めたのである。その結果、イスラム慈善組織のトップであったサルマン・リヤド州知事(当時)にも疑惑が降りかかった。真相は不明である。しかしイスラム過激派組織に湾岸富裕層の金が流れていたことは紛れもない事実であり、サルマンの知らないところで彼が関与していた慈善組織から不正な金が流れていた可能性は否定しきれないのである。米国はサルマンに疑惑の目を向けた。ちょうどそのころの2002年7月、彼の3男アハマドが亡くなったが、これについて9.11テロとの関与をほのめかす報道も流れている。サルマンは米国を恨みむしろ米国離れに傾いたのではないかと言うのが筆者の推論である。


MuhammadPutin
 6月に息子のムハンマド副皇太子を米国と対立するロシアに派遣しプーチン大統領と会談させた 。さらに同月、副皇太子はパリでオランド仏大統領とも会談している 。フランスはとかく米国と一線を画したがる国である。そしてロシアもフランスも兵器産業が重要産業であり、国防相であるムハンマドが訪問することは米国に対するけん制にもなる。実際彼は両大統領と軍事協力について協議しており、フランスとは兵器購入を含む総額120億ドルの契約を取り交わしたと言われる 。このほかフランスがロシア向けに建造しながら経済制裁で破談になり宙に浮いたヘリ積載空母の売却問題が話し合われたとの報道もあるほどである。


 しかしサウジアラビアの体制が米国抜きで安泰であるはずがない。そのような単純な事実に気が付かないほどサルマンが外交音痴とは思われない。イラン核協議合意後の7月22日、国王はジェッダでカーター米国防長官と地域情勢について話し合った。そして8月27日、ホワイトハウスはサルマン国王が9月4日にワシントンでオバマ大統領と会談すると発表した 。国王は現在モロッコで休暇静養中である。ワシントンは近い。米国を袖にしてみたり、再びすり寄ったり、サルマンの外交政策も迷走気味である。


(続く)


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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drecom_ocin_japan at 13:32コメント(0)トラックバック(0) 

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