2016年05月
2016年05月31日
(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0379GccSalarySurvey2016.pdf
1.はじめに:人種、職種、雇用国で異なる給与
GCC各国には極めて多数の外国人が働いており、GCCの民間部門は殆ど外国人によって支えられていると言って過言ではない。例えばサウジアラビア政府の発表では同国の人口は3,152万人であるが、そのうちサウジ人は2,110万人、外国人は1,040万人、実に人口の3人に一人が外国人である[1]。またクウェイト内務省では労働ビザで滞在する外国人は260万人に達するとしており[2]、自国民の131万人と比較すると3人に2人が外国人ということになる。さらにカタールやUAE・ドバイでは人口の8割以上を外国人が占めていると見られる。外国人はほぼ全員が成人就労年齢であり、乳幼児或いは老齢者を除く労働人口で見た場合、外国人の比率は9割程度に達することは間違いない。また自国民就労者の大半が公務員であることを考慮すると、カタールやUAEでは民間部門で働く労働者のほぼ100%が外国人と言って良いであろう。
これら外国人労働者は大きく三つの階層、(1)企業のトップ、中間管理職、専門職などのSenior Staff(上級職)、(2)事務所、商店などで事務員、店員として働くJunior Staff(下級職)及び(3)建設現場の労働者、道路清掃人などの肉体労働者(Worker)、に分類される。これらのうちSenior Staffは労働市場の流動性が高い。
湾岸諸国で働く外国人は多様な国籍の人々で成り立っている。給与体系は基本的に欧米式の職種別賃金体系であり、被雇用者が白人(西欧圏出身者)であるか、有色人種(アラブ又はアジア圏出身者)であるかによって賃金水準は異なる。有色人種の中でも同じアラビア語を話す近隣アラブ諸国の出身者とインド、パキスタン、東南アジアなどアジア圏出身者では賃金格差がある。
さらに湾岸のいずれの国で働くかによっても賃金水準は異なる。これは労働の需給バランスの問題だけではない。その国が産油国であるか否かによって雇用者の給与支払い能力に差異があり、また同じ産油国の中でも宗教的戒律が厳しいなど生活環境が過酷な国は給与水準が高めである。一般的に言えばサウジアラビア、UAE、カタールなどの給与水準は高く、オマーンやバハレーンなどは低い。このように湾岸諸国では働く国と職種と被用者の出身国により給与が異なる。
本稿ではドバイで発行されているGulf Businessが湾岸諸国の有力なリクルート業者に聞き取り調査を行って毎年発表している「Gulf Business Salary Survey」を取り上げた。GCCのリクルート業者は各国企業の要望に応じて上級職(Senior Staff)を直接面接採用することを主要業務としており、「Salary Survey」はGCCの労働市場で広く利用されている。(なお下級職(Junior Staff)、肉体労働者(Worker)はフィリピン、インドネシアなど派遣国で労働者を一括採用し送り込む方式が一般的である)。日本の企業が湾岸諸国で外国人のSenior Staffを雇用する場合、どの程度の給与が適当であるかは頭を悩ます問題であるが、そのような場合にこのデータは極めて有用であろう。
「Salary Survey」は大企業のCEOから役員秘書まで代表的な下記20の職種についてGCC各国ごとの概算月額給与を示し、さらにこれら各職種に就く外国人の出身地によってアラブ圏出身者、アジア圏出身者及び西欧圏出身者毎の3つの一覧表から成り立っている。即ち全データの数は20職種x6カ国x3出身圏=360となる。
職種:
CEO/MD - Multinational
CEO/MD - Local Company
Human Resources - Manager
Information Technology - Manager
Sales/Marketing - Account Manager
Legal - Lawyer Marketer/Manager
Facilities Management - Manager
Finance & Accounting - Manager
Recruitment - Manager
Healthcare - General Practitioner/Manager
Real Estate - Manager
Banking - Branch Manager
Banking - Treasury Manager
Banking - Retail/Personal Banking Manager
Media - Advertising Creative Manager
Media - Public Relations Manager
Media - Publishing Editor
Construction Project Manager
Events - Manager
Executive Secretary/PA
*GCC6カ国職種別及び出身地域別給与一覧表。
アジア圏出身者:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-I-1-01.pdf
アラブ圏出身者:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-I-1-02.pdf
西欧圏出身者:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-I-1-03.pdf
(上記3表をまとめたものー筆者作成)
GCC国別・職種別給与表:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-I-1-04.pdf
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
[1] Arab News on 2016/2/4, ‘KSA population: 21.1m Saudis, 10.4m expats’
[2] Kuwait Times on 2016/2/17, ‘Nearly 2.6 million expats in Kuwait’
http://news.kuwaittimes.net/website/nearly-2-6-million-expats-in-kuwait/
2016年05月27日
2016年05月25日
(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0378MenaRank10.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その10)
3.2011年~2015年の日本とMENA諸国の貿易(続き)
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/10-T04.pdf 参照)
(サウジ、UAE、カタールからの輸入は急減、過去5年間で最低水準!)
(3)主な国の輸入額の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/10-G05.pdf参照)
サウジアラビア、UAE、カタール、イランおよびイラクは石油・天然ガスの主要な輸入国であるが、これら5カ国の過去5年間の国別輸入額の推移を見ると、5年間を通じてサウジアラビアの輸入額が最も多く、その額は2011年の4兆円から2014年には25%増の5兆円に急増した。2015年は前年比4割減で過去5年間では最低の3兆円にとどまり、UAEが2.8兆円とサウジアラビアに迫っているが、MENA首位の座は変わらない。カタールからの輸入額はサウジ、UAEよりは少ないものの、2011年の2.4兆円から2.9兆円(2012年)→3.6兆円(2013年)と急激に増加した。しかし2014年には前年比2%減の3.5兆円に減少、さらに昨年は2兆円に急減している。カタールからの輸入減はLNG価格の下落、同国以外の輸入ソースの多様化等の影響と言えよう。これら3カ国がMENAの全輸入額に占める割合は2011年に76%であったが、2015年には80%に達しており、エネルギー価格が下落する中でもMENAにおける湾岸産油国のシェアがむしろ上がっていることは注目される。
これら3カ国に対してイラクからの輸入額は3,000億円以下で低迷し、特に2013年以降は3年連続で減少、2015年の輸入額は1,200億円と2011年の4割にとどまっている。イランについては2011年は1兆円強であったが2012年には6,400億円に急落、その後2014年まで6千億円台を続けた後、2015年には3,900億円に急減している。経済制裁による輸入抑制と原油価格下落の影響が大きく表れている。
(好調な輸出に陰りがみえるサウジアラビア、UAE、底が見え始めたイラン向け輸出!)
(4)主な国の輸出額の推移
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/10-G06.pdf参照)
MENAの日本からの輸出額では過去5年間を通じてUAEがトップである。これはドバイを通じた第三国への再輸出が多いからである。UAE向けの2011年の輸出は5,900億ドルであったが、その後はオイルブームにより2012年以降同国向けの輸出は4年連続で増加、2014年、15年は1兆円の大台を超えている。
オイルブームは同じ湾岸産油国のサウジアラビアにも表れており、同国向け輸出は2011年の5,200億円から2015年には1.6倍の8,300億円に増加している。その一方、同じ産油国であるがイラン向け輸出は対イラン経済制裁により2011年の1,361億円から大幅に減少、2013年の輸出は164億円にとどまった。その後は回復の兆しが見え、2015年には348億円で5年前の4分の1の水準まで回復している。
地域の経済大国であるトルコ向け輸出は2012年以降毎年増加しており、2015年は2,616億円と5年前の2011年を上回っている。またもう一つの地域大国エジプトは過去5年間を通じて大きな変化は見られないが、2011年の1,070億円から2015年には1,554億円に増加している。「アラブの春」の影響が薄くなりつつあると考えられる。
以上
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1964年に結成されたPLO(パレスチナ解放機構)は祖国の地パレスチナをイスラエルから奪回するための活動を開始した。当初活動の拠点はヨルダンのアンマンにおかれた。
1967年6月5日午前8時を期してイスラエルの奇襲攻撃が始まった。目指す相手は国境を接するエジプト、ヨルダンおよびシリアである。まずシナイ半島のエジプト空軍基地を奇襲し、空爆で滑走路を使用不可能にするとともに、駐機していたソ連製戦闘機すべてを破壊した。寝覚めを襲われたエジプト側は全く反撃できなかった。イスラエル軍は怒涛のごとくシナイ半島を横断、スエズ運河の対岸に達したのである。
シナイ半島を制圧したイスラエルは踵を返すとヨルダン川西岸のヨルダン領を占領、さらにシリア領のゴラン高原も押さえた。第三次中東戦争はイスラエルの圧勝、エジプトはじめアラブ側の惨敗と言う結果に終わった。両者の戦闘はわずか6日間で決着が付いたのである。このため第三次中東戦争は俗に「6日間戦争」と呼ばれている。この戦争でイスラエルはシナイ半島とガザ地区、ヨルダン川西岸地区及びゴラン高原を一挙に手に入れ国土面積は倍増した。シナイ半島は後にエジプトに返還されたが、その他のガザ地区、ヨルダン川西岸およびゴラン高原は今もイスラエルによる占領状態が続いている。
スエズ運河はしばらく閉鎖され国際経済に多大な影響が出た。それよりももっと大きな悲劇はヨルダン川西岸に住んでいたパレスチナ人たちの上に降りかかった。彼らの多くは難民となってヨルダンに雪崩れ込み、その数は百万人に達した。
ナセル大統領は敗戦の責任を取って6月9日夜あらゆる公職からの辞任を表明した。しかしエジプト国民のナセルに対する思いは敗戦で消えるどころか、むしろエジプトを救えるのはナセルしかいないという熱思いが噴出した。辞任表明の直後からカイロ市民はナセルの翻意を求め街頭に繰り出してデモ行進を始めた。真っ暗な灯火管制の中で巨大な群衆の渦が生まれた。辞任表明からわずか3時間半後、ナセルは問題を国民議会の決定に委ねるとの声明を発表した。翌10日早暁、国民議会はナセルに国家元首としてとどまるよう要請し、ナセルは大統領職を続けることになったのである。
8月、アラブ諸国はスーダンのハルツームでアラブ首脳会議を開き、三つのノー(No)と呼ばれるイスラエルに対する強硬路線を採択した。すなわち「ユダヤ人国家は承認しないというNO」、「イスラエルとは交渉しないというNO」、そして「アラブとイスラエルの和平はNO」と言う居丈高な宣言であった。実はエジプトもヨルダンも米国を仲介役とする話し合いでイスラエルから領土を取り戻したいと願っていたが、虚勢としか言いようのないアラブ各国首脳の掛け声に押し流されたのである。
ナセルはその後3年近く大統領の座を保ったが、本人自身がレームダック(死に体)であることを最も良く理解していたに違いない。1970年8月、イスラエルとの停戦を実現すると、その翌月現職大統領のまま52歳の若さで心臓発作により急死したのであった。
(続く)
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荒葉一也
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