2014年01月
2014年01月21日
下記のデータベースを追加しましたのでご利用ください。
「アブ・ダビの海上・陸上油田(操業会社、利権保有比率、利権期限および生産量」
http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-2-53.pdf
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集」で一括してお読みいただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0296MenaRank7.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その7)
中東北アフリカ諸国は英語のMiddle East & North Africaの頭文字をとってMENAと呼ばれています。MENA各国をいろいろなデータで比較しようと言うのがこの「MENAなんでもランキング・シリーズ」です。「MENA」は日頃なじみの薄い言葉ですが、国ごとの比較を通してその実態を理解していただければ幸いです。なおMENAの対象国は文献によって多少異なりますが、本シリーズでは下記の19の国と1機関(パレスチナ)を取り扱います。(アルファベット順)
アルジェリア、バハレーン、エジプト、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェイト、レバノン、リビア、モロッコ、オマーン、パレスチナ自治政府、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、 トルコ、UAE(アラブ首長国連邦)、イエメン、
これら19カ国・1機関をおおまかに分類すると、宗教的にはイスラエル(ユダヤ教)を除き、他は全てイスラム教国家でありOIC(イスラム諸国会議機構)加盟国です。なおその中でイラン、イラクはシーア派が政権政党ですがその他の多くはスンニ派の政権国家です(*)。また民族的にはイスラエル(ユダヤ人)、イラン(ペルシャ人)、トルコ(トルコ人)以外の国々はアラブ人の国家であり、それらの国々はアラブ連盟(Arab League)に加盟しています。つまりMENAはイスラム教スンニ派でアラブ民族の国家が多数を占める国家群と言えます。
(*)シリアのアサド政権はシーア派の分派のアラウィー派であるが、同派は一部で異端とみなされており、またアサド政権自体は宗教色の薄い世俗的軍事政権である。しかし最近ではレバノンのイスラム過激派ヒズボッラー(神の党)をシーア派イランと共に支援し、或いはスンニ派が多数を占める反政府勢力と対抗する図式が明確になってきた。このため国際世論ではアサド政権をシーア派とみなす論調が強くなりつつある。
第7回のMENAランキングは、米国のヘリテージ財団とウォール・ストリート・ジャーナルが共同で発表した「The 2014 Index of Economic Freedom World Rankings」についてMENA諸国をとりあげて比較しました。
* ホームページ:http://www.heritage.org/index/
1.「The 2014 Index of Economic Freedom World Rankings」について
「Index of Economic Freedom」(以下経済自由度)は、ワシントンに本部がある米国の保守系シンクタンクのヘリテージ財団(Heritage Foundation)がThe Wall Street Journalと共同で毎年公表しており、2014年レポートでは世界178カ国がランク付けの対象となっている。そのうちMENAはシリア、リビア、イラク及びパレスチナ自治政府を除く16カ国が評価対象となっている(なおシリア、リビア及びイラクはいくつかの個別分野(Pillar, 下記参照)で評価付けされているが、総合的なランクはない)。
IndexはPillarと呼ばれる以下の10の分野について各国の自由度に応じた点数評価とランク付けがされ、またそれらを総合したランク付けが行われている。
10のPillar(分野)
(1) Property Rights
(2) Freedom from Corruption
(3) Fiscal Freedom
(4) Government Spending
(5) Business Freedom
(6) Labor Freedom
(7) Monetary Freedom
(8) Trade Freedom
(9) Investment Freedom
(10) Financial Freedom
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
2014年01月19日
壮大な鉱山鉄道計画
石油利権契約を締結或いは更新する場合、石油企業が利権供与国に「サイン・ボーナス」と呼ぶ一時金を支払う例が多い。石油を採掘させるか否かはその国の権限であり、政府と石油企業の力の差は歴然としている。サイン・ボーナスは相手国政府に対する上納金と考えれば解りやすいであろう。アラビア石油も1957年にサウジアラビア政府と利権契約を締結した時にはかなりのサイン・ボーナスを支払っている。2000年の契約更改に対して会社はサイン・ボーナスを支払う腹積もりはあった。
しかしサウジアラビア政府はサイン・ボーナスに全く興味を示さなかった。豊かな石油収入がある同国にとっては契約一時金など端金にすぎなかったからである。それよりもサウジアラビア政府が目論んだのはこの際、一民間企業を越えて日本政府と直接交渉を行うことであった。有体に言えば「アラビア石油」を人質にして自国が抱えるカネだけでは解決できない問題に日本政府を引きずりこむことにあったのである。カネだけで解決できない問題とは爆発的に増える若者のための雇用を創出することであり、その最短の道が日本企業の誘致なのである。
企業誘致の先兵としてジェトロ事務所が開設され筆者が二代目所長として赴任した訳であるが、大型事業がなかなか実現しなかったことは既に述べたとおりである。しびれを切らした取締役のアブドルアジズ王子が逆提案として持ち出したのがアラビア半島を南北に縦断する鉱山鉄道建設計画であった。
日本の6倍の広さの国土を持つサウジアラビアは地表の大半が不毛の砂漠であるが、地下には石油以外にも数多くの鉱物資源が眠っている。特にアラビア半島北部には化成肥料の原料となるリン鉱石、アルミ原料のボーキサイトなどが大量に埋蔵していることが解っている。これら鉱物資源を開発し、ペルシャ湾沿岸に工場を建設して肥料或いはアルミを生産し輸出する。そのための鉱山と臨海工場地帯を結ぶ貨物鉄道を建設しようと言うのが鉱山鉄道計画である。そこには将来旅客列車も走らせ、北部の過疎地帯を開発しようとする思惑もあった。
この北部開発構想は当時病気がちであったファハド国王に代わり実権を掌握しつつあったアブダッラー皇太子(現国王)の強い意向でもあった。皇太子の母親はこの地域に強い勢力を持つシャンマル族の出身であり、またシャンマル族は皇太子が頼みの綱とする国家警備隊の中核を成していた。サウジアラビアでは当時も今も部族社会の色彩が濃い。国王以下のスデイリ・セブンの母親がスデイリ族であるように、王族はいずれも母親の出身部族を後ろ盾にしていた。
アブドルアジズ王子は皇太子の意向を汲んで北部鉱山鉄道プロジェクトの実現をアラビア石油、と言うより日本政府に迫ったのである。日本政府は形ばかりの調査団を派遣し、上空から路線ルートを実地検証した。アラビア半島の北西部には同国第二のネフド砂漠がある。鉄道ルートは砂漠東端の荒れ地を縫うような形でペルシャ湾へと延びる。鉄道建設そのものは技術的にさほど難しくないと判断された。しかし問題は建設費用とその後の運営費用である。鉄道用地は国有地であり無償貸与されることになっていたが、それでも建設コスト20億ドル、年間運行費用1億ドルと試算された。
サウジアラビア政府はプロジェクトを民間資金(PFI, Private Finance Initiative)によるBOT(Building, Operating and Transfer)方式で建設することを提案した。つまり日本側で資金を調達して建設し、完成後は一定期間運行を請け負う。契約期間内の運賃収入で投下資本を回収し、契約満了時にはすべての資産をサウジアラビア政府に譲渡することとなる。問題は運賃収入である。ペルシャ湾沿岸に建設される予定の工場の生産能力では、原料は1日1便の貨物輸送量にしかならない。わずか1日1便の運行では採算に乗らないことは日の目を見るより明らかである。このようなプロジェクトに手を上げる民間企業がいるはずはない。つまりは日本政府が赤字を補てんするしかないプロジェクトなのである。
双方で交渉が行われていたこの時期に日本からは歴代の総理大臣或いは通産大臣がリヤドを訪問している。1995年に村山総理、1997年に橋本総理(いずれも当時)が、また通産大臣としては堀内大臣(1997年)、与謝野大臣(1999年)が次々と訪れている。通産大臣が来訪してもジェトロ所長程度の下っ端が大臣と直接話す機会はない。まして総理大臣だと顔を見ることすらなくひたすら使い走りである。橋本総理が要人との面談を終えて政府専用機でリヤドを飛び立った時、事務所の窓から機影を見送ったことを思い出す。
(続く)
(追記)本シリーズ(1)~(20)は下記で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0278BankaAoc.pdf
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