2016年03月
2016年03月29日
第1章:民族主義と社会主義のうねり
7.ナクバ(大災厄)で覚醒した青年将校
ユダヤ人国家イスラエルの独立宣言に対し黙っていられないのがパレスチナに住むアラブ人たちであり、さらにエジプト、ヨルダンなどの周辺アラブ諸国であった。人口規模で言えば独立宣言時のユダヤ人の数は60~70万人程度。一方、周辺のエジプトなどに住むアラブ人は優に100倍を超えていた。旧約聖書の神話に例えればそれはまさにダビデと巨人ゴリアテの戦いに見えた。実際アラブ側の戦争計画者たちは11日以内にユダヤ軍を殲滅すると予告したほどである。
にもかかわらず1948年から1949年にかけてアラブ諸国とイスラエルが戦った第一次中東戦争は、ユダヤ人国家の独立戦争と位置付けたイスラエルの圧倒的勝利に終わりアラブは惨敗した。その理由は兵力と戦意の差であった。確かに人口比率だけで見ればアラブ人はユダヤ人の百倍以上であったが、実際に周辺アラブ諸国が戦場に送り込んだ兵力はエジプトが約1万人、ヨルダンが4,500人、イラク3千人、シリア2千人、レバノン千人、アラブ諸国からの義勇兵2千人のほかパレスチナ人戦闘員を加えても総勢2万3千人にすぎない。これに対してユダヤ側は正規のハガナ軍だけでも約3万5千人でこのほかにイルグンなどの軍事組織及び武装した入植者が数千人いたのである 。さらに装備の面でも欧米のユダヤ人同胞からの最新兵器と豊富な資金を得ており彼我の兵力の差は明白であった。
さらに兵士の士気にも雲泥の差があった。ユダヤ人たちは独立の意気に燃え戦意が高い。それよりも万一戦争に敗れるようなことがあれば彼らには再び「ディアスポラ(離散)」の運命が待ち構えている。ユダヤ人たちにとっては何としても負けられない戦争だった。男はもとより女たちも武器を取って立ち上がった。因みにイスラエルは今でも女性に兵役義務がある。現在の世界各国の兵役は志願制度であり徴兵制の国は多くない。韓国のような徴兵が義務付けられた国でも対象は男性だけであり、イスラエルのように女性にも兵役義務がある国は珍しい。
これに対してアラブ側は開戦と同時に四方八方からイスラエルに攻め込んだものの、アラブ連合軍とは名ばかりで統一した指揮命令系統もなく単なる烏合の衆に過ぎなかった。個々の兵士たちは自分たちが何のため、そして誰のために戦っているのかわからないまま、ただ上官の命令に従い旧式の武器でユダヤ人と交戦させられたのである。戦線のいたるところでアラブ兵士は敗退した。彼らはこの戦争を「ナクバ(大災厄)」と名付けた。
後にエジプト大統領となるナセル少佐も戦争に従軍し負傷している。1918年生まれのナセルは1939年に陸軍士官学校を卒業後スーダンに赴任、第二次大戦中にエジプト解放運動に身を投じ、第一次中東戦争の時は30歳の若き少佐であった。この時代、頭脳優秀だが貧乏なため大学に進学できない家庭の子弟が出世する道は士官学校に限られていた。士官学校に行けば衣食住の心配は無くそれどころか給与も支給される。さらに最新の技術を習得することができ、成績優秀なら外国にも留学できる。野心にあふれた若者にとってこれほど希望に満ちた職業は無かったであろう。
しかし士官学校卒業後には生命を祖国に預ける厳しい戦争が待っていた。戦争に敗れたそのとき、それまで祖国のためと思って戦ってきたナセルの胸に去来したのは祖国エジプトに対する幻滅だったのか。「マッチ擦るつかのまの海に霧深し 身捨つるほどの祖国はありや」と虚無感を露わにしたのは詩人の寺山修司であるが、ナセル少佐は違っていた。彼はナギブ将軍らと共に軍隊の中に反英愛国の秘密結社「自由将校団」を結成し革命の道を目指したのであった。
(続く)
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荒葉一也
E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
携帯; 090-9157-3642
2016年03月27日
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0373GlobalIslamicEconomy2016.pdf
1.Global Islamic Economy 2015-2016 Reportについて
イスラム経済の規模が急速に拡大している。イスラム経済はイスラム金融の他にムスリム(イスラム教徒)向けのハラール(アラビア語で「許されたもの」の意)食品、旅行・観光、ファッション、医薬・化粧品等々多岐にわたっている。世界のムスリムがハラール食品、旅行・観光、ファッション、医療・化粧品等に消費する支出の総額は2014年の1.8兆ドルから2020年には1.4倍の2.6兆ドルに達すると見込まれており、またイスラム金融の規模も1.3兆ドルから2.6兆ドルに倍増すると見込まれている。
これらイスラム経済に関する包括的な報告書「State of the Global Islamic Economy, 2015-2016 Report」がインターネット上に公表された(*)。報告書は一昨年に初めて発行され、今回が3回目である。スポンサーはドバイ首長国で、Thomson Reuters通信社及びDinarStandard社が編集を担当している。
URL:
http://www.slideshare.net/Khidr/thomson-reuters-state-of-global-islamic-economy-201516-report-53540682
報告書は全文212ページから成っており、イスラム経済の6つの主要分野―(1)Halal Food(ハラール食品)、(2)Islamic Finance(イスラム金融)、(3)Travel(旅行・観光業)、(4)Fashion(ファッション)、(5)Media & Recreation(メディア及び娯楽)、(6)Pharma & Cosmetics(医薬及び美容化粧品)―について分野ごとの市場規模、ビジネス動向等について解説、また専門家のコメントもある。調査の対象国はイスラム圏だけでなく、イスラム経済に対する非イスラム国の取り組みなどについても触れている。因みに日本については下記の2カ所で言及されている。
(1) 観光・旅行部門(報告書67ページ)
「Japan is actively seeking to become more Muslim-friendly to attract Muslim travellers」としてマレーシア、インドネシアなどからの観光客誘致促進のためCrescentRating社とワークショップを開催し市場開拓を行っていることが紹介されている。
(2) ファッション部門(報告書90ページ)
「Global brands are starting to tip their toes in the Muslim fashion space」の文中でユニクロとファッション・ブロガーHana Tajimaのコラボによるカジュアルファッションがユニクロの東南アジア店で展開されていることを紹介している。
本稿では報告書に基づいて世界のイスラム経済の規模の現状と将来の見通し、指数(GIEI)による各国の開発度ランク並びに6分野それぞれの市場規模について解説を試みる。
(続く)
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