2016年06月08日

見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(23)

第3章:アラーの恵みー石油ブームの到来

 

 

1.中東の石油産業の曙

 アラブ産油国の人たちはよく「石油は我々の神アラーの恵みである」と言う。それは豊かな富をもたらす石油を与えてくれたアラーに対する純粋な感謝の気持ちであり、同時に石油を持たない他の民族(たとえば日本のような)に対する少しばかりの優越感が発する言葉でもある。実際、世界の産油国の多くはイスラームの国である。イラン、イラク、サウジアラビアは言うまでもない。アルジェリア、リビアなどの北アフリカの産油国もアラブ民族であるとともにイスラームが国教である。サハラ砂漠を越えたナイジェリアもイスラーム教徒が多数を占めている。さらに東南アジアの産油国インドネシアもイスラームの国である。世界の原油生産量の半分近くはイスラームの国々が占め、埋蔵量ベースで見ればその割合はもっと高くなる。彼らが「石油はアラーの恵み」であるというのもあながち的外れではないように思われる。

 

 ただ石油とイスラームの関係は単なる偶然にすぎない。何しろ地中に石油が生まれたのは数億年前のことであり、それに比べると人類が誕生したのはごくごく最近のことになる。だから石油とイスラームを結びつけるのはかなり無理がある。もちろん信仰心の篤いイスラームの人々(ムスリム)からすればすべてこの世はアラーの御業と言いうことになるのであろうから、アラーがムスリムたちのために太古の昔に石油を地下に作りおいてくださった、と言うことになるのであろうか。科学的無神論(智)と信仰(心)の論争は常に水掛け論である。

 

19世紀末、それまでの石炭炊きの蒸気機関に対しドイツで石油を燃料としたガソリンおよびディーゼル内燃機関が発明された。これは輸送分野に革命をもたらし、軍事面では戦車や軍艦の推進機関として急速に普及した。その結果石油の需要が急激に膨らみ世界各地で石油開発が盛んになった。中東では1908年にペルシャ(イラン)で油田が発見され、そしてイラク(1928年)、クウェイト(1938年)さらにサウジアラビア(1940年)と地図上を南下しながら次々と油田が発見された。イランからイラク、クウェイト、さらにサウジアラビア、アブダビへと続く石油の埋蔵地帯は「オイル・ベルト」と呼ばれる。

 

 このオイル・ベルトの開発を手掛けたのは欧米の石油企業であった。中でも「セブン・シスターズ(7姉妹)」と呼ばれる米英の7企業が大きな存在感を示した。スタンダード・オイル・ニュージャージー(エッソ)、スタンダード・オイル・ニューヨーク(モービル)、スタンダード・オイル・カリフォルニア(ソーカル)、ガルフオイル、テキサコの米国系5社と英国のアングロペルシャン及び英蘭系のシェルオイルの7社である。スタンダードの名前を冠する3社はロックフェラーが創業したスタンダード・オイルが反トラスト法で分割されて生まれた会社であり、エッソとモービルはその後合併してエクソン・モービル(ExxonMobil)となり、ガルフオイルとテキサコの2社も合併し現在はシェブロン(Chevron)となっている。

 

 中東の石油開発で先行したのはアングロペルシャン石油(現BP)である。英国の国策会社として発足したBPは第一次大戦下にチャーチル海軍大臣(その後首相)が艦艇の燃料確保のため石油開発を積極的に後押ししたこともあり、英国の強い影響下にあったイランに足掛かりを築き、さらにイラクのキルクーク油田、クウェイトのブルガン油田等の開発権も手に入れた。

 

 出遅れた米国はサウジアラビアに接近して開発権を獲得、同国東部の陸上で世界最大のガワール陸上油田を発見、さらに海上ではサファニア油田を発見した。エッソ、モービル、ソーカル及びテキサコの米系4社はアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(略称アラムコ)を設立して、サウジアラビアにおける石油開発を独占する。セブン・シスターズは中東のオイル・ベルトに盤石の基盤を築き世界の石油を支配したのである。

 

 このセブン・シスターズに反旗を翻した者がいた。イランのモサデグである。共産主義政党ツデー党の流れを汲み1951年に首相に就任したモサデグはアングロペルシャン石油が所有する石油利権を国有化した。これに対してセブン・シスターズは結束してイラン産原油を国際市場から締め出し、社会主義政権の登場を苦々しく思う米国政府もひそかにセブン・シスターズに肩入れした。モサデグは失脚、シャー(パハレビー皇帝)が復権し、以後イランと米国の蜜月関係が始まる。

 

産油国がセブン・シスターズに戦いを挑むのは9年後の1960年にOPEC(石油輸出国機構)を結成して以後のことであり、またイランが米国と袂を分かつのは29年後のホメイニによるイラン革命からである。

 

 (続く)

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 荒葉一也
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drecom_ocin_japan at 09:05コメント(0)トラックバック(0)中東の戦後70年  

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