2017年02月09日

八方ふさがりのサウジアラビア副皇太子(2)石油篇

(注)本レポート1~4は「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0404DepCrownPrinceMbS.pdf

2.
石油篇:シェア競争に行き詰まりロシアを巻き込んで減産・高価格を目指すが?

 石油価格が低迷する中であえてシェアにこだわりチキンレースを展開したサウジアラビアであったが、2015年後半以降、価格はますます下落し、2016年初めにはついに1バレル20ドル台まで急落した。財政悪化に苦しんだOPEC(石油輸出国機構)加盟国は、昨年9月と11月の二度の総会でようやく減産に合意した。さらに12月にはロシアなど非OPEC産油国との協議の結果、今年1月から両者合わせて180万B/Dの協調減産を行っている。OPECが減産に踏み切るのは実に8年ぶりのことである[1]。米国のシェールオイルの生産動向が気がかりではあるが、ブレント原油の市場価格はバレル当たり50ドル台半ばに回復し、OPEC産油国はとりあえず安堵している。OPEC総会或いは非OPEC産油国との協議を主導したのはロシア、米国と並ぶ世界三大石油生産国のサウジアラビアであり、同国Al Falih石油相による活発なオイル外交の成果であった。

 

 実はOPEC・非OPECの協議は半年前の4月、合意寸前まで行ったことがある。当時のサウジアラビアのナイミ石油大臣とロシアのエネルギー相を中心に年初から綿密な打ち合わせが重ねられ4月18日、当時のOPEC議長国のカタールで増産凍結の手打ちが行われる予定であった。但し一つだけ問題があった。イランである。経済制裁のため大幅な減産を強いられていたイランが制裁前の水準に達するまで増産することを強く主張した。そこでサウジアラビアとロシアはとりあえずイラン抜きの増産凍結を宣言する腹づもりであった。

 

 それに待ったをかけたのがムハンマド副皇太子であり、彼はイラン抜きの決定に強硬に反対した。一介のテクノクラートに過ぎないナイミ石油相は王族No.3の副皇太子の意向に逆らえず、それまで積み重ねてきたロシアやUAEなど有力産油国との話し合いを已む無く反故にした。ハード・ネゴシエーターとして名をはせたナイミとしては国際会議の場で大恥をかいた気分だったかもしれない。副皇太子と石油相の関係にひびが入った。

 

その後5月初めに内閣改造があり、ナイミ石油相が退任し、改組されたエネルギー省の大臣にAl Falihアラムコ取締役会議長が指名された。Al Falih新エネルギー相は56才、82才のナイミから大幅に若返った。30才そこそこの副皇太子にすれば年の離れたベテランのナイミは使いにくかったはずである。と同時にナイミ自身もアブダッラー国王の時代に高齢を理由に退任を申し入れたことがあったが、その時は国王のたっての要請で留任し続けた経緯がある[2]。彼はアブダッラー国王に個人的な忠誠を尽くしたと言えよう。従って国王がサルマンに代われば石油相を続ける義理は無い。ナイミは石油相の地位に未練は無かった。この結果、副皇太子及びその意向を受けた新エネルギー相との関係も急速に薄れた。逆に言えば副皇太子はナイミというかけがえのないご意見番を失ったことになる。

 

 振り返って見ればサウジアラビアの石油大臣はOPEC創設期のヤマニ、産油国サウジの存在を世界に知らしめた前大臣のナイミ、そして現在のAl Falihエネルギー大臣、と歴代テクノクラートが務めている。国際情勢に振り回され変化の激しいエネルギー問題ではサウジアラビアの石油担当大臣と云えども足をすくわれることがある。そのような時テクノクラートであれば責任を取らせやすい。「トカゲのしっぽ切り」である。サウジアラビアでは国王が首相を兼務し石油大臣をコントロールするが、今はムハンマド副皇太子がその役割を担って石油大臣を陰で操っている。否、「操ってきた」という方が正しいかもしれない。最近の副皇太子はOPECを中心とする国際石油政策或いは国営石油アラムコの運営方針についてAl Falihエネルギー大臣にゆだね、自ら口をはさむことが無くなった。そして今回OPEC主要産油国が減産を受け入れた中でイランは実質的な増産を認められた。半年前の4月にイラン抜きで増産凍結を打ち出そうとしたことと比べ、今回の決定にはどれほどの進歩があっただろうか。サウジアラビアの石油政策が挫折したとすら言えよう。

 

Aramco
 しかし石油政策とは別に副皇太子がどうしてもやり遂げなければならないことが一つ残っている。アラムコの株式上場即ちIPOである。彼はビジョン2030及びNTP2020と呼ばれる野心的な経済改革プランを提唱、サウジアラビア経済の脱石油化を宣言した。但し現在の石油依存体質を脱却するために必要な資金は石油しかないというジレンマがある。そのジレンマを脱する方法が国営石油会社アラムコを株式会社として上場し株式の売却益をひねり出すことなのである。

 

 副皇太子はアラムコのIPO(新規上場)として株式の5%を売り出すと決めた。サウジアラビアの石油生産量は1千万B/D、埋蔵量は2,700億バレルに近い。世界最大の石油企業のエクソンモービル社ですら生産量は240万B/Dであり、アラムコの規模が桁違いであることがわかる。サウジ政府関係者はアラムコの企業価値を2兆ドルと見立てている。IPOで5%を上場するとしてそれだけで1千億ドルになる。これまでで最大と言われた中国アリババのニューヨーク上場が200億ドルであったから、アラムコIPOが如何に巨大なものであるかわかる。

 

 これだけ巨大なIPOはサウジアラビアの国内市場Tadawulの手に負えない。小さな池にクジラを放つようなものだからである。Al Falihエネルギー相もTadawulのほか世界で2~3か所の有力株式市場に同時に上場するつもりであると語っており、ニューヨーク、ロンドン、東京、香港、シンガポールなどが取りざたされている。上場誘致のため東証を傘下に置く日本取引所グループのCEOがサウジアラビアを訪問している[3]

 

 アラムコの残る95%の株式は政府系ファンドの公共投資ファンド(PIF)に移管される。そうなればPIFはノルウェー政府ファンド或いはアブダビ投資庁(ADIA)をしのぐ世界最大の政府系ファンド(SWF)になる[4]PIFは既に野心的な投資活動を始めている。米国の自動車配車アプリのUBER社に35億ドルを投資、さらに昨年はソフトバンクが打ち上げた1千億ドルのハイテクファンドに450億ドルの出資を決めている。ムハンマド副皇太子とソフトバンクの孫社長の東京での電撃会談が世界をあっと言わせたことは記憶に新しい。

 

 副皇太子が次々と打ち出す野心的な経済政策はこれまでの王族には見られなかったものであり国の内外からその行動力に称賛の声が上がっている。しかし彼が目指す改革はスタートしたばかりであり、結果は当分先の話である。石油を脱却するためにとりあえず石油にすがる。それが現在のサウジアラビアの姿であり、ムハンマド副皇太子の姿である。ただ2030年のゴールに至るハードルはかなり高い。ゴールにたどり着ければ副皇太子は傑出した指導者としての名声を手にするであろう。しかし失敗しないまでも不十分な成果しか上げられなかったならばそれは石油という虎の子の資産を食いつぶしただけの「虻蜂取らず」の結果に終わる恐れが無きにしも非ずである。今、ムハンマド副皇太子は危険なタイトロープ(綱渡り)を始めたばかりなのである。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

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[1] 9月から今年年初までのOPEC総会、非OPEC産油国との協議の経緯は拙稿「OPEC減産合意の経緯」参照。http://mylibrary.maeda1.jp/0397OpecProductionCut.pdf ごい

[2] マイライブラリー0154「辞めさせてもらえないサウジアラビアのサウド外相とナイミ石油相 (20074)参照。http://mylibrary.maeda1.jp/0154SaudNaimi.pdf 

[3] 201716NHKニュースより。

[4] 資料「世界の政府系ファンド」参照。http://menadabase.maeda1.jp/1-G-2-05SwfRank.pdf 



drecom_ocin_japan at 10:59コメント(0)トラックバック(0)Saudi Arabia  

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