Saudi Arabia

2017年03月27日

2017.3.27

荒葉一也

 

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4.ビジョン2030篇:笛吹けど踊らぬ民間経営者

Vision2030
 ムハンマド副皇太子が旗を振る長期国家ビジョンSaudi Vision 2030(ビジョン2030)及び国家変革計画NTP2020は極めて野心的な計画である。そしてこれらの計画に関与し(或いは関与しようとしている)外国政府・企業関係者は今度こそサウジ政府の意気込みは本物である、と異口同音に語っている。確かにその通りであろうしそれにケチをつけるつもりはない。

 

 しかしいわゆる評論家たちの目は必ずしもそうばかりとは言えない。彼らの多くはいくつかの計画の目標達成は難しいとみている。ビジョン2030の「繁栄する経済」と題する項目では、2030年までにGDPを現在の世界19位から15位以内に引き上げる、GDPに占める民間部門の比率を40%から65%に引き上げる、失業率を11.6%から7%に引き下げる、女性の労働参加率を20%から30%に引き上げる等の目標が取り上げられ、また「活力ある社会」の中では平均寿命を74歳から80歳に延ばす、現在の持ち家比率47%を2020年までに5%引き上げる等の目標が掲げられている。そして三番目に掲げられた「野心的な国家」ではe-Government(電子政府)を推進し世界ランク5位(現在は44位)を目指す[1]、非石油製品による政府歳入を現在の1,630億リアルから2030年には1兆リアルにアップさせる等が掲げられている。

 

 ビジョン2030を実現するために2020年までに達成すべき目標を示したNTP2020では非石油収入を5,300億リアルに増やすこと、公務員の給与総額を4,800億リアルから4,560億リアルに削減すること、非政府部門で45万人以上の雇用を創出すること、国営企業を民営化するためのセンターを創設すること、石油精製能力を290万B/Dから330万B/Dにアップすること、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を4%とすることなどの具体的目標が挙げられている。

 

 今回のビジョン2030及びNTP2020に共通しているのは目標が極めて具体的な数値として示されていることである。それゆえに国民や外国の政府・企業にとって非常にわかりやすい。しかしその反面、本当にこれだけ盛り沢山の目標を2030年或いは2020年まで(2020年と言えば残すところわずか3年である!) という限られた時間内に実現できるのか、という疑問が付きまとうのである。

 

 石油収入に依存し人口が増え続けるサウジ社会が破たんするのを防ぐめには産業の多角化を図り雇用を創出する以外に道は無い、という思いがムハンマド副皇太子の胸中にあり、それは国の将来に対する不安の表れであると同時に父親のサルマン国王により将来の指導者として自分が選ばれたことに対する強い自負の表れでもある。

 

 ただビジョン2030とNTP2020に掲げられた目標は政府の努力だけで達成できるものではない。上記に例示した目標を見てもわかる通り目標の多くは民間部門と密接にかかわっており、GDPに占める民間部門の比率向上、非政府部門の雇用創出などはまさに民間企業の協力なくしては達成不能である。

 

 ところが政府が華々しく打ち上げたビジョン2030、NTP2020に対して民間企業経営者がもろ手を挙げて賛同しているようには見えないのである。政府の経済刺激策が大きなビジネスチャンスであるにもかかわらず、民間企業特に大手財閥のクールさが目に付く。今回のサルマン国王の来日に多数のビジネスマンが同行しているがそこには歴史のある大手財閥企業の名前は見えない。

 

 日本では首相の一声で経団連が民間経営者を束ねて首相の外国訪問に同行する。他の国でも似たような図式である。経団連のような統一した業界団体のない開発途上国では、権力者を取り巻くいわゆる政商たちが徒党を組むことが多い。しかしサウジアラビアの財閥はこれまで殆ど国王或いはサウド家の王族と行動を共にしていない。特にサルマン現国王の時代になってからその傾向が強いように見受けられる。つまり民間経営者たちはサルマン国王とムハンマド副皇太子の新経済方針に対して冷ややかな目を注ぎ、「お手並み拝見」とばかり様子見を決め込んでいる節がある。

 

 民間経営者が積極的に手を出そうとしないのは政府の一連の政策にも原因がある。その一つはサウジ人化政策(サウダイゼーション)である。公共部門のサウジ人化が飽和状態に達したため政府は民間部門のサウジ人化政策を強力に進めている。若年層の人口が急増し、しかも失業率が高止まりしたままでは社会不安が増大する。それが政府の頭痛の種でありサウジ人化政策は最優先課題の一つである。しかし民間経営者サイドから見れば、サウド家政府の政策により外国人労働者に比べて給与が高くしかも極めて効率が悪い自国民の雇用を強制されることを意味する。新経済政策をビジネスチャンスととらえてもそこには大きなリスクが潜んでいるのである。

 

 そしてもう一つは民間企業に対する政府の場当たり的な対応である。典型的な例は公共施設の建設事業、発電造水プラント建設事業などによくみられるが、石油価格が下落し歳入が急減すると契約通りに業務を遂行している民間企業に対して支払いをストップする悪弊である。民間事業者が契約を誠実に履行したにもかかわらず、発注官庁が代金を支払わないのである。民間企業同士であれば契約代金を支払わない業者は業界から追放される。しかしサウジ政府はいつも殿様商売なのである。

 

 生き馬の目を抜く厳しい競争を勝ち抜いてきた民間経営者から見れば今のサウジ政府、即ち権力を一手に握るサウド家はとても安心して付き合える相手ではないと言えよう。ムハンマド副皇太子は民間経営者の冷ややかな視線にどのように対処するつもりであろうか。31歳の若きプリンスの前には巨大な壁が立ちはだかっていると言ってよかろう。

 

以上

 

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       荒葉一也

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[1]MENAランクシリーズ3「E-Government指数2016年版」参照。

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2017年03月19日

2017.3.19

荒葉一也

 

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3.外交篇:米トランプ政権誕生で漸く腹が据わったサウジアラビア外交

TrumpMuhammad

 しばらく鳴りを潜めていたムハンマド副皇太子が314日ホワイトハウスでトランプ米国大統領と会談、イラン、シリア、イエメン、イスラム国など山積する中東問題について意見を交換した。トランプ新政権誕生後、中東アラブ諸国の首脳が大統領と直接顔を合わせるのはこれが初めてである。しかも歴代大統領が国家元首以外ではこれまで慣例として認めていなかった大統領執務室(オーバル・オフィス)での写真撮影を許可し、さらに会談後は昼食に招くなど異例の厚遇ぶりを演出した。

 

 ムハンマド副皇太子の訪米外交に力を入れたのはサウジ側も同じである。オバマ前大統領時代に過去最悪ともいえるまでに落ち込んでいた対米関係を改善することはサウジの悲願だったからである。実は同じ時期にサルマン国王一行が大人数を従えて日本を訪問したのであるが、予定されていた複数の有力閣僚が直前に訪日をキャンセルしている。Al-Jubeir外務大臣は副皇太子の露払いとして先行渡米し、またFalihエネルギー相はエネルギー会議「CERAウィーク」出席を名目にテキサス州ヒューストンに飛んでいる。共に副皇太子を支えるためと考えられる。サルマン国王にとっては米国に出かけたムハンマド皇太子のことがよほど心配だったに違いない。副皇太子は第二副首相兼国防相に加え経済開発問題会議議長も兼務しているが外交は直接の担当分野ではない。外交は首相を兼務するサルマン国王が前駐米大使のAl-Jubeir外相を指揮する形である。しかし国王は実質的な外交の決定権を当初から息子のムハンマド副皇太子に委ね、外相もテクノクラートとして副皇太子の指示に忠実に従っている格好である。

 

 20151月のサルマン国王即位時の米サウジ関係は最悪の状態であった。オバマ前大統領は一連の「アラブの春」騒動でアラブの民主勢力に肩入れし、さらに核開発問題をめぐってイランと「歴史的な核合意」を締結した。これによりオバマは中東における戦争の脅威が薄れたとして、外交・国防の重点を中東から太平洋地域にシフトした。この結果、中東に「力の空白」が生まれ、シーア派のイランがシリア・アサド政権及びイエメン反政府組織のフーシー派を支え、またシリアとイラクにまたがる地域ではイスラーム過激派「イスラム国」が台頭した。スンニ派の盟主を自認するサウジアラビアにとっていずれも耐え難いことであった。

 

スンニ派の「イスラム国」はイスラム原理主義を標榜しており、この点では同じスンニ派原理主義であるワッハーブ派を奉じるサウジアラビアと「イスラム国」は似た者同士である。しかしサウジアラビアのサウド王家は実際は絶対君主制の世俗政権であり、従って中東でイスラーム宗教勢力が強くなりすぎることは好ましくないのである。サウジアラビアがイランを極端に嫌うのもシーア派とスンニ派の宗派闘争というよりむしろ世俗君主制政権対宗教政権の対立が根底にあり、サウジアラビアはそのことが表面化することを嫌っているからというのが一面の真理であろう。イランの宗教性を嫌っているのは米国も同じであり、だからこそサウジアラビアは米国べったりの姿勢を見せ石油政策および武器輸入で米国の歓心を買っていたのである。

 

 しかしオバマ政権末期にはサウジアラビアの米国に対する期待はことごとく裏切られアブダッラー前国王は米国に嫌悪感すら抱くようになった。このような状況を引き継いだサルマン国王は20161月の即位直後から米国依存脱却を模索した。同年6月にムハンマド副皇太子がロシアのプーチン大統領及びフランスのオランド大統領と相次いで会談したのは米国離れにより中東情勢を転換しようとしたためと見ることができる。しかし中東情勢を動かすことができるのは米国の他にはないことをサウジは思い知らされた。ロシアもフランスもサウジアラビアに対して外交辞令を並べるか、さもなくば武器の売り込みに熱心なだけであった。結局サウジアラビアが頼る先は米国しかないことを思い知らされたのである。

 

 オバマ民主党政権からトランプ共和党政権に交代し、サウジアラビアの期待が一気に膨らんだ。トランプ大統領はイスラム国の殲滅に米軍を投入し、イランとの核合意を破棄する姿勢を見せている。場合によっては直接イランを叩くことすらほのめかしている。サウジアラビアにとっては願ってもないことである。

 

 但しサウジアラビアはトランプ米政権の中東政策の真の意図を忘れてはならない。それは二つある。一つは(邪悪とみなす)イスラーム思想が米国に広がるのを阻止すること。トランプはイスラーム思想そのものは民主主義と相いれない過激思想と見ている。彼にとってはヨーロッパ諸国のイスラームとの融和政策こそがこれら各国にイスラーム・テロをもたらし、イスラーム難民を呼び込んだ元凶に映る。だからこそイスラーム思想に忠実な宗教国家イランは我慢がならないのである。

 

 トランプ中東政策の二つ目の意図は徹底したイスラエル擁護政策である。これはトランプを支える共和党の伝統的な政策であり、保守派の米国白人層を代弁したものでもある。米国のビジネス特に金融界を牛耳るユダヤ人の実力は不動産業で浮き沈みを経験したトランプにとって十分すぎるほどわかっているはずだ。

 

 イスラームを国家の基本理念に据え、また歴史的にパレスチナ支援の姿勢を明確にしているサウジアラビア政府にとってはこのようなトランプ政権の二つの意図はいずれも簡単に受け入れられるものでないことは間違いない。しかし今のサウジアラビアが頼れる相手は米国しかないのである。トランプ政権の誕生でサウジアラビアの外交はようやく腹が据わったようである。

 

(続く)

 

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2017年03月08日

201738

荒葉 一也


SaudiAramco

 サウジアラビア国営石油会社サウジ・アラムコ社のIPO(株式公開)が山場を迎えている。サウジ政府は来年2018年後半の上場を目指してアドバイザーの選任、海外証券市場の選定、上場に必要な資料作成などに忙殺されているようである。しかしながら最近になって上場の条件をクリアすることの難しさが浮き彫りにされつつある。また株式の5%上場により1千億ドルが得られると目論んだ皮算用に対して、サウジが見積もるアラムコの企業価値2兆ドルは高すぎるとする欧米金融機関も現れた。さらにアラムコと政府との特殊な関係を清算し、欧米における通常の企業上場基準を満たすことは容易なことではない、との懸念も表明され、アラムコの上場に黄信号が灯り始めた。

 

企業価値2兆ドル説の根拠

 そもそもアラムコの企業価値を2兆ドルと言い出したのはムハンマド副皇太子(サルマン国王の息子)であり、2016年1月の英Economistのインタビューにおいてであった。サウジアラビアの石油可採埋蔵量は2,666億バレルであり[1]、これに埋蔵量評価の指標価格とされるバレル当たりの8ドルを掛けると2兆ドル強になることが計算根拠とされる。アラムコはサウジアラビア唯一の石油開発企業であることから、同国にある埋蔵石油の評価額は即ちアラムコの企業価値になるという理屈である。埋蔵量については現在米国のBaker Hughes社に評価を委託中と伝えられている[2]

 

上場石油企業としては世界最大のExxonMobilの時価総額は約3,400億ドルであり(今年2月現在)、2兆ドルの6分の1にすぎない。企業価値と時価総額は意味が異なるにしても市場関係者はアラムコ2兆ドル説に疑問を呈しており、Wood Mackenzie社はアラムコの中核ビジネスの価値は概算4千億ドルとの見解を示している。サウジ政府内の関係者ですらアラムコの企業価値は5千億ドル程度と考える者もいるのである[3]

 

国営企業なるが故の不透明な財務内容と高い税率

 アラムコは米国の石油企業によって1933年に設立され、その後1980年に完全国有化された。油田管理技術或いは人事などの事務管理は米国の流儀が浸透し透明性が高く外国からも高い評価を受けている。しかし経理面では不透明な部分が多く財務内容もほとんど明らかにされていない。また石油がサウジアラビアの唯一最大の収入源であることもあり、アラムコの税率は85%という高率である。さらにアラムコが有能な人材と効率的な経営ノウハウ及び豊富な資金力を抱えていることに目をつけ、政府は同社に対して石油の開発生産・精製以外の分野への関与を求めている。それは石油化学のような下流部門にとどまらず、アブダッラー前国王の時代にはサッカースタジアムの建設まで押し付けられている。また石油の歳入の一部が密かにサウド家の王室費或いは王族の費用に回されているという噂も絶えない。

 

 このような財務の不透明性或いは民間企業とかけ離れた税制はアラムコ上場前に投資家に対して説明責任を果たさなければならない。海外の株式市場に上場することを念頭に置いているだけになおさらである。

 

 サウジ政府もこれら海外金融機関・投資家の疑問に答える姿勢を示しており、今年中に同社初の四半期決算財務報告書を作成、来年のIPO実施時に公表するとしている[4]。またアラムコの内部アドバイザーとしてすでに選定済みのJPMorgan及びMichael Kleinに加えニューヨークの投資顧問会社Moelis & Co.を指名している。そしてGoldman Sachs, Morgan Stanley, HSBC()及びCredit Suisseの4行にIPOのアドバイザー役を求めている。IPOの引受銀行団は近く固まる見通しである[5]

 

いつ、どこで?-IPOの時期と上場証券市場

 IPOの時期は今のところ2018年後半とされているが、投資家の疑問解消にはなお数多くの問題が残されている。特に現在の税制ではキャッシュフローに問題が残るとの懸念は強く、来年中のIPOは無理ではないかとも言われている。

 

 またIPOはサウジ国内市場(Tadawul)のほか、海外の有力証券市場にも同時に上場されることになっているが、その対象としてはニューヨーク、ロンドンの他、カナダのトロント、さらにはアジアの市場として香港、シンガポール、上海及び東京が取沙汰されている。すでに東京証券取引所を傘下に置く日本取引所グループの幹部は上場誘致のためサウジアラビアを訪問している。

 

 しかしサウジ政府は欧米3市場のいずれか、中でもニューヨークでの上場を本命とし、アジア市場はあくまで当て馬と考えている模様で、しかもアジア4市場の中でも国際企業の少ない東京市場は可能性が薄いようである[6]。ただ昨年米国議会は911テロ事件に関して米国民が直接サウジアラビア政府を訴えることができるとするいわゆるJASTA法を可決しており、これに対抗してサウジアラビアは大量に保有している米国政府債の売却をちらつかせるなど、両国は緊張関係にあるため、アラムコのニューヨーク上場も紆余曲折がありそうである。

 

東証上場問題はさておきサウジ政府は日本の豊富な投資資金には魅力があり、昨年6月に北京で開かれたG20エネルギー大臣会合でFalihエネルギー相はアラムコIPOに日本からの投資を期待していると語っている[7]。一方日本側も低金利政策で海外での有利な運用先を物色中の個人や機関投資家はアラムコのIPOを注視している。

 

これに対して欧米の金融機関はアラムコIPOを冷めた目で見ておりExxonMobil等の石油株を保有するAllianz Global Investorsは、政府に近すぎる企業への投資は魅力が乏しい、としてIPOでの株式購入に消極的である。なお日本政府関係者も日本はサウジと合弁事業などの経済技術協力に重点を置いており、公的資金によるアラムコへの投資は考えていないと語っている[8]

 

 

 今月14日から3日間の予定でサルマン国王が来日するが、国王がアラムコIPOへの投資に言及するのか、さらには随行する要人が金融機関に直接働きかけるのか、その成り行きが注目される。

 

以上

 

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       荒葉一也

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[1] BP Statistical Review of World Energy 2016年版による。

http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-T01.pdf 

[2] ‘Saudi Aramco selects US firms to audit reserves for IPO’ by The Peninsula on 2017/1/26

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/26/01/2017/Saudi-Aramco-selects-US-firms-to-audit-reserves-for-IPO

[3] ‘$2tr Aramco vision runs into market reality’ by Gulf News on 2017/2/26

http://gulfnews.com/business/economy/saudi-arabia-2tr-aramco-vision-runs-into-market-reality-1.1984671

[4] ‘A giant IPO on track’ by Arab News on 2017/2/19

http://www.arabnews.com/node/1056341/business-economy

[6] 同上



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2017年02月28日

2017228

荒葉 一也

 

  サウジアラビアのサルマン国王が2月26日から日本を含むアジア5か国歴訪の旅に出かけた。国王は1935年12月生まれで、現在83歳の天皇陛下とは2歳しか違わない高齢である。加えて健康に不安があり2015年1月の即位以来外国への公式訪問はエジプトとGCC諸国など近隣諸国の他は同年5月に訪米したくらいであり、それ以外は私的な夏季休暇を外国の別荘で過ごす程度である。

 

ところが今回の外国訪問は31日間という長期にわたりアジア5か国を歴訪、帰途ヨルダンに立ち寄る予定になっている。2月26日に最初の訪問国マレーシアに3日間滞在したのち、インドネシアではバリ島での5日間の休養を含め12日間を過ごし、次いで中国に4日間、さらに日本を3日間公式訪問する。そして最後にモルディブを訪問、帰途ヨルダンに立ち寄るという強行スケジュールである[1]

 

リヤドからのフライト時間だけで見ればヨーロッパはもとよりワシントンの方がよほど近い。そしてサウジアラビアが現在抱えている外交或いは経済問題から考えた場合、今回訪問するアジア各国は近隣アラブ諸国或いは欧米諸国との関係に比べ外交の優先度が低いことは明白である。

KingSalman

国王本人の健康問題或いはサウジアラビアが置かれた状況から考えて今回の長期外遊には違和感がぬぐえないのである。勿論今回の訪問国がサウジアラビアにとって重要な国々であることは論をまたない。マレーシアとインドネシアは東南アジアのイスラーム国家であり、イスラームの盟主であるサウジアラビアにとって需要な国であろう。中国と日本はサウジアラビアの原油の最大の顧客である。そしてサウジアラビアは今、ビジョン2030を掲げ石油依存の経済から先進国家に脱却しようと固い決意で臨んでいる。そのためにサウジアラビアは先進イスラーム経済国家であるマレーシアとインドネシアとの協力が必要であり、また経済大国である日本と中国の先端技術或いは資本が必要であることは理解できる。

 

 しかしそれらの事情を踏まえたうえでなぜサルマン国王がこの時期に長期にわたり国を留守にしてまでアジア4か国(モルディブ訪問には政治的経済的背景は考えにくい)を訪問するのであろうか。敢えて今回の外遊を裏読みすると次のような憶測も否定しきれないのである。

 

憶測1.何らかの手術或いは治療をするのではないか?

 マレーシアは医療設備が整っており実際多くのサウジ人が手術・治療のため同国に出かけている。いわゆる医療ツーリズムである。GCC各国の君主はサルマン国王の実兄故ファハド国王がスイスで長期療養し或いはオマーン現国王がドイツで手術しているように海外の病院に入院することが珍しくない。そして時には治療目的を隠して外国に出かけることもある。今回の外遊がそのためと考えられないこともない。但しインドネシアを除き各国の滞在期間が短いことを考えると入院手術は無理かもしれない。

 

憶測2.外遊目的は半分保養、半分ビジネスではないか?

 中国と日本の訪問前にインドネシアのバリ島に立ち寄り、両国訪問後にモルディブを訪れることになっている。サルマン国王が高齢かつ病弱であるため中国・日本訪問のハードスケジュールの前後に休養日程を入れたことは間違いないであろう。ただサルマン国王がアジアの保養地を訪れるのは初めてである。国王は皇太子時代から夏の休暇シーズンを南仏ニースの別荘で過ごしてきた。しかし一昨年ニースに行ったとき、国王一行は地元民から激しい拒絶反応を受けた。その年の1月にパリでイスラーム過激派による風刺画週刊誌シャルリー・エブド本社襲撃事件があり、仏全土に嫌イスラーム(イスラム・フォビア)感情が高まったためである。国王一行はわずか1週間でニースを引き揚げた。それ以来、西欧にサルマン国王が安息できる場所はなくなった。そこで浮かび上がったのが穏健なアジアのイスラーム国である。季節的にも今のアジアモンスーン地帯は保養にうってつけである。

 

憶測3.日本及び中国に恩を売るつもりか?

 もし国王の歴訪がビジネス半分、保養半分であれば、日本及び中国はサルマン国王来訪に過大な期待はできそうもない。両国にとってサウジアラビアは重要な石油供給源であり、最高のもてなしで国王を心地よく迎え、そして送り出せれば成功と言えよう。幸い日中双方ともサウジアラビアとの間に面倒な問題は無い。イスラーム問題で険悪になりがちな米国トランプ政権やヨーロッパ諸国とは状況が異なる。またイスラーム国(IS)掃討作戦でロシア、イラン、トルコがシリア・アサド政権との連携を強める中で、サウジアラビアはシーア派のイランを極度に警戒し、IS対策では反政府組織の支援に固執しており、同国はシリア和平問題で蚊帳の外に置かれている。その点、日本及び中国に対してサルマン国王は石油の安定供給をちらつかせるだけで十分恩を売ることができる。

 

憶測4.中国、日本訪問は息子ムハンマド副皇太子への側面支援?

 サルマン国王は最愛の息子ムハンマドにサルマン家とサウジアラビアの将来を託している。ムハンマドを強引に副皇太子に引き上げのはムハンマド・ビン・ナイフ皇太子(国王実兄故ナイフ皇太子・内相の子息、即ち息子ムハンマドとは従兄弟関係)に男児がいないため、サルマンの思惑通りに事が運べば王位はいずれ息子ムハンマドとその子孫、即ちサルマン系統に収れんされるとにらんでいるに違いない。その息子ムハンマド副皇太子はビジョン2030を掲げて華々しい活躍を見せている。

 否、今のところは活躍している、と言うべきであろう。ビジョン2030はあまりにも野心的すぎるため、現在多くの障害にぶつかり実現の見通しに危険信号がともり始めたからである。石油に依存しない経済を創るには国内産業の多角化のため外国の資本と技術の導入が不可欠である。それには是非日本と中国から協力を取り付けたい。同時に経済改革の原資は石油しかなく、そのため原油の長期安定的な顧客である中国と日本をつなぎ留めなければならない。一方、日本と中国にとっても資本と技術の輸出相手、そして石油の輸入相手としてサウジアラビアと緊密な関係を保つことが必要である。

サウジアラビアと日本、或いはサウジアラビアと中国は現在のところ政治や宗教で面倒な問題がなく、経済ではウィン-ウィンの関係である。サルマン国王にとって訪中、訪日は苦境にたちつつある息子副皇太子に対する強力な側面支援なのではないだろうか。そのためであればサウジ国内ではよほどのことがない限りビジネスマンと面談することのない国王が例えば東京でソフトバンクの孫社長を謁見することも考えられないことではなさそうだ。

 

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       荒葉一也

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[1] Saudi Gazette on 2017/2/23, ‘Many pacts to be signed during King’s 31-day Asian tour next week’,

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/many-pacts-signed-kings-31-day-asian-tour-next-week/




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2017年02月09日

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2.
石油篇:シェア競争に行き詰まりロシアを巻き込んで減産・高価格を目指すが?

 石油価格が低迷する中であえてシェアにこだわりチキンレースを展開したサウジアラビアであったが、2015年後半以降、価格はますます下落し、2016年初めにはついに1バレル20ドル台まで急落した。財政悪化に苦しんだOPEC(石油輸出国機構)加盟国は、昨年9月と11月の二度の総会でようやく減産に合意した。さらに12月にはロシアなど非OPEC産油国との協議の結果、今年1月から両者合わせて180万B/Dの協調減産を行っている。OPECが減産に踏み切るのは実に8年ぶりのことである[1]。米国のシェールオイルの生産動向が気がかりではあるが、ブレント原油の市場価格はバレル当たり50ドル台半ばに回復し、OPEC産油国はとりあえず安堵している。OPEC総会或いは非OPEC産油国との協議を主導したのはロシア、米国と並ぶ世界三大石油生産国のサウジアラビアであり、同国Al Falih石油相による活発なオイル外交の成果であった。

 

 実はOPEC・非OPECの協議は半年前の4月、合意寸前まで行ったことがある。当時のサウジアラビアのナイミ石油大臣とロシアのエネルギー相を中心に年初から綿密な打ち合わせが重ねられ4月18日、当時のOPEC議長国のカタールで増産凍結の手打ちが行われる予定であった。但し一つだけ問題があった。イランである。経済制裁のため大幅な減産を強いられていたイランが制裁前の水準に達するまで増産することを強く主張した。そこでサウジアラビアとロシアはとりあえずイラン抜きの増産凍結を宣言する腹づもりであった。

 

 それに待ったをかけたのがムハンマド副皇太子であり、彼はイラン抜きの決定に強硬に反対した。一介のテクノクラートに過ぎないナイミ石油相は王族No.3の副皇太子の意向に逆らえず、それまで積み重ねてきたロシアやUAEなど有力産油国との話し合いを已む無く反故にした。ハード・ネゴシエーターとして名をはせたナイミとしては国際会議の場で大恥をかいた気分だったかもしれない。副皇太子と石油相の関係にひびが入った。

 

その後5月初めに内閣改造があり、ナイミ石油相が退任し、改組されたエネルギー省の大臣にAl Falihアラムコ取締役会議長が指名された。Al Falih新エネルギー相は56才、82才のナイミから大幅に若返った。30才そこそこの副皇太子にすれば年の離れたベテランのナイミは使いにくかったはずである。と同時にナイミ自身もアブダッラー国王の時代に高齢を理由に退任を申し入れたことがあったが、その時は国王のたっての要請で留任し続けた経緯がある[2]。彼はアブダッラー国王に個人的な忠誠を尽くしたと言えよう。従って国王がサルマンに代われば石油相を続ける義理は無い。ナイミは石油相の地位に未練は無かった。この結果、副皇太子及びその意向を受けた新エネルギー相との関係も急速に薄れた。逆に言えば副皇太子はナイミというかけがえのないご意見番を失ったことになる。

 

 振り返って見ればサウジアラビアの石油大臣はOPEC創設期のヤマニ、産油国サウジの存在を世界に知らしめた前大臣のナイミ、そして現在のAl Falihエネルギー大臣、と歴代テクノクラートが務めている。国際情勢に振り回され変化の激しいエネルギー問題ではサウジアラビアの石油担当大臣と云えども足をすくわれることがある。そのような時テクノクラートであれば責任を取らせやすい。「トカゲのしっぽ切り」である。サウジアラビアでは国王が首相を兼務し石油大臣をコントロールするが、今はムハンマド副皇太子がその役割を担って石油大臣を陰で操っている。否、「操ってきた」という方が正しいかもしれない。最近の副皇太子はOPECを中心とする国際石油政策或いは国営石油アラムコの運営方針についてAl Falihエネルギー大臣にゆだね、自ら口をはさむことが無くなった。そして今回OPEC主要産油国が減産を受け入れた中でイランは実質的な増産を認められた。半年前の4月にイラン抜きで増産凍結を打ち出そうとしたことと比べ、今回の決定にはどれほどの進歩があっただろうか。サウジアラビアの石油政策が挫折したとすら言えよう。

 

Aramco
 しかし石油政策とは別に副皇太子がどうしてもやり遂げなければならないことが一つ残っている。アラムコの株式上場即ちIPOである。彼はビジョン2030及びNTP2020と呼ばれる野心的な経済改革プランを提唱、サウジアラビア経済の脱石油化を宣言した。但し現在の石油依存体質を脱却するために必要な資金は石油しかないというジレンマがある。そのジレンマを脱する方法が国営石油会社アラムコを株式会社として上場し株式の売却益をひねり出すことなのである。

 

 副皇太子はアラムコのIPO(新規上場)として株式の5%を売り出すと決めた。サウジアラビアの石油生産量は1千万B/D、埋蔵量は2,700億バレルに近い。世界最大の石油企業のエクソンモービル社ですら生産量は240万B/Dであり、アラムコの規模が桁違いであることがわかる。サウジ政府関係者はアラムコの企業価値を2兆ドルと見立てている。IPOで5%を上場するとしてそれだけで1千億ドルになる。これまでで最大と言われた中国アリババのニューヨーク上場が200億ドルであったから、アラムコIPOが如何に巨大なものであるかわかる。

 

 これだけ巨大なIPOはサウジアラビアの国内市場Tadawulの手に負えない。小さな池にクジラを放つようなものだからである。Al Falihエネルギー相もTadawulのほか世界で2~3か所の有力株式市場に同時に上場するつもりであると語っており、ニューヨーク、ロンドン、東京、香港、シンガポールなどが取りざたされている。上場誘致のため東証を傘下に置く日本取引所グループのCEOがサウジアラビアを訪問している[3]

 

 アラムコの残る95%の株式は政府系ファンドの公共投資ファンド(PIF)に移管される。そうなればPIFはノルウェー政府ファンド或いはアブダビ投資庁(ADIA)をしのぐ世界最大の政府系ファンド(SWF)になる[4]PIFは既に野心的な投資活動を始めている。米国の自動車配車アプリのUBER社に35億ドルを投資、さらに昨年はソフトバンクが打ち上げた1千億ドルのハイテクファンドに450億ドルの出資を決めている。ムハンマド副皇太子とソフトバンクの孫社長の東京での電撃会談が世界をあっと言わせたことは記憶に新しい。

 

 副皇太子が次々と打ち出す野心的な経済政策はこれまでの王族には見られなかったものであり国の内外からその行動力に称賛の声が上がっている。しかし彼が目指す改革はスタートしたばかりであり、結果は当分先の話である。石油を脱却するためにとりあえず石油にすがる。それが現在のサウジアラビアの姿であり、ムハンマド副皇太子の姿である。ただ2030年のゴールに至るハードルはかなり高い。ゴールにたどり着ければ副皇太子は傑出した指導者としての名声を手にするであろう。しかし失敗しないまでも不十分な成果しか上げられなかったならばそれは石油という虎の子の資産を食いつぶしただけの「虻蜂取らず」の結果に終わる恐れが無きにしも非ずである。今、ムハンマド副皇太子は危険なタイトロープ(綱渡り)を始めたばかりなのである。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] 9月から今年年初までのOPEC総会、非OPEC産油国との協議の経緯は拙稿「OPEC減産合意の経緯」参照。http://mylibrary.maeda1.jp/0397OpecProductionCut.pdf ごい

[2] マイライブラリー0154「辞めさせてもらえないサウジアラビアのサウド外相とナイミ石油相 (20074)参照。http://mylibrary.maeda1.jp/0154SaudNaimi.pdf 

[3] 201716NHKニュースより。

[4] 資料「世界の政府系ファンド」参照。http://menadabase.maeda1.jp/1-G-2-05SwfRank.pdf 



drecom_ocin_japan at 10:59コメント(0)トラックバック(0) 
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