2017年01月04日

見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(53)

第6章:現代イスラームテロの系譜

 

10.シリア情勢:敵の敵は味方か敵か?

シリア内戦は基本的にはアサド政府とその退陣を求める反政府組織の軍事闘争である。国際的な力学関係でみるとアサド政府を支援しているのがイランとロシア。イランはアサド一族がアラウィ派(シーア派の一派)であることが主な理由であり、ロシアはシリアに中東で唯一の軍港を保有している。ロシアにとって冬季に凍結するバルト海に比べ黒海からボスポラス海峡を抜けて地中海に至る航路は軍事的に重要な意味があるためアサド政権側に立っている。これに対して米国など西欧諸国は反政府組織を支援している。独裁政権を打倒し自由な民主主義政権を樹立することが反政府組織支援の大義名分である。またサウジアラビアなどのアラブ諸国とトルコも一致して反政府支援である。こちらはシーア派のアサド政権及びこれをバックアップするイランに対する対抗措置である。


53シリア勢力図
 

ところがシリアの反政府組織は一枚岩ではない。それどころか思想信条を異にする呉越同舟の集団である。構成メンバーの勢力の消長は激しいが、主なものとしてはクルド人民防衛隊(YPG)と複数のアラブ系反政府勢力から成るシリア民主軍(SDF)並びにヌスラ戦線がある。そして政府組織、反政府組織のいずれとも異なる第三勢力としてIS(イスラム国、別称ISILISIS、ダーイシュ)がある。

 

SDF内の有力な勢力であるYPGはシリア北東部に住むクルド人による軍事組織である。クルド人はシリア、トルコ、イラン、イラク4か国に分布しており民族独立を掲げてそれぞれの政府と対立している。シリア民主軍はスンニ派の世俗軍事勢力として米国、トルコ、サウジアラビアなどが支援しているが、トルコはクルド人の独立運動を警戒してYPGを排除しようとしている。

 

ヌスラ戦線(現ファトフ軍)は国際的テロ組織アル・カイダの流れを汲んでおり、イスラム原理主義、サラフィー主義を標榜する宗教的色彩の濃い勢力である。このヌスラ戦線から枝分かれしシリアとイラクにまたがる国家の建国を宣言したのがISである。当初「イラクのイスラム国(ISI)」を名乗ってテロ活動を展開していたが、2013年12月に米国オバマ大統領がイラク戦争の終結と駐留米軍撤退を宣言すると、活動をシリアにも広げ「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」と改称、さらに2014年には「イスラム国(IS)」として独立宣言するまでに強大化したのである。但し国家とはいってもその内情は残虐なテロ集団、夜盗集団であり、ISを国家として認めた国は皆無である。

 

これら多種多様な勢力に対して外国勢も肩入れの仕方が猫の目のように変わる。米国は反政府勢力の中のリベラル民主勢力であるシリア民主軍を応援するため武器を供給し軍事訓練を行おうとした。しかし西欧的民主主義イデオロギーが希薄な中東では、リベラル勢力はひ弱で武器や資金援助も結局砂漠に水を撒くように雲散霧消している。

 

サウジアラビアなど湾岸の世俗君主制国家もシリア民主軍に肩入れするが、こちらは消去法での支援選択である。つまりGCC諸国はヌスラ戦線やIS(イスラム国)のようなサラフィー主義(イスラム過激主義)は自分たちの体制を危うくするが、イランの支援を受けるシリア政府はもっと受け入れがたい。本音ではリベラル勢力を警戒しているが、欧米と歩調を合わせておけば絶対君主体制はひとまず安泰であるため、消去法の選択肢としてシリア民主軍に賭けているのである。しかし欧米の武器支援と湾岸諸国の経済支援を受けているにもかかわらずシリア民主軍の実戦能力は他の反政府勢力と比べて格段に劣っており、彼らは自分たちの身を守るだけで精一杯である。

 

イスラーム過激派勢力であるヌスラ戦線(現ファトフ軍)とイスラム国(IS)は宗教意識が強く自己犠牲をいとわないため戦闘能力は高い。しかし宗教をバックとする勢力は指導者次第であり簡単に分裂する。ISIL(イラクとシリアのイスラム国)の指導者バグダディはヌスラ戦線と袂を分かち中央政府に対する反政府活動ではなく、外国の支援に頼らない自らの国家「イスラム国」を樹立した。彼らは西欧勢力が植民地時代に線引きをした現在の国境(サイクス・ピコ協定)を認めない。彼らは理想のカリフ制イスラーム宗教国家を目指し、インターネットを利用して外国に住む若者を巧みに誘い、戦闘員に仕立て上げている。

 

独立自営型の「IS(イスラム国)」、アル・カイダのネットワークに頼るヌスラ戦線、クルド人兵士に支えられ欧米と湾岸諸国の援助に頼るシリア民主軍。これら乱立する反政府組織と対峙するのがロシアやイランに支えられるシリア政府軍。基本的にはアサド政権を支えるロシア・イランと反政府勢力をバックアップする中東及び欧米諸国という対立構造の中で諸勢力が群雄割拠してシリア情勢は混乱を極めている。

 

しかし最近になって諸外国の共通目標がIS(イスラム国)の壊滅に絞られた。これに対して劣勢に立ったIS(イスラム国)が欧米やロシアに住むムスリム(イスラーム教徒)に自爆テロを呼びかけている。さらにIS戦闘員が自国に戻ってテロ活動を行う恐れも大きい。前者はホームグローン・テロ、即ち「ご当地テロ」であり、後者は「里帰りテロ」ということになる。これら「ご当地テロ」と「里帰りテロ」を防ぐためにもできるだけ早くISを壊滅しなければならない。そのISに今対抗できるのはシリア政府の正規軍とシリア民主軍のクルド人部隊しかない。ただクルド人部隊は米露トルコいずれも支援する立場にない。

 

結局奇妙なことに米国など欧米諸国は空爆でIS(イスラム国)の拠点を叩くだけで、アサド政権退陣の要求はひとまず棚上げし、シリア政府とロシアの軍事行動を黙認することになる。シーア派のアサド政権が最大の敵であり、消去法で已む無くリベラル反政府勢力のシリア民主軍を応援してきたサウジアラビアなど湾岸諸国は米国からはしごを外された格好である。

 

敵の敵は味方か、それとも別の敵か? 混迷深まるシリア情勢は先の見えない中東情勢そのものと言えよう。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

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drecom_ocin_japan at 09:25コメント(0)トラックバック(0)中東の戦後70年  

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