2017年02月02日

八方ふさがりのサウジアラビア副皇太子(1)国防篇

(注)本レポート1~4は「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0404DepCrownPrinceMbS.pdf

はじめに

MuhammadBinSalman
 サウジアラビアのムハンマド副皇太子はサルマン国王の七男である[1]
。キング・サウド国王大学を卒業後、父親の補佐役として国防相特別顧問、皇太子府特別顧問を歴任、2015年1月アブダッラー国王死去に伴い父サルマンが第七代国王(兼首相)に即位すると国防相に就任した。1985年8月生まれであるから、国防相就任時は30歳にもなっていない。そして同年4月には副皇太子に即位した。因みに皇太子のムハンマド・ビン・ナイフはサルマン国王の実兄故ナイフ内相の息子である。即ち皇太子と副皇太子の両ムハンマドは従兄同士ということになる。副皇太子は序列では国内No.3であり、王位が順当に継承されれば次の次の国王ということになる。

 

 副皇太子は経済・開発会議議長としてサウジの経済全般の舵取りの役割を負っている。この会議がとりまとめた2030年までの長期国家ビジョン「Saudi Vision 2030」及び2020年までに達成すべき具体的な目標計画「National Transformation Program (NTP) 2020」は、2016年春に閣議決定され、サウジアラビアは現在急激な経済改革の途上にある。

 

 外交についてはサルマン国王が健康不安の問題を抱えているため国賓との会談などを除き大半の実務は副皇太子とテクノクラートである外務大臣の二人三脚で進められてきた。またサウジアラビアの命運を握る石油政策についても国営石油会社アラムコ出身のファリハ・エネルギー大臣と副皇太子が政策の鍵を握っている。

 

 これらのことからわかる通りムハンマド副皇太子は国王の全幅の信頼を得て国防、外交、経済、エネルギーなどサウジアラビアの心臓部を一手に握る立場にあり、これまで2年間、八面六臂の活躍で国内外から大きな期待を寄せられている。

 

 しかし最近になって各分野で多くの問題が表面化している。それは世界(そして中東)の政治・経済情勢のしわ寄せであったり、彼自身が旗を振るビジョン2030、NTP2020の急激な改革によるひずみであったりする。この結果ムハンマド副皇太子は今では八方ふさがりともいえる状況の中にある。

 

 本稿では国防、エネルギー、経済、外交それぞれについてその現状と副皇太子が抱える問題について分析を試みる。

 

 

1.国防篇:泥沼にはまったイエメン内戦介入

2011年の「アラブの春」はイエメンにも波及、長期独裁政権を誇っていたサーレハ大統領(当時)がサウジアラビアの仲介により退陣、ハーディー副大統領が大統領に就任して紛争は終息するかに見えた。しかしながら、北部一帯を支配する武装勢力でスンニ派の一派ザイド派のフーシがイランの支援を受けて蜂起した。さらにサウジから帰国したサーレハ前大統領がこれに合流して2014年には首都のサナアを占領するまでになった。ハーディー政権は紅海沿岸のアデンに逃れたが、フーシ・サーレハの連合勢力に押しまくられ、加えて南部ではスンニ派過激組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が暗躍、国内平定どころか自身の存続すら危うい状況になった。

 

見かねたサウジアラビアは2015年3月、アラブ連合軍を結成して反政府勢力の空爆に踏み切った。サウジにとっては長い国境を接するイエメンが不安定化すればサウジ国内の治安も悪化し、サウド家にとって由々しき事態になる。しかしサウジ一国だけの介入では内政干渉と批判される。そこでUAEなど利害を共有するGCC諸国や金で言うことを聞くスーダンなど貧しい北アフリカ諸国を巻き込んで紛争に介入した。介入の理由は反政府勢力をテロリスト集団と断定、ハーディ政権の対テロ活動を支援するという名目である。最近の中東ではISやアルカイダだけでなく、シーア派など敵対勢力にテロリストのレッテルを貼ることがもっぱらである。政府勢力が反政府勢力をテロリスト呼ばわりするだけでなく、逆にシリア内戦のように反政府勢力がアサド政権をテロリストと決めつけることもある。それぞれの政治勢力が敵対勢力を「テロリスト」と呼ぶことで自己を正統化する手段に使っているのである。

 

一般認識としてはテロリスト=イスラーム過激派原理主義者であり、実はサウジアラビアの国教であるワッハーブ派は典型的な原理主義(スーフィズム)である。そのため西欧諸国ではサウジアラビアとイスラーム過激主義を同一視し、その文脈でサウジアラビアこそがテロリストの温床であるとする根強い固定観念がある。従ってサウジ政府がテロリスト撲滅を声高に呼びかけても諸外国はサウジの主張を眉唾とみなすほどである。世界のテロ共同作戦の中でサウジアラビアは孤立している。

 

目をイエメン国内に向けると、シーア派国家イランの支援を受けたフーシはハーディー政権に対して優位に戦っており、また国境を接したサウジアラビアに向けて度々ロケット砲攻撃を行っている。サウジアラビアにとってフーシ勢力の脅威はイラク・シリアのIS(イスラム国)以上に大きい。イエメン内戦は今やサウジアラビアとイランの代理戦争の様相を呈している。アラブ連合軍を率いるサウジアラビアはあたかもベトナム戦争における米国のような泥沼状態に陥っている。拡大する空爆により民間人の犠牲も増え、国際人権団体からはサウジアラビアに対する非難の声が高まっている。

 

サウジ国内では言論統制が厳しく反戦の声は聞こえない。殆どのサウジ人は今もオイルブームのバブルの余韻に浸っており、隣国イエメンの内戦には無関心である。サウジ政府は福祉ばらまき行政を続け国民の不満を抑えることに腐心している。しかし、これまで湯水のごとく使っていたオイルマネーは石油価格の下落により急激に細っている。その一方戦費はますます膨れ上がっている。サウジアラビアの財政は急速に悪化しているのである。

 

しかしムハンマド副皇太子はイエメン内戦からの出口を見つけることができない。わずか30歳そこそこで軍隊経験の全くない温室育ちの王子にイエメン空爆の戦略と戦術は期待できない。最近の彼は国防相でありながら、兵士激励のための前線訪問のニュースもない。昨年3月以降6月のクウェイトでの停戦会談を含め幾度となく和平協議が行われているが、そこにはイニシアティブをとるべきムハンマド副皇太子の姿は見られない。そして両勢力の停戦も長続きせず泥沼の内戦は今も果てしなく続いている。

 

彼が国防相の任にあらずと見られても致し方ない状況なのである。それはとりもなおさず父サルマン国王の任命責任でもあろうが、自身の健康に問題を抱えている国王は最重要ポストである国防相をムハンマドに任せるしかないとも言えそうである。国王には宇宙飛行士の経験のあるスルタン王子或いは空軍パイロットとしてシリア空爆に参加しているハリド王子のように多少とも軍隊経験のある息子がいるが、いずれも国防相の任に堪えないのであろう。サルマンには13人の息子がいるが、これまでの経歴を見る限り、彼は息子たちの教育に失敗し、頼れるのはムハンマドただ一人のようである。勿論それとてムハンマドが傑出して有能というのではなく、他の息子たちと比較した結果でしかないのかもしれない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] サルマン国王家々系図参照:http://menadabase.maeda1.jp/3-1-7.pdf 



drecom_ocin_japan at 10:17コメント(0)トラックバック(0)Saudi Arabia  

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