2018年01月11日

混迷深まるサウジアラビア(その1):スケープゴートにされた大富豪アルワリード王子(下)

(注)本レポート上・下は「OCIN-Initiative(荒葉一也ホームページ)」で一括してご覧いただけます。

 http://ocininitiative.maeda1.jp/Commentary.html

 

2018.1.11

荒葉一也

Areha_Kazuya@jcom.home.ne.jp

 

親子二代にわたる遺恨の様相

MbS
 このようにサウド家一族のこれまでの勢力争いの歴史を念頭に考えると今回の汚職摘発による王族の逮捕拘束にはファハド、スルタン、ナイフ亡き後のスデイリ・セブンの最後の砦であるサルマン国王とムハンマド皇太子がムッテーブ王子などアブダッラー前国王派の一掃を画策、アルワリード王子はそのとばっちりを受けてスケープゴートにされたと考えることができる。アルワーリド王子に対する唐突な拘束と巨額の釈放金の要求にはサルマン国王・ムハンマド皇太子父子とタラール王子・アルワリード王子父子という親子二代にわたる遺恨の様相がみえてくるのである。

 

 ムハンマド皇太子は昨年11月のニューヨーク・タイムズのインタビューにおいて「我が国は1980年台から汚職にけがされ、検察当局は逮捕者から1千億ドルを回収できると見込んでいる」と語り、今回の王族摘発は権力掌握のためとの憶測を否定、「2015年初めから当局に命じて内偵してきた」と述べている[1]

 

 しかし皇太子の言葉を鵜呑みにはできない。トランプ米大統領は今回の皇太子の勇断を評価しているが、トランプ大統領以外の世界中のメディアや政治家、評論家は汚職摘発の陰にサウド家内の権力闘争の臭いをかいでいる。特にサウジアラビアと深い利害関係を持つ金融界や経済界のビジネスマンたちは関心と同時にサウジ経済の先行きに強い懸念を抱き始めた。

 

 アルワリード王子が本当に容疑を受けるような汚職に手を染めたのか、それが釈放金60億ドルに値するほどの大罪なのか、真相は明らかではない。ムハンマド皇太子は汚職のルーツは1980年代にさかのぼると述べているが、アルワリード王子自身はそのころは既に欧米での投資事業に軸足を移しており、国内ではほとんど活動していない。当時はファハドが皇太子として実権を握り、1982年に第5代国王に即位すると、その後は2005年にファハドが亡くなるまで彼を頂点とするスデイリ兄弟が国政を壟断する時代が続いたのである。その時期は丁度石油収入が右肩上がりに増え、インフラ開発に莫大な国費が投じられ、欧米諸国から巨額の武器を調達した時代であった。国内建設業者あるいは海外武器メーカーとの取引で巨額のリベートがファハド国王はじめスルタン国防相、ナイフ内相、サルマンリヤド州知事のスデイリ兄弟たちに流れたと見てほぼ間違いないであろう。

 

 その当時のスデイリ兄弟にすればリベートは当然の分け前であり、石油の富は彼ら以外の王族あるいは一般国民にもいきわたっていたので罪の意識は薄かったかもしれない。しかし21世紀に入ると分配すべき富に限りが生まれた。分け前にあずかることのできる王族はアブダッラー国王の身近な王族や取り巻きに限られてくる。しかも国王の余命も長くはない。従って取り巻きの王族や高級官僚が競って蓄財に励んだであろうことは容易に想像できる。

 

 近年汚職が蔓延し一般国民の間に支配層に対する不信感が高まったのは事実であろう。ムハンマド皇太子はその機運を捕えて政敵の排除に乗り出したと言えよう。アルワリード王子はスケープゴートにされたのである。

 

今後の行方は?

 アブダッラー国王の子息ミッテーブは当局と早々と妥協、10億ドルを支払って釈放された[2]。しかしアルワリード王子は釈放金の支払いを拒否し法廷闘争に持ち込む構えを見せている。彼が本当に法廷で裁かれるのか、それともムハンマドとアルワリードが妥協し何らかの条件付きで釈放されるのかは予断を許さない。彼が拘束されている超高級ホテル リッツ・カールトンは225日から一般客の宿泊を受け入れるようである[3]。これから判断してアルワリード王子の処遇も近々決定するものと思われる。

 

 ムハンマドはかなり頑なな性格の持ち主であり、カタール問題でもクウェイトの調停を無視し断交を続けている[4]。ここでも反イランで同調するトランプ米大統領の後押しが皇太子の強気を支えている。しかし妥協のない外交や政治は長続きしない。アルワリード王子も裁判に備えて超一流の弁護士を雇うであろう。場合によってはこれまでのビジネス活動を通じてサルマン一族の秘密を握っている可能性も否定できない。法廷で両者の暴露合戦が展開されればサウド家及びサウジアラビアに対する国際評価は地に落ちる。双方にとって何もプラスはない。

 

 今回の事件はこれまでサウジアラビアと商取引や投資を行い、あるいは今後ビジョン2030のビジネスチャンスを狙う世界のビジネスマンにとってかなりの影響があろう。サウジアラビアの王族あるいは閣僚、有力ビジネスマンとの取引にかなり慎重になることは間違いない。今回の摘発はサウジ人だけであったが、今後場合によっては外国人ビジネスマンに累が及ばない保証は無いからである。あるいはそのような状況にもかかわらず間隙を縫って皇太子とその取り巻きに取り入り私腹を肥やす外国人も現れるであろう。機を見るに敏な彼らは暴利をむさぼった末、状況が不利と判断するや手のひらを返すように去っていくに違いない。サウジアラビアに汚職の種が尽きることはなさそうである。

 

 いずれにしてもサウジアラビア経済は当分の間混乱と低迷の時代が続く予感がする。

 

以上



[1] “Saudi Crown Prince says anti-corruption drive is essential for the Kingdom’s reputation” on 2017/11/24, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1198521/saudi-arabia

[2] “Saudi prince freed in $1bn deal: official” on 2017/11/30, Daily Tribune (Bahrain)

http://www.newsofbahrain.com/viewNews.php?ppId=39980&TYPE=Posts&pid=22&MNU=3&SUB=

[3] “Riyadh Ritz-Carlton to reopen doors for guests from Feb. 25” on 2018/1/5, Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/article/525507/SAUDI-ARABIA/Riyadh-Ritz-Carlton-to-reopen-doors-for-guests-from-Feb-25

[4] レポート「いよいよ GCC 解体か?―GCC 首脳会議を振り返って」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0429GccSummitDec2017.pdf 



drecom_ocin_japan at 09:01コメント(0)Saudi Arabia  

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