GCC

2017年12月21日

2017.12.21

荒葉一也

Areha_Kazuya@jcom.home.ne.jp

 

いよいよGCC解体か?

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 1979年のイラン革命によりホメイニ政権が誕生したことを受けて湾岸の王制国家は1981年にGCC(湾岸協力機構)を結成した。当初はイラン革命の波及を恐れ共同軍事防衛を目的とした同盟であったが、その後各国が石油ブームによる近代国家を目指すようになり、EU型の経済中心の同盟関係に変質していった。

 

その最初の表れが関税同盟であり、これは何とか実現した。しかし次のステップとして通貨の統一を打ち出すと加盟国の間に隙間風が吹き始めた。2010年にサミットで制度の創設が決定したが、UAEとオマーンは早々と離脱を声明したのである[1]。石油価格高騰の恩恵にあずかれず経済が悪化しつつあったオマーンは経済運営の自由度が制限されることを嫌い、またUAEEUの例にならって通貨本部を大国サウジのリヤドではなく自国に誘致したいと主張したがサウジが譲らなかったためである。このようにこれまでのサウジ一辺倒のGCC運営に対して加盟国から異議が出始めたのである。

 

2011年の「アラブの春」問題によって加盟国間の綻びはさらに広がった。この時政治的にもっとも脆弱であったバハレーンを支えるため、サウジアラビアとUAEを中心とするGCCの合同部隊「半島の楯」がバハレーンに派遣され、イランの影響下にあるシーア派住民を弾圧してハリーファ君主体制を支えた[2]。地政学的理由でイランと良好な関係を維持してきたオマーンは合同部隊に参加しなかった。またカタールのハマド国王(当時)はエジプトのムスリム同胞団幹部の亡命を受け入れてイスラーム運動に理解ある態度を示し、サウジアラビアおよびUAEの不信を買った。それがその後の大使召還(2014年)さらに今回の国交断絶につながるのである。

 

このようなGCC内の政治的対立がそのまま経済協力問題にも波及し、クウェイトからオマーンに至るアラビア湾縦貫鉄道計画は暗礁に乗り上げ、またVAT(付加価値税)の導入もサウジアラビアとUAEが来年1月から導入することを決めたが、他の4か国は見通しが立っていない。また今回の対カタール断交でカタールと他のGCC5か国の通商及び空路、海路の往来はストップしている。GCC内部の求心力は弱まる一方であり、GCC解体が現実問題となってきたのである。

 

今後のシナリオは?

 GCC内部に深刻な対立を抱え、また周辺国でもIS(イスラム国)消滅後のイラク、シリアの情勢、トランプ米大統領によるエルサレム首都容認発言によるアラブ・パレスチナ対イスラエル関係の不安定化、サーレハ前大統領暗殺によりさらに混迷の度を深めるイエメン情勢などGCCは内外に問題山積であり、今後の方向を予測することは極めて難しい。予測をさらに複雑にしているのがGCCの盟主サウジアラビアのムハンマド皇太子の言動である。米国トランプ政権に傾倒し、イランとの対決姿勢を強めている皇太子の外交姿勢は事態の鎮静化とは逆のベクトルを示している。

 

 これまでの推移を総合的に勘案するとGCC6カ国が従来通りの形で存続するとは考えにくい。懸命な仲介も功を奏さない現状に匙を投げた格好のクウェイト・サバーハ首長はGCCの機構改革が必要であると説いている。その場合カタールのGCCからの追放または一時的な資格停止が最初の関門となろう。カタール追放に賛同するのはサウジアラビアとUAEであり、事実、両国は一足早く軍事・経済の新パートナーシップ協定を締結し、脱GCCに向かって突き進んでいる。サウジアラビアに全面的に依存しているバハレーンを含めた3国の協力関係は今後深まるであろう[3]

 

 クウェイトはイラクと直接国境を接し、間近にイランを控え、さらに国内に少なからぬシーア派住民を抱えている。同国は体制維持のためにはこれら3か国同盟に参加せざるを得ないであろう。オマーンはと言えば、これまでもサウジアラビア、UAE、カタール間で繰り返されるゴタゴタに対し傍観者的な立場をとっており、一方でイランとも良好な関係を維持したいはずであり、新GCCでは準会員扱いとなる可能性が高い。

 

 こうして現在のGCCはカタールを排除した新たな湾岸安全保障機構に模様替えするものと思われる。但しこれによって湾岸情勢が安定し、それが中東全体にプラスの効果をもたらすと考えるのは早計であろう。GCCは極言すれば地域の強国イラン及びイラクに対し脆弱な湾岸君主制国家群が体制維持のために設立した弱者連合である[4]。最近ではサウジアラビアが地域大国の一角とみなされるようになったが、それはあくまで石油という天然資源の恩恵によるGDP大国でしかなく、人的資源、外交、政治制度、文化等の面ではイラン、イラク、エジプトあるいはトルコをはるかに下回っていることは明らかである。軍備こそ米国製の最新兵器を装備しているが単独ではイエメンの反政府勢力にすら歯が立たないのが現状であり、米国に依存するしかなさそうである。

 

 以上のように分析すると新GCCは新たな地域の不安定要因になると考えざるを得ないのが筆者の結論である。

 

以上



[1] マイライブラリー0105「二日間を浪費しただけの第 30 GCC サミット」(2009.12.16付け)

http://mylibrary.maeda1.jp/0105GccSummit09.pdf 

[2] マイライブラリー0175「危機感を露わにする湾岸君主制国家」(2011.4.4付け)

http://mylibrary.maeda1.jp/0175GccCrisis.pdf 

[3] “Weakened GCC institution struggles for relevance”, MEED on 2017/12/7

https://www.meed.com/gcc-struggles-for-relevance/

[4] 「シマウマとライオンと巨象 「ガルフ」お伽噺」アラビア半島定点観測その4。「石油文化」20002月号掲載。

http://ocininitiative.maeda1.jp/0109%20SekiyubunkaEssayNo4.pdf 



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2017年12月19日

 

2017.12.19

荒葉一也

Areha_Kazuya@jcom.home.ne.jp

 

対カタール断交問題を抱えたままで首脳会談に突入

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 毎年12月に6カ国持ち回りで開かれる恒例のGCC首脳会議は今年で第38回を迎え、125()にクウェイトで開催されたが、これまでとは様相が大きく異なった。その最大の理由は丁度半年前の65日にGCC加盟6カ国のうちサウジアラビア、UAE及びバハレーンの3か国がカタールと断交したことである(断交にはこのほかエジプトも参加している)。3か国はイランによるシリア、イラク、レバノンでのシーア派のテロ活動をカタールが容認し、またサウジアラビア、UAE及びバハレーン各国の内政に干渉したことを理由に強硬な断交措置に踏み切った[1]

 

 これまでもカタールのアルジャジーラTVによるサウド家の報道に関しサウジアラビアがGCC外相会議で抗議し、あるいは2014年にカタールの駐在大使を召還するなど外交問題で軋轢が無かったわけではないが[2]、いずれの場合も数カ月の冷却期間を経て元のさやに納まっている。しかし今回は断交から半年を経た現在も解決の糸口が見えない。クウェイトが仲介役で奔走し、カタールが協議に応じる姿勢を見せ、ヨーロッパ諸国からも問題の解決を促す発言が相次いでいるが、サウジアラビア外交の鍵を握るムハンマド皇太子は全く軟化する様子を見せない。

 

首脳出席をボイコットしたサウジアラビア、UAE、バハレーン

 議長であるサバーハ・クウェイト首長は当然としても、その他5か国のうち首脳が参加したのはカタールのタミム首長のみであり、他の4か国は全て外相もしくはそれ以下の閣僚の代理出席であった。即ちサウジアラビアからはAl Jubeir外相、UAEは外務担当国務相、バハレーンは外務副大臣、オマーンは副首相が出席した[3]

 

 これまでのサミットではサウジアラビアは国王または皇太子が参加しており、UAEはハリーファ大統領が病弱のためドバイ首長のムハンマド副大統領が、そしてバハレーンはハマド国王自らが出席していた。つまり各国ともNo.1又はNo.2の王族が出席したのである(オマーンも国王が病弱のため毎回No.2の王族が出席)。しかし今回サウジアラビアは王族ではないテクノクラートの外務大臣が代理出席、UAE及びバハレーンに至っては王族である外相をさしおいて副大臣クラスの代理出席にとどまっている。

 

この顔ぶれではカタールとの外交問題は言うに及ばず、会議直前に飛び出したトランプ米大統領によるエルサレムのイスラエル首都宣言と米大使館移転発言のほか、シリア和平、イエメン紛争など山積する重要案件について意味のある首脳会談などできるはずもない。結局議題すら公表されず、会議日程も当初2日間の予定を1日で終了、各国の参加者たちはそそくさと帰国したのであった[4]

 

匙を投げたクウェイト

 カタールと断交中のサウジアラビア、UAE及びバハレーンの出席者を見ると、これまでのサミットとの落差は余りにも大きく、3か国が今回のサミットをボイコットしたと見て間違いないであろう。言い換えればホスト国及び唯一最高首脳が参加したクウェイトとカタールに対する甚だしい侮辱とも言える。サウジアラビアのサルマン国王は日本、ロシアなど今年は活発な外交を展開、健康不安説を払拭しており、国内外で活躍している皇太子の二人のどちらかがサミットに出席できたはずである。それにも関わらず両名とも隣国のクウェイトに行かなかったことは、カタールに対する強烈なあてつけともいえる。と同時にうがった見方をすれば多数の王族・閣僚・有力財界人を汚職摘発したことでサウジ国内は大きく動揺しており、国王、皇太子のいずれか一人でも海外に出かければ、宮廷クーデタが発生しないとも限らない。つまり国王と皇太子は自分の首が危ないから国内を離れられないと勘ぐることもできよう。

 

 しかもサミットの前日、サウジアラビアとUAE2国間の軍事・経済パートナーシップ協定を締結しているのである。両国は現在のままのGCCは必要ないと宣言したに等しい[5]

 

 これまで度々仲介の労を取り何とかGCCの結束を維持しようとしたクウェイト首長も、会議後の談話で、サミットには少なくとも各国ともNo.2が出席すべきであると語り、GCCの機構改革のためタスクフォースを設置することを示唆した。クウェイト首長はGCCの将来に匙を投げたようである[6]

 

(続く)

 



[1] マイライブラリー04162014.7.24付け)「カタール GCC 離脱(Qatarexit)の可能性も:カタールとサウジ国交断絶」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf 

[2] マイライブラリー0303[サウジアラビア等3カ国が駐カタール大使を召還―埋まらぬ GCC の亀裂] (2014.3.9付け)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0303QatarSaudiDispute2014.pdf 

[3] “Gulf Cooperation Council Summit opens amid calls for safeguarding GCC” Gulf News on 2017/12/5

http://gulfnews.com/news/gulf/kuwait/gulf-cooperation-council-summit-opens-amid-calls-for-safeguarding-gcc-1.2135955

[4] “GCC summit cut short by a day”, The Peninsula on 2017/12/5

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/05/12/2017/GCC-summit-cut-short-by-a-day

[5]UAE and Saudi form new partnership separate from GCC”, The Peninsula on 2017/12/5

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/05/12/2017/UAE-and-Saudi-form-new-partnership-separate-from-GCC

[6]GCC structure may have to change: Kuwait Emir”, The Peninsula on 2017/12/5

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/05/12/2017/GCC-structure-may-have-to-change-Kuwait-Emir



drecom_ocin_japan at 13:20コメント(0) 

2017年06月29日

(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf

 


2017.6.30

荒葉一也

 

2.カタールのプライドをズタズタにしたサウジアラビア


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 6月5日のサウジアラビア、エジプト、UAE及びバハレーンによるカタール断交の真の仕掛け人はサウジアラビア・サルマン国王の6男ムハンマド・ビン・サルマン(略称MbS)だとするのが衆目の一致した見方である。そのMbSは21日、副皇太子から皇太子に昇格し名実ともにサウジアラビアのNo.2になった[1]
。サルマン国王が甥のムハンマド・ビン・ナイフ(MbN)皇太子を解任し、自分の息子にすげかえたのである。サルマン国王が皇太子を交代させるのは昨年4月の異母弟ムクリン以来二度目のことである。2015年1月の即位からわずか2年半の間に異母弟と甥を次々と解任し息子のMbSを皇太子にしたことは極めて異例のことであり、これによってサルマン国王はサウジアラビアの王位継承を自分の直系に絞ったことになる。

 

 サウド家の王位継承問題は本稿のテーマから外れるので稿を改めて論ずることにするが[2]、皇太子就任によりMbSに絶大な権力が集中することになった。MbSは既に国防相の地位にあり、外交についても腹心(イエスマンと言うべきかもしれない)のジュベール外相を手足として動かし、経済面では2030年までに石油依存体質から脱却するとして無謀ともいえる野心的なビジョン2030計画を打ち出している。石油政策についてもMbSは全権を握っており、非OPECのロシアと協調減産体制を作り上げたことにMbSの強い意向がうかがえる。Falih石油相は実務を取り仕切るテクノクラートの域を出ず、むしろその権限はナイミ前石油相時代よりも縮小していると言えそうである。

 

 サウジなど4か国によるカタール断交宣言に続いて世界を驚かせたのは、6月22日、4か国がカタールに13項目の要求書を突きつけたことである。その要求とは次のようなものであった[3]

 

1.   イランとの外交関係のレベルを下げ、イランにあるカタールの事務所を閉鎖すること。

2.   ムスリム同胞団、イスラム国、アルカイダ、ヒズボッラーなどのテロ組織と関係を断つこと。

3.   アルジャジーラ及び関連事業を閉鎖すること。

4.   Arabi21などカタールが資金援助しているニュース局を閉鎖すること。

5.   トルコ軍の駐留を直ちに中止すること。

6.   サウジ、UAE、エジプト、バハレーン、米国、カナダおよびその他の国がテロリストと認定している個人、組織に対する資金提供を直ちに停止すること。

7.   サウジ、エジプト、UAE及びバハレーンがテロリストに指名している人物をそれぞれの国に引き渡すこと。

8.   各国の主権である国内問題への干渉を止めること。

9.   サウジ、エジプト、UAE、バハレーン各国内の反政府勢力との接触を断つこと。

10. 最近のカタールの政策により逸失した生命その他の損失を補てんすること。

11. 2014年のサウジアラビアでの合意に沿って他の湾岸及びアラブ諸国と軍事的、政治的、社会的及び経済的に同調すること。

12. 10日以内に要求に従わない場合はこのリストは無効となる。

13. 合意した場合は最初の1年間は毎月、2年目以降10年目までは3か月ごとに実施状況の監査を受けること。

 

 通常の外交文書でこれほどまでに一方的で強硬な要求は例がないと言えよう。32歳という若いサウジ皇太子の性急さと外交慣例とカタールの主権を無視した姿勢には驚くばかりである。カタール側が直ちに反論したのは当然である。サウジアラビアのMbSはカタールのプライドをズタズタにしたのである。

 

 10日間の期限内にカタールが全面的に要求を飲むことは考えられず、サウジ側も要求を取り下げることは無いであろう。多分第12項にある通り10日後に要望は無効となるのであろう。それでもMbSは要求を出した事実が残ることで成果があったと強弁するのであろうか。結局残るのはGCCの深い亀裂だけではなかろうか。年末には毎年恒例のGCCサミットが開催されるはずである。その頃には恐らくIS(イスラム国)は壊滅しているであろうが、テロ拡散という新たな問題が発生することは間違いない。GCCの盟主サウジアラビアは自国を含めGCC6か国の君主制国家の安全をどのように考えているのであろうか。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] Mohammed bin Salman named crown prince

2017/6/22 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1118211/saudi-arabia

[2] サウド家相続問題については下記レポート参照。

「迫るサウド家の世代交代」(201011)

http://mylibrary.maeda1.jp/0162SaudRoyalFamily2010.pdf 

「迷走と暴走を繰り返す老国王」(20159)

http://mylibrary.maeda1.jp/0354SaudiKingSalman.pdf 

[3] GCC states ask Qatar to stop financing of terror: Report

2017/6/23 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1119316/middle-east




drecom_ocin_japan at 22:22コメント(0) 

2017年06月08日

(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf

 



2017.6.8

荒葉一也

 

1.サウジがカタールに断交通告


PersianGulfMap
 6月5日()早朝、サウジアラビアが隣国カタールに国交断絶を通告した。ほぼ時を同じくしてUAE、エジプト及びバハレーンも同様の通告をしている[1]
。このうちサウジアラビア、UAE、バハレーンの3か国はカタールと同じGCCの構成メンバーであり、いずれもアラブ民族のイスラーム・スンニ派国家である。国の規模で見ればカタールは人口わずか220万人。MENA(中東北アフリカ諸国)の中ではバハレーンに次いで人口が少なく、しかもそのうち自国民は40万人足らずで残り8割強は出稼ぎの外国人労働者である。これに対してサウジアラビアの人口は3,200万人、エジプトに至っては9,200万人である[2]。また国土の面積もサウジアラビア及びエジプトがそれぞれ200万平方キロ、100万平方キロに対してカタールは1万平方キロに過ぎない[3]

 

 今回の断交はサウジアラビアが主導してエジプト及びUAEがこれに同調したことは間違いない。それが証拠に国交断絶の3日前、アブダビのムハンマド皇太子がサウジアラビアを訪問、サルマン国王と会談している[4]。そして4日にはサウジアラビアのジュベイル外相がエジプトを訪問し同国外相と会談を行ったと報じられている[5]。いずれの会談もその詳細は明らかにされていないが、推理するとカタールとイラン或いはイスラム過激派のテロ組織と名指しされているムスリム同胞団の間に何らかのつながりがあるとする証拠をUAEがサウジアラビアに提示し、それを重大視したサルマン国王がエジプトに働きかけて4か国同時に断交を通告したものと考えて間違いないであろう(バハレーンは国防・経済面でサウジアラビアに全面的に依存しており、サウジアラビアの決定に対しては無条件に従う)

 

UAEは国際自由都市ドバイに中東の情報が集まり[6]、イラン及びムスリム同胞団の動きに通じているものと考えられる。イランはサウジアラビアの仇敵であり、イスラム同胞団はエジプトの軍事政権が最も警戒している勢力である。またシーア派が国民の7割以上を占めるバハレーンでは少数派であるスンニ派・ハリーファ王家がイランの影におびえている。そしてUAEはペルシャ(アラビア)湾のアブ・ムーサ島など三島の領有権をめぐってイランと係争中である。

 

 一方、カタールはハマド前首長の時代から全方位外交を掲げ、イランはもとよりかつてはイスラエル通商代表部の設置を認める等、他のGCC諸国とは明らかに異なる自主外交を打ち出してきた[7]。カタールの独自性を象徴するのがアル・ジャジーラ・テレビである。世界でその名を知らない者がいないほど有名なアル・ジャジーラはかつてはサウジアラビア、エジプトなど中東各国の神経を逆なでするような報道を繰り広げた。それが中東諸国の庶民の心をとらえ、また欧米各国からも高い評価を得て、カタールとハマド首長(アル・サーニー家)の名声を高めた。しかしそれは他のアラブ諸国を敵に回すことでもあり、各国がアルジャジーラ支局の閉鎖を命じたことも再三であった。現在アル・ジャジーラは比較的おとなしくなったとは言え、他のアラブ諸国の統治者にとっては警戒すべき煙たい存在なのである。

 

 このように見ると今回の断交はサウジアラビア、エジプト、UAE(そしてバハレーン)が寄ってたかって小国のカタールを締め上げているという図式になる。現在両陣営は他のMENA(中東北アフリカ)諸国を味方に引き入れようと活発な外交を展開している。4か国に引き続いてイエメン、リビア(但し東部地区のみの支配政権)、モルディブ、モーリシャスもカタールに断交を通告した。さらにモーリタニアも追随、ヨルダンは外交関係のレベルを下げ、アル・ジャジーラ支局の免許を取り上げた[8]。一方のカタールはトルコに働きかけ、エルドガン大統領からカタールの立場に理解を示すとの言質を取り付けた。両陣営は米国及びロシアにも働きかけているが、トランプ大統領もプーチン大統領も両陣営が外交的努力により平和的に解決するよう諭すだけで態度を明確にしていない[9]。中東情勢が複雑で混迷を極めているため米国、ロシアのいずれもどちらか一方に肩入れできる状況ではなく、特に米国はカタールに空軍基地を持ち、他方サウジアラビアは米国製兵器の最大の顧客である[10]ため板挟みの状態にある。

 

 GCC6か国の中で当事国以外の国はクウェイトとオマーンの2か国のみである。このうちクウェイトは仲介に乗り出し、サバーハ首長はカタールのタミーム首長と電話会談の後、リヤドに乗り込んでサルマン国王と協議している[11]。サウジアラビアとカタールの争いの根は案外深く両国が仲直りするのは時間がかかりそうだ。そしてGCCの残る一国オマーンはだんまりを決め込んでいる。そのオマーンがイランと特別な関係を維持していることは世界中の国々が知っている。

 

 今やGCCはバラバラになりつつある。このためカタールがGCCを脱退するシナリオがかなり現実味を帯びている。世界を見渡すと自国の利益を優先させるため国際的な枠組みを無視或いは排除する傾向が顕著である。米国のトランプ政権はTPP及び気候変動パリ協定(COP21)から離脱した。そして英国はEUからの離脱を決定、Brexitなる新語が生まれた。次なる新語はQatarexit(カタールのGCC離脱)になるかもしれない。Qatarexitは規模こそBrexitよりはるかに小さいが国際経済に与える影響はけっして小さくない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642

 



[1] Bahrain, KSA, Egypt and UAE cut diplomatic ties with Qatar

2017/6/5 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110366/middle-east

[2] MENAシリーズ2:「MENA諸国の人口と平均寿命」(UNFDP資料)参照

http://menarank.maeda1.jp/2-T01.pdf 

[3] MENAシリーズ:「MENAランク一覧表」参照

http://menarank.maeda1.jp/MenaRankGeneral.pdf 

[4] King Salman, Sheikh Mohammed discuss regional situation

2017/6/3 Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/king-salman-sheikh-mohammed-discuss-regional-situation/

[5] Saudi, Egyptian FMs discuss anti-terror cooperation

2017/6/5 Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/saudi-egyptian-fms-discuss-anti-terror-cooperation/

[6] 参考:「暗殺と背徳渦巻く国際犯罪都市ドバイ」(20103)

http://mylibrary.maeda1.jp/0136CriminalCityDubai.pdf 

[7] 例えば「MENA騒乱でサウジアラビアとカタールが見せた対照的な外交活動」参照

http://mylibrary.maeda1.jp/0177SaudiQatarDiplomacy.pdf 

[8] Mauritania cuts ties with Qatar, Jordan to downgrade representation

2017/6/7 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1111061/middle-east

[9] Trump committed to working to de-escalate Gulf tensions

2017/6/6 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110796/middle-east

[10] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom

2017/5/21 arab News

https://www.arab-news.biz/saudi-arabia/2017/05/20/us-says-nearly-110-billion-worth-of-military-deals-inked-with-kingdom/ 

[11] Kuwaiti ruler and King Salman meet amid Qatar row

2017/6/6 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110916/middle-east



drecom_ocin_japan at 13:21コメント(0) 

2017年06月05日

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