2010年08月
(注)本シリーズはブログ「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。
4.各国の大型プロジェクトの概要(続き)
(注) カッコ内末尾のプロジェクト番号は別表「GCC Projects Top 100(http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-N-01MeedGCCProjectsTop100.xps)の左端に記された通し番号である。
(5)クウェイト
クウェイトの大型プロジェクトは7件、総額1,236億ドルであり、金額ではUAE、サウジアラビアに次いでGCC3番目に多く、件数では4番目である。
・ Madinat al-Hareer (City of Silk)(770億ドル、Real Estate、Design、2030年、No.2)
・ Fourth Refinery (Al-Zour Refinery)(150億ドル、Oil & Gas、FEED、2016年、No.22)
・ Al-Xour North Power & Desalination Plants (84億ドル、Power & Water、EPC bid、2014年、No.49)
・ Kuwait City Metropolitan Rapid Transit (70億ドル、Transport、Study、2016年、No.63)
・ Bubiyan Island (60億ドル、Real Estate、Planned、2015年、No.76)
・ Sabah al-Salem New University Campus (52億ドル、Education、EPC bid、2014年、No.86)
・ Sabah al-Ahmed Township (50億ドル、Real Estate、Under Construction、2020年、No.95)
Madinat al-Hareer(City of Silk)が全体金額の6割強を占めている。このプロジェクトはクウェイト市の北方Subiya地区250平方KMに70万人が居住する新都市を建設する壮大な計画であり、現在世界最高層のドバイのブルジュ・ハリーファを上回る高さ1,001メートルと言う超々高層ビル「大ムバラクタワー」がそのランドマークである。因みに高さ1,001メートルは有名な寓話集「千夜一夜(アラビアン・ナイト)」に因んで名づけられたものである。
この計画が公表されたのはリーマン・ショック以前のオイル・ブームの頃であり、当時、湾岸諸国で数多く打ち上げられたメガ・プロジェクトの一つである。かつてクウェイトはGCC諸国で最も先進的な都市づくりを誇り、また古代は「海のシルクロード」の起点として繁栄した歴史を有していたが、特に湾岸戦争以降クウェイトは発展が止まりドバイに先行されている。このためクウェイトはプロジェクト名を「絹の都市」と命名し巻き返しを図ろうとしている。
しかし第3者の目で見る限り「絹の都市」プロジェクトは実現の可能性が乏しい大風呂敷の域を出ない。オイルマネーの豊かなクウェイトにとって資金的には可能であり、国威発揚の意味合いが濃いが、イラクとの国交回復も不十分な状況では、ペルシャ(アラビア)湾の最深部にあるクウェイトを地域のハブに育てると言う発想は現実的ではないであろう。
さらにクウェイト国内は政府(サバーハ家)と国会が不毛の対立を繰り返しており、長期的視野に立った大型プロジェクトは殆ど前進していない。その影響はAl-Zour製油所プロジェクト(No.22)にも及び、一度は石油省が日揮と韓国企業に落札決定したにもかかわらず、国会の反対でキャンセルし、そのままの状態が続いている。国際企業は同国のビジネスに対する姿勢に不信感を抱いており、同国の大型プロジェクトには期待していない。
(6)バハレーン
GCC6カ国の中で経済規模が最も小さいバハレーンの大型プロジェクトは4件、242億ドルであり、金額的にはUAEの20分の1以下である。
・ Bahrain Rail Masterplan (79億ドル、Transport、Planned、2025年、No.58)
・ Water Garden City (66億ドル、Real Estate、Design、2020年、No.70)
・ Awali Field Development (50億ドル、Oil & Gas、Exploration、2018年、No.87)
・ Bahrain International Airport Upgrade (47億ドル、Transport、Planned、2015年、No.99)
バハレーンはカタールに似て運輸・交通のインフラプロジェクトが大きい。鉄道プロジェクトは次項のGCC合同プロジェクトを含めGCC6カ国全てに見られ、バハレーンでも国内主要都市を結ぶマスタープラン(No.58)を挙げている。
バハレーンとカタールの場合は両国を結ぶ道路・鉄道併用の海上橋Friendship Causewayの実現が国内鉄道網整備の鍵を握ると思われる。Friendship Causewayは両国の経済開発会議で承認され既にドイツ企業が基本設計を終えたと言われるが、最近になって突然エンジニアリング事業を縮小している。カタール官憲がバハレーンの漁民を拿捕するなど両国関係の雲行きが怪しくなっており、海上橋建設計画の先行きも予断を許さない状況である。
(7)GCC合同プロジェクト
・ GCC Railway Network(250億ドル、Transport、Study、2017年、No.9)
本プロジェクトはアラビア湾岸沿いにGCC全6カ国を総延長2,177KMで結ぶものであり、GCC統合を象徴するプロジェクトに位置付けられている。GCC統合プロジェクトとしてはハード面では既に湾岸電力網(GCC Grid)が稼働しており、鉄道は第二段階と言える。またソフトの統合プロジェクトとしては関税同盟に続き通貨統合が推進されている。
しかし電力網或いは関税同盟のように各国にとって実利的なプロジェクトは実現し易いが、鉄道網と通貨統合は各国の主権や思惑がからみ実現には今後かなりの紆余曲折があると見て間違いないであろう。
(完)
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2010年08月24日
ナタンズ爆撃(1)
サウジアラビアのハファル・アル・バテン基地北方を通過した3機の戦闘機は機首を北東に向けイラク領空を一気に駆け抜けた。眼下にシャトル・アラブ川の湿地帯が見える。いよいよイラン領である。パイロット達に緊張が走る。行く手にザグロス山脈の赤茶けた山塊が立ちはだかる。山脈を越えるとナタンズまでは指呼の間であるが、ナタンズの南方数十キロメートルのイスファハンにはイラン空軍の基地があり、いつスクランブルをかけられるかわからない。
パイロット達は臨戦態勢に入った。イスファハンのモスクのミナレット(尖塔)を視野に入れると3機は高度2万メートルから急下降を開始、天空から真っ逆さまに落下する3本の矢となった。超高空から一気に高度を下げ、目標を爆撃したら直ちに超高空に戻る「ハイ・ロー・ハイ」作戦の第二段階である。
パイロットが目にする地上の風景は一面の荒野であり視界を横断する道路が幾何学模様を織り成しているだけである。しかしパイロットが地形を確認する必要は無い。あらかじめプログラムされた攻撃目標は目の前の液晶画面に映し出され、機首は真っ直ぐ目標に向かっている。彼はただ目を凝らして左手で操縦桿を握り、右手の親指をミサイル発射ボタンに軽く当てるだけである。
右翼後方の「マフィア」が下降速度を上げて抜け出した。攻撃の一番手である。そして少し遅れて「エリート」が続き、その後ろに「アブダラー」がつける。3機の陣形がそれまでの三角形から直線に替わった。
(続く)
(この物語はフィクションです。)