GCC

2017年06月29日

(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf

 


2017.6.30

荒葉一也

 

2.カタールのプライドをズタズタにしたサウジアラビア


936131-1732002281
 6月5日のサウジアラビア、エジプト、UAE及びバハレーンによるカタール断交の真の仕掛け人はサウジアラビア・サルマン国王の6男ムハンマド・ビン・サルマン(略称MbS)だとするのが衆目の一致した見方である。そのMbSは21日、副皇太子から皇太子に昇格し名実ともにサウジアラビアのNo.2になった[1]
。サルマン国王が甥のムハンマド・ビン・ナイフ(MbN)皇太子を解任し、自分の息子にすげかえたのである。サルマン国王が皇太子を交代させるのは昨年4月の異母弟ムクリン以来二度目のことである。2015年1月の即位からわずか2年半の間に異母弟と甥を次々と解任し息子のMbSを皇太子にしたことは極めて異例のことであり、これによってサルマン国王はサウジアラビアの王位継承を自分の直系に絞ったことになる。

 

 サウド家の王位継承問題は本稿のテーマから外れるので稿を改めて論ずることにするが[2]、皇太子就任によりMbSに絶大な権力が集中することになった。MbSは既に国防相の地位にあり、外交についても腹心(イエスマンと言うべきかもしれない)のジュベール外相を手足として動かし、経済面では2030年までに石油依存体質から脱却するとして無謀ともいえる野心的なビジョン2030計画を打ち出している。石油政策についてもMbSは全権を握っており、非OPECのロシアと協調減産体制を作り上げたことにMbSの強い意向がうかがえる。Falih石油相は実務を取り仕切るテクノクラートの域を出ず、むしろその権限はナイミ前石油相時代よりも縮小していると言えそうである。

 

 サウジなど4か国によるカタール断交宣言に続いて世界を驚かせたのは、6月22日、4か国がカタールに13項目の要求書を突きつけたことである。その要求とは次のようなものであった[3]

 

1.   イランとの外交関係のレベルを下げ、イランにあるカタールの事務所を閉鎖すること。

2.   ムスリム同胞団、イスラム国、アルカイダ、ヒズボッラーなどのテロ組織と関係を断つこと。

3.   アルジャジーラ及び関連事業を閉鎖すること。

4.   Arabi21などカタールが資金援助しているニュース局を閉鎖すること。

5.   トルコ軍の駐留を直ちに中止すること。

6.   サウジ、UAE、エジプト、バハレーン、米国、カナダおよびその他の国がテロリストと認定している個人、組織に対する資金提供を直ちに停止すること。

7.   サウジ、エジプト、UAE及びバハレーンがテロリストに指名している人物をそれぞれの国に引き渡すこと。

8.   各国の主権である国内問題への干渉を止めること。

9.   サウジ、エジプト、UAE、バハレーン各国内の反政府勢力との接触を断つこと。

10. 最近のカタールの政策により逸失した生命その他の損失を補てんすること。

11. 2014年のサウジアラビアでの合意に沿って他の湾岸及びアラブ諸国と軍事的、政治的、社会的及び経済的に同調すること。

12. 10日以内に要求に従わない場合はこのリストは無効となる。

13. 合意した場合は最初の1年間は毎月、2年目以降10年目までは3か月ごとに実施状況の監査を受けること。

 

 通常の外交文書でこれほどまでに一方的で強硬な要求は例がないと言えよう。32歳という若いサウジ皇太子の性急さと外交慣例とカタールの主権を無視した姿勢には驚くばかりである。カタール側が直ちに反論したのは当然である。サウジアラビアのMbSはカタールのプライドをズタズタにしたのである。

 

 10日間の期限内にカタールが全面的に要求を飲むことは考えられず、サウジ側も要求を取り下げることは無いであろう。多分第12項にある通り10日後に要望は無効となるのであろう。それでもMbSは要求を出した事実が残ることで成果があったと強弁するのであろうか。結局残るのはGCCの深い亀裂だけではなかろうか。年末には毎年恒例のGCCサミットが開催されるはずである。その頃には恐らくIS(イスラム国)は壊滅しているであろうが、テロ拡散という新たな問題が発生することは間違いない。GCCの盟主サウジアラビアは自国を含めGCC6か国の君主制国家の安全をどのように考えているのであろうか。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] Mohammed bin Salman named crown prince

2017/6/22 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1118211/saudi-arabia

[2] サウド家相続問題については下記レポート参照。

「迫るサウド家の世代交代」(201011)

http://mylibrary.maeda1.jp/0162SaudRoyalFamily2010.pdf 

「迷走と暴走を繰り返す老国王」(20159)

http://mylibrary.maeda1.jp/0354SaudiKingSalman.pdf 

[3] GCC states ask Qatar to stop financing of terror: Report

2017/6/23 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1119316/middle-east




drecom_ocin_japan at 22:22コメント(0) 

2017年06月08日

(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf

 



2017.6.8

荒葉一也

 

1.サウジがカタールに断交通告


PersianGulfMap
 6月5日()早朝、サウジアラビアが隣国カタールに国交断絶を通告した。ほぼ時を同じくしてUAE、エジプト及びバハレーンも同様の通告をしている[1]
。このうちサウジアラビア、UAE、バハレーンの3か国はカタールと同じGCCの構成メンバーであり、いずれもアラブ民族のイスラーム・スンニ派国家である。国の規模で見ればカタールは人口わずか220万人。MENA(中東北アフリカ諸国)の中ではバハレーンに次いで人口が少なく、しかもそのうち自国民は40万人足らずで残り8割強は出稼ぎの外国人労働者である。これに対してサウジアラビアの人口は3,200万人、エジプトに至っては9,200万人である[2]。また国土の面積もサウジアラビア及びエジプトがそれぞれ200万平方キロ、100万平方キロに対してカタールは1万平方キロに過ぎない[3]

 

 今回の断交はサウジアラビアが主導してエジプト及びUAEがこれに同調したことは間違いない。それが証拠に国交断絶の3日前、アブダビのムハンマド皇太子がサウジアラビアを訪問、サルマン国王と会談している[4]。そして4日にはサウジアラビアのジュベイル外相がエジプトを訪問し同国外相と会談を行ったと報じられている[5]。いずれの会談もその詳細は明らかにされていないが、推理するとカタールとイラン或いはイスラム過激派のテロ組織と名指しされているムスリム同胞団の間に何らかのつながりがあるとする証拠をUAEがサウジアラビアに提示し、それを重大視したサルマン国王がエジプトに働きかけて4か国同時に断交を通告したものと考えて間違いないであろう(バハレーンは国防・経済面でサウジアラビアに全面的に依存しており、サウジアラビアの決定に対しては無条件に従う)

 

UAEは国際自由都市ドバイに中東の情報が集まり[6]、イラン及びムスリム同胞団の動きに通じているものと考えられる。イランはサウジアラビアの仇敵であり、イスラム同胞団はエジプトの軍事政権が最も警戒している勢力である。またシーア派が国民の7割以上を占めるバハレーンでは少数派であるスンニ派・ハリーファ王家がイランの影におびえている。そしてUAEはペルシャ(アラビア)湾のアブ・ムーサ島など三島の領有権をめぐってイランと係争中である。

 

 一方、カタールはハマド前首長の時代から全方位外交を掲げ、イランはもとよりかつてはイスラエル通商代表部の設置を認める等、他のGCC諸国とは明らかに異なる自主外交を打ち出してきた[7]。カタールの独自性を象徴するのがアル・ジャジーラ・テレビである。世界でその名を知らない者がいないほど有名なアル・ジャジーラはかつてはサウジアラビア、エジプトなど中東各国の神経を逆なでするような報道を繰り広げた。それが中東諸国の庶民の心をとらえ、また欧米各国からも高い評価を得て、カタールとハマド首長(アル・サーニー家)の名声を高めた。しかしそれは他のアラブ諸国を敵に回すことでもあり、各国がアルジャジーラ支局の閉鎖を命じたことも再三であった。現在アル・ジャジーラは比較的おとなしくなったとは言え、他のアラブ諸国の統治者にとっては警戒すべき煙たい存在なのである。

 

 このように見ると今回の断交はサウジアラビア、エジプト、UAE(そしてバハレーン)が寄ってたかって小国のカタールを締め上げているという図式になる。現在両陣営は他のMENA(中東北アフリカ)諸国を味方に引き入れようと活発な外交を展開している。4か国に引き続いてイエメン、リビア(但し東部地区のみの支配政権)、モルディブ、モーリシャスもカタールに断交を通告した。さらにモーリタニアも追随、ヨルダンは外交関係のレベルを下げ、アル・ジャジーラ支局の免許を取り上げた[8]。一方のカタールはトルコに働きかけ、エルドガン大統領からカタールの立場に理解を示すとの言質を取り付けた。両陣営は米国及びロシアにも働きかけているが、トランプ大統領もプーチン大統領も両陣営が外交的努力により平和的に解決するよう諭すだけで態度を明確にしていない[9]。中東情勢が複雑で混迷を極めているため米国、ロシアのいずれもどちらか一方に肩入れできる状況ではなく、特に米国はカタールに空軍基地を持ち、他方サウジアラビアは米国製兵器の最大の顧客である[10]ため板挟みの状態にある。

 

 GCC6か国の中で当事国以外の国はクウェイトとオマーンの2か国のみである。このうちクウェイトは仲介に乗り出し、サバーハ首長はカタールのタミーム首長と電話会談の後、リヤドに乗り込んでサルマン国王と協議している[11]。サウジアラビアとカタールの争いの根は案外深く両国が仲直りするのは時間がかかりそうだ。そしてGCCの残る一国オマーンはだんまりを決め込んでいる。そのオマーンがイランと特別な関係を維持していることは世界中の国々が知っている。

 

 今やGCCはバラバラになりつつある。このためカタールがGCCを脱退するシナリオがかなり現実味を帯びている。世界を見渡すと自国の利益を優先させるため国際的な枠組みを無視或いは排除する傾向が顕著である。米国のトランプ政権はTPP及び気候変動パリ協定(COP21)から離脱した。そして英国はEUからの離脱を決定、Brexitなる新語が生まれた。次なる新語はQatarexit(カタールのGCC離脱)になるかもしれない。Qatarexitは規模こそBrexitよりはるかに小さいが国際経済に与える影響はけっして小さくない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

       荒葉一也

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       携帯; 090-9157-3642

 



[1] Bahrain, KSA, Egypt and UAE cut diplomatic ties with Qatar

2017/6/5 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110366/middle-east

[2] MENAシリーズ2:「MENA諸国の人口と平均寿命」(UNFDP資料)参照

http://menarank.maeda1.jp/2-T01.pdf 

[3] MENAシリーズ:「MENAランク一覧表」参照

http://menarank.maeda1.jp/MenaRankGeneral.pdf 

[4] King Salman, Sheikh Mohammed discuss regional situation

2017/6/3 Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/king-salman-sheikh-mohammed-discuss-regional-situation/

[5] Saudi, Egyptian FMs discuss anti-terror cooperation

2017/6/5 Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/saudi-egyptian-fms-discuss-anti-terror-cooperation/

[6] 参考:「暗殺と背徳渦巻く国際犯罪都市ドバイ」(20103)

http://mylibrary.maeda1.jp/0136CriminalCityDubai.pdf 

[7] 例えば「MENA騒乱でサウジアラビアとカタールが見せた対照的な外交活動」参照

http://mylibrary.maeda1.jp/0177SaudiQatarDiplomacy.pdf 

[8] Mauritania cuts ties with Qatar, Jordan to downgrade representation

2017/6/7 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1111061/middle-east

[9] Trump committed to working to de-escalate Gulf tensions

2017/6/6 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110796/middle-east

[10] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom

2017/5/21 arab News

https://www.arab-news.biz/saudi-arabia/2017/05/20/us-says-nearly-110-billion-worth-of-military-deals-inked-with-kingdom/ 

[11] Kuwaiti ruler and King Salman meet amid Qatar row

2017/6/6 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1110916/middle-east



drecom_ocin_japan at 13:21コメント(0) 

2011年04月01日

(注)本シリーズ1~5回は前田高行論稿集「マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0175GccCrisis.pdf

(お断り)本シリーズのテーマであるGCC各国の情勢は時々刻々変化しており、個々の記載内容は掲載時点の最新情報に基づいています。従ってシリーズの前後で記述内容あるいは事実関係に齟齬を生じるかもしれませんので予めご承知おきください。

アメとムチ:「懐柔策」と「抑圧策」(その3 非常事態宣言)
 サウジアラビアでデモ禁止令が出され(3月5日)、バーレーンとイエメンで相次いで非常事態宣言が布告された(3月15日&18日)。GCC諸国は極度に緊張している。1981年にGCCが結成されて以来、カタールの宮廷クーデタ(1995年)、バーレーンの反政府暴動(1994年)、サウジアラビアにおけるイスラム過激派テロ(1996年、2003年他)など各国で数々の騒乱事件が発生したが、今回はGCC結成以来の危機と言って間違いない。彼らはこれまで「バラマキ行政」或いは「見せかけの民主主義改革」といった「アメ」を見せて国民を懐柔してきたが、今や「ムチ」の使用を余儀なくされている。

 GCC君主制国家とエジプト、リビアなど強権国家の「アメ」と「ムチ」の使い分けを比べると興味ある事実が浮かぶ。GCC諸国では国民にまず「アメ」を与え、その効果が利かなくなると「ムチ」を使いはじめる。つまり最初国民に甘い顔を見せ、思う通りにならないとみるや仮面を剥ぎ弾圧を始めるのである。一方、強権国家の独裁者はまず「ムチ」で国民に無理やり言うことをきかせ、締め付けが効かなくなると補助金或いは改革といった「アメ」をばらまく。

 これは君主制と強権国家それぞれの権力基盤を確立する歴史が異なっているからである。GCC6カ国の支配者たちはいずれも百年以上前に武力で権力を掌握しているが、20世紀後半に石油の富を独占すると、経済的な恩寵を与える(彼らはこれを「アラーの恵み」と称した)ことで国民を懐柔するシステムを作り上げた。これに対して独裁者は軍事クーデタで権力を掌握し、非常事態宣言という強権的手法でそれを維持した。彼は国民に対して常に強面の顔で対峙したが、時間が経過し強権政治に倦んだ国民の不満が高まると「アメ」を小出しにしてそれを抑えようとする。このようにGCC君主制国家では先に「アメ」を配り、強権国家では先に「ムチ」を与えるのである。

 GCC君主制国家で非常事態宣言など強権的手法が取りづらいもう一つの理由はサウジアラビアを除き各国とも兵力が小さすぎることである。各国は金に糸目をかけず欧米の最新兵器を装備しているが、人口が少ないため兵員の数は限られる。軍事分析で有名な英国のシンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」の「The Military balance 2010」によれば、GCC6カ国の兵力はバーレーン0.8万人、カタール1.2万人、クウェイト1.6万人、オマーン4.3万人、UAE5.1万人といずれも一桁台であり、サウジアラビアだけが例外的に多い(23.4万人)。一方国防支出(2008年)はサウジアラビアが380億ドル、UAE137億ドル、クウェイト68億ドルなどかなりの金額である(脚注1)。

  国防予算が潤沢であれば支配者は兵力、特に親衛隊(近衛兵)をできるだけ多く保有したいと考えるのが普通であろう。それにも関わらず兵力を増やせないのは、人口に占める自国民の数が少なく、また部族、宗派等に対する社会的伝統意識が色濃く残っているためである。例えばバーレーンの場合、人口111万人のうち自国民は54万人(49%)であり(外務省HP)、また王家と宗派が異なるシーア派が60~70%を占めているとされる。権力基盤が脆弱なハリーファ王家にとっては外国人を兵士とすること(いわゆる傭兵)も、シーア派国民を兵士にすることも「獅子身中の虫」を抱える危険な選択肢なのである。

  話し合いによるデモ活動の終息に失敗したバーレーンはGCC各国に治安部隊の派遣を要請(3月14日)、さらに非常事態宣言を発令した(15日)。バーレーンの要請に応じサウジアラビア及びUAEは夫々1千名及び500名の兵員を派遣、シーア派居住地区の警備に当たった。後顧の憂いが無くなったバーレーン治安部隊は反政府派の拠点「真珠広場」のデモ隊を排除し(16日)、反政府活動家を逮捕(17日)、そして反対派のシンボルであった真珠広場のモニュメントを破壊した(18日)。「ムチ」を使いはじめたハリーファ家はもう後戻りできなくなったのである。

(脚注1)詳しくはMENAランキングシリーズ18「MENAの国防支出と兵力ランキング」参照
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0165MenaRank18Defence.pdf 

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2011年03月29日

(注)本シリーズ1~5回は前田高行論稿集「マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0175GccCrisis.pdf

(お断り)本シリーズのテーマであるGCC各国の情勢は時々刻々変化しており、個々の記載内容は掲載時点の最新情報に基づいています。従ってシリーズの前後で記述内容あるいは事実関係に齟齬を生じるかもしれませんので予めご承知おきください。

アメとムチ:「懐柔策」と「抑圧策」(その2 国民にへつらう政府)
 中東北アフリカには長期政権の国が多い。民衆パワーで倒れたチュニジアのベン・アリは23年、エジプトのムバラクも29年という長期にわたり大統領を務めた。現在内戦状態にあるリビアのカダフィ大佐に至っては41年以上も最高権力者の座にある。そしてイエメンのサーレ大統領は32年、シリアのアサド大統領も父子二代を通算すると40年間権力を維持している。これらの国はいずれも共和制で大統領は任期4~7年、憲法には多選禁止の規定がある。しかし一旦権力を握った大統領は憲法を自らの手で改悪して強権体制を築き、その結果上記のような長期独裁政権が続いたのである。

これに対し、湾岸諸国は君主制であり権力の正統性(legitimacy)は支配者の血統にある。その意味では例えばバーレーンの場合、現ハマド国王は即位後12年であるが、実際の権力期間はハリーファ家が権力を掌握した1783年以来の二百数十年間であり、その他のGCC各国についても同じようなことが言える。つまり湾岸君主制国家の方が権力期間は長い。

ただ国民にとって共和制の大統領と君主制が異なるのは、前者は自分たちが選んだはずの大統領がいつまでも居座り続けることに最初は違和感を、そして次第に反感を抱くようになる。これに対し君主制では支配者一族のみが代々権力を継承するが、そのような支配体制が百年以上続くと、一般国民はその状態に慣らされ、権力者の暴政や過酷な搾取などがないかぎり体制打倒のエネルギーは蓄積されない。

特に湾岸諸国のような場合、富の源泉が国民の努力とは無関係な天然資源であるため、支配者に対する不満が表面化しにくい。為政者は天然資源の富の一部を国民に還元することで彼らの不満が表面化するのを防ぐことができる。それが「バラマキ行政」である。

勿論国民大衆の不満は経済的な面だけでは解消されない。ある程度の生活水準が確保されると、次に国民は言論の自由と政治への参加を求めるようになる。それは就職難と社会的逼塞感にとらわれている若者に顕著に表れる。それに対して為政者は制度、組織などに手をつけることで不満を吸収しようとする。いわゆる「ガス抜き」である。為政者は自らの既得権益を損なわない範囲で国民に「へつらう」政策を打ち出す。それが国民の権利拡張をうたった憲法の一部手直しなど法律、制度の改革であり、或いは閣僚の首をすげ替えるなどの政策対応となる。これらはいずれも場当たり的でその場しのぎの彌縫策であり懐柔策である。

 GCC各国で行われたこのような懐柔策には下記のようなものが見られる。
(1) バーレーン
 反政府組織は政治犯の釈放、ハリーファ首相の退任(ハマド国王の叔父で在任期間が40年を超える)及びシーア派国民に対する差別廃止を求め真珠広場を拠点に大規模なデモ活動を行った。これに対してサルマン皇太子(国王の長男)はTVで連日対話を呼び掛けたが、反政府運動は収まらず、ついに23名の政治犯を釈放(2月23日)、また内閣改造を行いエネルギー相など閣僚数名が交代した(2月26日)。

(2) オマーン
 オマーンはスルタン国王が40年以上にわたり首相、国防相、外相及び蔵相を兼務する極端な権力集中型の構造であるが、国民の忠誠心が高いため国王に対する批判は見られない。しかしその分、他の閣僚がスケープゴートになっており、2月下旬以降わずか10日の間に3回の内閣改造が行われている(2月26日、3月5日、3月7日)。国民は更なる民主化を求めておりこれまで立法府としての十分な権限を持っていなかった諮問議会に立法権及び監査権を付与する勅令が出された(3月13日)。

 この他UAEでは連邦国民議会選挙(FNC)を9月24日に実施することが告知され(3月17日)、サウジアラビアでも4月23日に地方議会選挙を行うと発表した(3月23日)。但しUAEのFNCとサウジアラビアの地方議会はいずれも権限が大幅に制限されており、サウジアラビアでは女性の投票も認められていない。両国政府の発表は民主化への取り組みのアナウンスメント効果を狙ったものと言えよう。またクウェイトでは政府を批判するジャーナリストに対する訴追を全て取り消すと発表しメディアに秋波を送っている(2月13日)。

(続く)

 

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