2007年08月
2007年08月28日
(お知らせ)
本シリーズは「中東と石油」の「A-15 サウジアラビア・サウド家」で全文をごらんいただけます。
(第16回)サウド家の有力家系(5):解体に向かうスデイリ一族(スデイリ・セブン4)
ハッサ・スデイリ妃を母親とする7人兄弟、いわゆるスデイリ・セブンは長男のファハド亡き後も次男のスルタンが皇太子となり、ナイフ内相、サルマン・リヤド州知事、アブドルラハマン国防副大臣、アハマド内務副大臣は留任しており、サウド家の中で依然強い勢力を保っている。また兄弟間の不和の噂もない。しかしこれまで兄弟の結束が堅かったのは彼らの周囲に多くの異母兄弟がおり、血の繋がった兄弟同士で助け合う必要があったからである。
アブドルアジズ初代国王は生涯に多数の女性を娶り、そのうち17人の王妃が合計36人の王子を産んでいる。王子の数はハッサ・スデイリ妃が最も多い7人であり、アブダッラー現国王のように1人息子のケースもある。彼らは一般に第二世代の王族と呼ばれる。第二世代王族36人のうち既に15人が亡くなり、残されたのは21人である。そのうちスデイリ兄弟は6人で全体の3割近くを占めている。第二世代の中では数の上でむしろ存在感を増しているようにも見える。
しかし第二世代の王子達も最も若いムクリン王子(ハイール州知事)が62歳であり、アブダッラー国王は83歳の高齢である。スデイリ兄弟とて例外ではなく、スルタン皇太子が81歳、ナイフ内相74歳、サルマン・リヤド州知事71歳などいずれも高齢である。サウド家の中では第三世代への交替が始まっている。
第三世代の王族にはサウド外相(ファイサル第三代国王子息)やアブドルアジズ国務相(ファハド第五代国王子息)のような閣僚やハーリド・マッカ州知事(ファイサル第三代国王子息)、ムハンマド東部州知事(ファハド第五代国王子息)など高官に就く者も出ている。さらにはハーリド国防相副大臣(スルタン国防相子息)、バンダル国家安全委員会事務局長(元駐米大使、スルタン国防相子息)、ムハンマド内相補(ナイフ内相子息)達のように父親の右腕となって組織を支えている者もいる。今後も第二世代から第三世代へのバトンタッチが進むことは間違いない。
王子の数は第二世代が36人、第三世代は250人以上にのぼる 。閣僚・高級官僚のポストは限られており、第三世代の競争は第二世代とは比べ物にならないほど厳しい。そのような中でスデイリ一族の第三世代は親達と同じように結束して高級ポストを独占することができるのであろうか。結論を言うならポスト独占は困難になりスデイリ一族は解体に向かうのではないかと考えられる。
例えばファハド(前国王)の息子アブドルアジズ(国務相)とスルタン(皇太子)の息子ハーリド(国防副大臣)は従兄弟の関係である。兄弟と従兄弟では明らかに結束の強さが違うであろう。さらにファハドを同じ父親とするアブドルアジズ(国務相)とムハンマド(東部州知事)の兄弟は、母親の異なる異母兄弟である。父の死後、遺産相続をめぐり二人は対立しているとの風評が立っており、ファハド家の結束はおぼつかない。
スデイリ・セブン6男サルマン・リヤド州知事の息子達は石油省次官のアブドルアジズを除き他の兄弟は新聞社社主、障害児協会会長などの社会的ポストについている。社会的ポストと言えば聞こえは良いが、所詮「親の七光り」である。
「売り家と唐様で書く三代目」と言う江戸川柳がある。初代や二代目の苦労を知らない三代目は家業を省みず趣味道楽に走って家運を傾け、最後に習い覚えた能筆で自宅の売り看板を書いて身代を潰す、と言う意味である。サウド家三代目の多くが物心のついた頃、同家は既に磐石の基盤を築き、しかも王族達は豊かな石油の富による飽食の生活に明け暮れていた。
血のつながりが薄くなるスデイリ・セブン一族の三代目以降は、単に「スデイリ」の名前だけで結束することは難しそうである。大胆な推理をするならば、「新スデイリ・セブン」即ち新たな同母兄弟関係(例えばナイフ内相のジョーハラ妃を母親とする兄弟)、或いは従姉妹との結婚による義兄弟の関係(サウド外相の妹を娶ったバンダル元駐米大使)が、新たな同盟関係を形成する可能性が大きい。サウジアラビアは典型的な父系社会と言われるが、兄弟や従兄弟が多すぎる場合は、むしろ母親や妻を通じた血縁関係こそ隠された鍵になっていることを見逃してはならないであろう。
(第16回完)
(これまでの内容)
(第15回)サウド家の有力家系(4):ファハド前国王家(スデイリ・セブン3)
(第14回)サウド家の有力家系(3):ナイフ内相家とサルマン・リヤド州知事家(スデイリ・セブン2)
(第13回)サウド家の有力家系(2):スルタン皇太子家(スデイリ・セブン1)
(第12回)サウド家の有力家系(1):アブダッラー国王家
(第11回)サウド家とビジネスの関わり(2):ビジネスに進出した二人の王族
(第10回)サウド家とビジネスの関わり(1):パトロンと庇護される者
(第9回)要職を独占するサウド家の王族(その3):高級官僚の王族達
(第8回)要職を独占するサウド家の王族(その2):官選知事の顔ぶれ
(第7回)要職を独占するサウド家の王族(その1):中央政府閣僚
(第6回)アブドルアジズの息子達に受け継がれる王位
(第5回)アブドルアジズの治世後期:石油の発見と第二次世界大戦
(第4回)サウド家安泰のために:26人の王妃と36人の王子達
(第3回)アラビア半島国盗り物語―「サウジアラビア王国」の樹立
(第2回)サウド家のクウェイト亡命生活と19世紀末の中東情勢
(第1回)サウド家のはじまり
(前田 高行)
本稿に関するご意見、コメントをお寄せください。
E-mail: maedat@r6.dion.ne.jp
本シリーズは「中東と石油」の「A-15 サウジアラビア・サウド家」で全文をごらんいただけます。
(第16回)サウド家の有力家系(5):解体に向かうスデイリ一族(スデイリ・セブン4)
ハッサ・スデイリ妃を母親とする7人兄弟、いわゆるスデイリ・セブンは長男のファハド亡き後も次男のスルタンが皇太子となり、ナイフ内相、サルマン・リヤド州知事、アブドルラハマン国防副大臣、アハマド内務副大臣は留任しており、サウド家の中で依然強い勢力を保っている。また兄弟間の不和の噂もない。しかしこれまで兄弟の結束が堅かったのは彼らの周囲に多くの異母兄弟がおり、血の繋がった兄弟同士で助け合う必要があったからである。
アブドルアジズ初代国王は生涯に多数の女性を娶り、そのうち17人の王妃が合計36人の王子を産んでいる。王子の数はハッサ・スデイリ妃が最も多い7人であり、アブダッラー現国王のように1人息子のケースもある。彼らは一般に第二世代の王族と呼ばれる。第二世代王族36人のうち既に15人が亡くなり、残されたのは21人である。そのうちスデイリ兄弟は6人で全体の3割近くを占めている。第二世代の中では数の上でむしろ存在感を増しているようにも見える。
しかし第二世代の王子達も最も若いムクリン王子(ハイール州知事)が62歳であり、アブダッラー国王は83歳の高齢である。スデイリ兄弟とて例外ではなく、スルタン皇太子が81歳、ナイフ内相74歳、サルマン・リヤド州知事71歳などいずれも高齢である。サウド家の中では第三世代への交替が始まっている。
第三世代の王族にはサウド外相(ファイサル第三代国王子息)やアブドルアジズ国務相(ファハド第五代国王子息)のような閣僚やハーリド・マッカ州知事(ファイサル第三代国王子息)、ムハンマド東部州知事(ファハド第五代国王子息)など高官に就く者も出ている。さらにはハーリド国防相副大臣(スルタン国防相子息)、バンダル国家安全委員会事務局長(元駐米大使、スルタン国防相子息)、ムハンマド内相補(ナイフ内相子息)達のように父親の右腕となって組織を支えている者もいる。今後も第二世代から第三世代へのバトンタッチが進むことは間違いない。
王子の数は第二世代が36人、第三世代は250人以上にのぼる 。閣僚・高級官僚のポストは限られており、第三世代の競争は第二世代とは比べ物にならないほど厳しい。そのような中でスデイリ一族の第三世代は親達と同じように結束して高級ポストを独占することができるのであろうか。結論を言うならポスト独占は困難になりスデイリ一族は解体に向かうのではないかと考えられる。
例えばファハド(前国王)の息子アブドルアジズ(国務相)とスルタン(皇太子)の息子ハーリド(国防副大臣)は従兄弟の関係である。兄弟と従兄弟では明らかに結束の強さが違うであろう。さらにファハドを同じ父親とするアブドルアジズ(国務相)とムハンマド(東部州知事)の兄弟は、母親の異なる異母兄弟である。父の死後、遺産相続をめぐり二人は対立しているとの風評が立っており、ファハド家の結束はおぼつかない。
スデイリ・セブン6男サルマン・リヤド州知事の息子達は石油省次官のアブドルアジズを除き他の兄弟は新聞社社主、障害児協会会長などの社会的ポストについている。社会的ポストと言えば聞こえは良いが、所詮「親の七光り」である。
「売り家と唐様で書く三代目」と言う江戸川柳がある。初代や二代目の苦労を知らない三代目は家業を省みず趣味道楽に走って家運を傾け、最後に習い覚えた能筆で自宅の売り看板を書いて身代を潰す、と言う意味である。サウド家三代目の多くが物心のついた頃、同家は既に磐石の基盤を築き、しかも王族達は豊かな石油の富による飽食の生活に明け暮れていた。
血のつながりが薄くなるスデイリ・セブン一族の三代目以降は、単に「スデイリ」の名前だけで結束することは難しそうである。大胆な推理をするならば、「新スデイリ・セブン」即ち新たな同母兄弟関係(例えばナイフ内相のジョーハラ妃を母親とする兄弟)、或いは従姉妹との結婚による義兄弟の関係(サウド外相の妹を娶ったバンダル元駐米大使)が、新たな同盟関係を形成する可能性が大きい。サウジアラビアは典型的な父系社会と言われるが、兄弟や従兄弟が多すぎる場合は、むしろ母親や妻を通じた血縁関係こそ隠された鍵になっていることを見逃してはならないであろう。
(第16回完)
(これまでの内容)
(第15回)サウド家の有力家系(4):ファハド前国王家(スデイリ・セブン3)
(第14回)サウド家の有力家系(3):ナイフ内相家とサルマン・リヤド州知事家(スデイリ・セブン2)
(第13回)サウド家の有力家系(2):スルタン皇太子家(スデイリ・セブン1)
(第12回)サウド家の有力家系(1):アブダッラー国王家
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(第10回)サウド家とビジネスの関わり(1):パトロンと庇護される者
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(第8回)要職を独占するサウド家の王族(その2):官選知事の顔ぶれ
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