2013年07月
2013年07月31日
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」(図表付き)で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0273MenaRank4rev.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その4)
(イスラエルとUAEが双璧!)
7.2012年のFDI Outward Stock(対外投資残高)
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/4-T07.pdf 参照)
2012年末のMENA19カ国及び1機関(パレスチナ自治区)のFDI Outward Stock(以下、対外投資残高)は3,051億ドルである。全世界の対外投資残高23.6兆ドルに占める比率は1.3%で、MENA各国の対外投資は欧米等に比べて低い水準にとどまっている。
対外投資残高が最も多い国はイスラエルの747億ドルであり、これに次ぐのがUAEの603億ドルである。投資残高が500億ドルを超えるのはこの2カ国だけでありMENA諸国の中では際立って多く、MENA全体の4割強を占めている。これに次ぐ第3位はサウジアラビア(344億ドル)、第4位トルコ(304億ドル)、第5位クウェイト(245億ドル)、第6位カタール(200億ドル)、第7位リビア(193億ドル)であるが、これら上位7カ国が投資残高100億ドル以上の国でMENA全体の9割弱に達する。MENAの対外投資は一部の国に偏っていることを示している。
上位7か国のうち4カ国(UAE、サウジアラビア、クウェイト、カタール)は湾岸産油国であり、2000年以降の原油価格高騰により生まれた豊富なオイルマネーが外国投資に振り向けられた結果と言えよう。なおクウェイトの場合、投資流入額は単年度及び累積残高ともMENA諸国の中でも低いレベルにとどまっているのに対し(1、3章参照)、対外投資額は単年度ではMENA1位(その2参照)、残高では5位であり、オイルマネーが継続的に国外に向かっていることを示している。
投資残高が100億ドル未満の国は、バハレーン(97億ドル)、レバノン(82億ドル)、エジプト(63億ドル)、オマーン(54億ドル)、イラン(33億ドル)、モロッコ(24億ドル)、アルジェリア(21億ドル)、イラク(15億ドル)等があり、イエメン、ヨルダン、シリア、チュニジア及びパレスチナ自治政府は投資残高が10億ドル未満である。
(続く)
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4.両親による院政?
33歳の若さでカタール首長に即位したタミーム。即位直後はお祝いに駆け付けた各国元首との接遇に追われ、また現在ではラマダンで王宮を訪れる市民からお祝いの言葉を受けるのに忙しい。彼が具体的な行動を起こすのはラマダンの休暇明けからであるが、外交、内政ともその手腕は未知数である。天然ガス輸出のおかげで経済は絶好調であり、国内では2022年のワールドカップ開催を目指して大型の公共工事が次々と着工されている。国内の治安は安定しており、外交にも今のところこれと言った問題は見当たらない。カタールはまさに順風満帆の上げ潮に乗っている。タミム新首長は実に恵まれた状況下でトップの座についた幸運児と言えよう。
しかし真価を問われるのはこれからである。国内に問題が無いだけに外交面の力量が問われる。外交デビューは年末に開催されるGCCサミットであろう。90歳近いサウジアラビアのアブダッラー国王をはじめ他のGCC5カ国の首脳とは父親或いは祖父ほどの歳の開きがある。カタールを除く各国首脳はファミリーの結束を誇っている。そのような中に飛び込んでタミームはカタールの国益を守ることができるのであろうか。
前首長のハマドはしばしば他のGCC諸国の神経を逆なでするような言辞を弄し一匹狼の姿勢をとっていた。彼の場合は欧米民主主義国家が背後にいるという自信の裏付けがあったからである。米国にはウデイド空軍基地を貸し与え、またリビア内戦ではNATOに協力して反リビア勢力を支援している。その他イエメン、スーダン、パレスチナなどカネを惜しみなくばらまいた国は数知れない。援助を求めてドーハ詣でをする貧しい国々に対しても大盤振る舞いを繰り拡げている。カタールは頼りになる国である。但しお目当てはカネだけでありカタールそのものを頼りにしている訳ではない。カタール首長にとって都合がよいのは、そのようにいくら散財しても国内の批判が全くないことである。カタール国民は世界一の豊かさに酔いしれ政府批判など考えてもいない。為政者にとってこれほど楽なことはないであろう。
タミーム新首長の置かれた立場もその延長上にある。従って彼は内政外交を思うがままに操ることができるはずである。しかし彼は育ちが良く大人しい典型的な二代目であり、父親のような老獪で権力欲と名誉欲に凝り固まった独裁者にはなれそうもない。新首長は強いリーダーシップを発揮できない優柔不断な支配者になりそうだ。新首長は即位演説でこれまでの方針を継続すると明言し、父親のハマドに「HH the Father Emir (首長国の父、即ち国父)」の称号を与えた。ここに父子相克の萌芽が隠されていると見るのはあながち穿ちすぎではなかろう。
父子相克はおそらく外交方針をめぐって表面化すると思われる。新首長はサウジアラビアを中心に結束するGCC首脳に籠絡される可能性が高い。また欧米諸国或いは貧しい開発途上国のカネの無心に対してもタミームの人の良さが存分に発揮されるであろう。これらのことはGCCが一枚岩であることを内外に示し、或いはカタールの国際貢献と言う面で同国の評価を高めることになる。しかし息子の手ぬるいやり方がカタールに世界の称賛を集めると言うハマドの目指す構図に結び付くかどうかは定かでない。いつの世にもカネをむしり取られるだけで国際的な地位が上がらない国家の例はある。独裁者ハマドにとってはカタールが単なる金づると軽んじられることは耐えられないであろう。
最初のうちこそ黙っていてもハマドは遅かれ早かれ息子の政治に口出しするに違いない。院政の始まりである。否、ハマドは既にその手を打っていると言えるかもしれない。それが新内閣の閣僚リストに現れている 。新内閣には「国防担当国務相」はいるが、「国防相」そのものがいないことに注目すべきである。ハマドは1995年にクーデタで首長に就き、まず首相と国防相を兼務した。その後首相を義弟、さらに遠縁のハマド・ビン・ジャーシムに挿げ替えた後も国防相のポストは手離さなかった。彼にとって国軍こそ地位安泰の要なのである。今回、新首相兼内務相に治安の要である旧内閣の内務担当相の王族アブダッラーが昇格し、国防担当国務相にハマド・アルアッティヤ将軍が任命されている。両名はハマド前首長の子飼いの腹心と言ってよいであろう。ハマドは息子に禅譲したと言いながら実は息子に好き勝手にやらせないような体制を押しつけているのかもしれない。
ハマドの他にもう一人新首長の行動を束縛する人物がいる。タミームの母親モーザ前王妃である。アラブ・イスラム世界ではファースト・レディと言えども表舞台に出ることは稀であるが、モーザは夫ハマドの外国訪問に同行し華々しく活動した。時には単独で国際会議に出席し、国連事務総長と並んだ写真がメディアをにぎわせたりもした。サルコジ前仏大統領時代には仏高等芸術アカデミー会員に推された。しかしこの時「男装の麗人」姿の写真が報道され(上掲参照)、イスラム女性にあるまじきことと国内外で顰蹙を買った 。この事件以来さすがに政治の場は控えているが相変わらず慈善事業や王室外交に精を出しており、オランダ国王即位式では日本の皇太子夫妻の隣に座るなどファースト・レディとして振舞っている。タミーム首長にはジャワヒールとアル・アヌードの二人の妃がおり 、ジャワヒールはアル・サーニー一族の王女であるが二人とも表舞台に顔を出していない。モーザ妃がタミーム新首長の王妃にファースト・レディの座を譲る気配はなさそうだ。
「国父」の称号を得て国政の主導権を握り続けようと目論むハマド。そして「首長の生母」の称号を盾にファースト・レディの座を嫁に渡す気配のないモーザ。カタールでは新首長の両親による院政が敷かれようとしている。
(完)
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