2014年01月

2014年01月26日

JETRO事務所長離任(1999年)
 社内には、利権契約が延長できれば鉄道建設のための20億ドルの投資と年間経費1億ドルは安い買い物だと主張する者もいた。たしかに2000年以降も日量30万バレルのカフジ原油を日本に輸入できることは投資に見合っていると言う計算も成り立つ。但し外国での鉱山鉄道プロジェクトに日本の企業・銀行が積極的に取り組むとは考えられず、赤字補てんに税金を投入せざるを得ないことは明らかであった。プロジェクトが国内であればまだしも海外の鉄道プロジェクトに日本政府が深入りすることに国民の納得が得られるか、と言うのが多くの意見であった。間の悪いことに当時石油価格は暴落し石油は買手市場であった。


 通産省(現経産省)は大臣、局長、課長を続々とリヤドに送り込んだ。小長社長はその露払い、会談の同席、事後の情報収集等々に追いまくられていた。筆者が赴任していた3年間、社長は年平均5~6回日本とサウジアラビアを往復しており、帰国したと思うとすぐに戻ってきたことも再々であった。筆者はその都度リヤド空港に出迎え、面会の約束で忙しい社長に立ち話で合弁事業案件の現状報告をした(長旅と度重なる出張で疲れ気味の社長に成果が出ていないことを報告するのは気が重かったが----)。


 ともかく通産省は一丸となって鉱山鉄道計画に代わる日本側の代案を次々と繰り出した。彼らの発想力と実行力には目を見張るものがあり、日本の官僚の優秀さを垣間見た。彼らは実にクールである。それは本来の冷静と言う意味だけではなく、現代風の「格好良さ」と言う意味も含めてのクールさであった。強いて難をつけるとすれば彼らは余りにも変わり身が早いことであり、大らかさや大胆さに欠けると言うことであろうが、彼らも人間であり全てを求めるのは酷と言うものであろう。


 局長、課長級のエリート官僚は2~3年で交代し、その都度挨拶に来訪するため、相手側から半ばあきれたような顔をされることが多かった。サウジアラビアでは大臣も高級官僚も10年以上勤めるのが当たり前だったからである。しかし彼らは逆に引き継ぎがスムーズに行われ業務に支障が生じないことに感心していた。彼らにとって日本の官僚システムはトヨタ、ソニーなどと同様「不思議の国の産物」だったようである。


 このような日本側の努力にもかかわらずアブドルアジズ王子は鉱山鉄道計画に固執したまま2000年を迎えた。王子のかたくなな態度に腹をくくった日本側は2000年1月、時の深谷通産大臣がリヤドを訪問、利権契約延長と鉱山鉄道のバーター取引では日本の世論が納得しない、としてサウジ側の提案を正式に断った。遂にアラビア石油の命運は尽きたのである。同時にサウジアラビアと日本の間には深い亀裂が生まれた。


 両者が最後まで歩み寄れなかった理由を筆者は次のように考えている。即ち、トップから全権を委任されたと自負する若いアブドルアジズ王子の独断専行が両国に亀裂を生んだ。王子は日本が鉱山鉄道計画を受け入れること間違いなし、とアブダッラー皇太子他のサウジアラビアのトップに吹き込んだ。そのため深谷大臣が正式に断った時、皇太子以下サウジ政府のトップはまさか、と思い日本の対応に不快感を覚えた。一方の日本側も交渉のイロハをわきまえない若いアブドルアジズ王子にほとほと手を焼いた末に、大所高所から日本の国益を天秤にかけて最後は交渉決裂やむなしと判断した。これが当時の断片的な情報をつなぎ合わせた筆者の推測である。


 交渉決裂後の数年間、両国関係は冷え込み、関係が改善したのはその数年後のことである。その間にアブドルアジズ王子はアラビア石油取締役からOPEC本部事務局付きとなり、現在は石油省次官である。もし日本との関係を悪化させた責任の一端が彼にあるとすれば普通のテクノクラートなら多分表舞台から消えたに違いない。にもかかわらず現在王子が石油省次官であるのは何と言っても彼がサウド家王族の一員だからであろう。サウド家の王族はイスラムの教えに対する背教行為或いはサウド家の体面を汚す犯罪でも犯さない限り地位をはく奪されることはないのである。強いて言えば彼は従兄弟たちに比べ昇格が遅れているのは確かである。


 筆者は利権契約延長交渉の最期を現地で見届けることなく、1999年8月、3年間の任期を終えて帰国することになった。実はこの時リヤド赴任の延長を打診されたのであるが、精神的に限界であり体も悲鳴を上げていた。帰国後、本社に戻ることはなく、そのまま中東協力センターに出向、リヤド時代と同じ仕事を今度は国内で行うことになったのである。


(続く)


(追記)本シリーズ(1)~(20)は下記で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0278BankaAoc.pdf 
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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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2014年01月24日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集」で一括してお読みいただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0296MenaRank7.pdf

(MENAなんでもランキング・シリーズ その7)
 
2.MENAトップのバハレーンは米国に次ぐ世界13位、日本よりも高い評価
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/7-T01.pdf参照)
 総合評価でMENA16ヶ国のトップはバハレーンで世界順位は13位である。これは12位の米国に次ぎ、25位の日本よりはかなり高い。バハレーンに次ぐMENA2位はUAEであり世界順位はバハレーンよりかなり離れた28位となっている。MENA3位以下はカタール(世界30位)、ヨルダン(同39位)、イスラエル(同44位)及びオマーン(同48位)までが世界50位以内である。これら6カ国に続くトルコ(世界64位)、クウェイト(同76位)、サウジアラビア(同77位)が全世界178カ国の中の上位グループとなる。


 MENA11位以下の国とその世界順位は以下のとおりである。
 レバノン(世界96位)、モロッコ(世界103位)、チュニジア(世界109位)、イエメン(世界123位)、エジプト(世界135位)、アルジェリア(世界146位)、イラン(世界173位)でありイランの経済自由度は世界最低レベルと評価されている。因みにMENA16カ国の平均世界順位は82位でありほぼ世界の中間レベルにある。


3.分野(Pillar)別の順位
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/7-T02.pdf 参照)
 経済の自由度を構成する10のPillar(上記1参照)について、MENA諸国の概要を見ると以下の通りである。


(1) Property Rights(MENA平均ポイント:40.0)
Property Right(工業所有権保護)がMENAで最も高いのはイスラエルでポイントは75.0である。ついでポイントが高いのはカタール(70.0)でさらにバハレーン及びヨルダンがポイント60.0で並んでいる。MENAの平均ポイントは40.0であるが、これを下回っているのはアルジェリア、イエメン(30.0)、エジプト、レバノン(20.0)でイラン、リビア、シリアは10.0にとどまっている。
(参考:日本80.0、米国80.0、中国20.0)


(2) Freedom from Corruption(MENA平均ポイント:38.2)
汚職の少なさ、透明度はカタールがポイント72.4でMENAトップである。このポイントは日本(77.8)より低いが米国(72.0)よりわずかに高い。カタールに次ぐのはUAE66.4、イスラエル59.3であり、バハレーン(49.4)、オマーン(48.2)、ヨルダン(45.6)、トルコ(44.0)、サウジアラビア及びクウェイト(43.7)と続いている。
 一方MENAの中で汚職の度合いが高いとされているのはイラク、リビア、イエメンなどでそれぞれのポイントは13.7、18.3、19.4である。MENA諸国の中ではGCC或いはヨルダンのような君主制国家の汚職度が低い一方、汚職度の高い国(イラク、リビア、イエメンなど)は共和制であり、強権的な独裁制が倒れた後も透明度は低いままである。
(参考:日本77.8、米国72.0、中国35.0)


(3) Fiscal Freedom(MENA平均ポイント:88.5)
 MENAはこの分野では世界のトップレベルの国が多い。特にGCCの6カ国はバハレーン、カタールが99.9、さらにサウジアラビア(99.7)、UAE(99.6)、オマーン(98.5)、クウェイト(97.7)に見られる通りGCC6カ国はいずれもほぼ満点に近く、総合世界1位である香港のこの分野のポイント(93.0)を上回っている。またMENAで二番目に低いモロッコのポイント71.3は米国(65.8)或いは日本(69.2)よりも高い。因みにMENAで最もポイントが低い国はイスラエルの60.1である。MENA17カ国の平均ポイントは88.5でありMENAは世界的に非常に高いレベルにある。
(参考:日本69.2、米国65.8、中国69.9)


(4) Government Spending(MENA平均ポイント:60.9)
 この分野のMENAトップはイラン(ポイント:85.9)であり、これに続くのがUAE(83.1)、イエメン(同74.9)、レバノン(73.7)、カタール(72.1)、バハレーン(71.4)、エジプト(69.6)である。一方この分野の評価が低いのはイスラエル、イラク(40.3)、アルジェリア(51.0)、クウェイト(55.6)などであるが、他の項目に比べてポイントの高低差は比較的小さい。
(参考:日本47.1、米国48.1、中国82.9)


(5)  Business Freedom(MENA平均ポイント:65.7)
 この分野ではチュニジアがポイント80.7でMENAでは最も高い。その他バハレーン(76.3)、モロッコ(76.2)、UAE(74.4)などが高い。MENA平均は65.7と、中国(49.7)を上回っている。この項目のポイントが低い国はリビア(50.1)、レバノン(55.6)である。
(参考:日本80.0、米国89.2、中国49.7)

(続く)


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2014年01月23日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0297JapanAbuDhabi.pdf


1.茂木経産相のアブダビ訪問で二つの大きな成果
 茂木経済産業相が昨年2月に続き二度目のアブダビ訪問を行い、日本のエネルギー外交に二つの大きな成果を勝ち取った。その一つはジャパン石油開発(JODCO、国際石油開発帝石INPEX子会社)のザクム上部油田の利権契約が2041年まで15年間延長されることになったのである。20日の茂木経産相とムハンマド皇太子との会談で合意された(1/21INPEX記者発表) 。


 翌21日には同じくアブダビで日本のコスモ石油とスペイン第二の石油企業CEPSAが原油・天然ガス開発で業務提携することが発表された 。コスモ石油の筆頭株主は世界の石油関連産業に対する投資で知られるアブダビの政府系ファンド(SWF)International Petroleum Investment Company(IPIC)であり、同時にIPICはCEPSA株式を100%保有している。IPICから見ればグループ企業間の連携と言うことになる。因みにコスモ石油はアブダビでムバラス油田の開発生産を行っているアブダビ石油の親会社であり、さらにエルブンドク油田を開発生産しているBunduq社の筆頭株主でもある。


 後ほど触れるようにアブダビでは上記の他にも日本企業が利権を保有している海上油田がいくつかあり、また現在は欧米国際石油企業が操業している陸上油田についても日本企業の参入の可能性が取りざたされている。


 本稿では先ずアブダビの海上及び陸上油田について利権の保有比率及び各利権の契約更新期限並びに生産量等について述べ、次いでIPICを軸とするアブダビの世界石油戦略を俯瞰することとする。


2.アブダビ油田操業に対する日本企業の参入状況及び利権延長問題
 UAEの石油埋蔵量は978億バレルで世界第7位(2012年末、BP資料) 、また同国の2012年の石油生産量は338万B/Dでこれも世界7位であるが(同BP資料) が、そのほとんどをアブダビ首長国が占めている。アブダビにはには陸上及び海上に多数の油田があり、国営石油会社ADNOCと日本を含む国際石油企業により共同操業が行われている。大型油田についてはいずれもADNOCが60%以上の利権を保有しているが、実際の操業は国際石油企業が担っている。合弁事業及び油田ごとの概要は以下のとおりである。
*出典:JOGMEC発行「石油・天然ガスレビュー」2013.11 Vol.47 No.6 P55-68 「アブダビの石油天然ガス開発をめぐる現況」)
(表:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-2-53.pdf 参照)


I.海上油田
(1) Abu Dhabi Marine Operating Co.(ADMA-OPCO)(油田名:下部ザクム、ウムシャイフ他)
利権保有率: ADNOC 60%, BP 14.67%, Total 13.33%, INPEX(JODCO) 12%
利権更新期限: 2018年
生産量:  575,000B/D
 1972年に合同石油がADMA(現ADMA-OPCO)の45%の株式をBPから取得、後にジャパン石油開発(JODCO)がこれを継承した。JODCOは2004年に国際石油開発(INPEX、現国際石油開発帝石)の100%子会社となり現在に至っている。
 現在生産中の油田は下部ザクム(生産量30万B/D)及びウムシャイフ(同27.5万B/D)。このほかウムルル、ナスル、SARBの3油田を開発中であり2016-18年に生産開始が予定されている。なお1978年にJODCOとADNOCがZADCO(下記参照)を設立、ザクム上部構造の開発に乗り出したことにより現在ではそれぞれ下部ザクム油田、上部ザクム油田と呼ばれている。
 

(続く)


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