2016年10月
2016年10月31日
(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0392MenaRank13.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その13)
中東北アフリカ諸国は英語のMiddle East & North Africaの頭文字をとってMENAと呼ばれています。MENA各国をいろいろなデータで比較しようと言うのがこの「MENAなんでもランキング・シリーズ」です。「MENA」は日頃なじみの薄い言葉ですが、国ごとの比較を通してその実態を理解していただければ幸いです。なおMENAの対象国は文献によって多少異なりますが、本シリーズでは下記の19の国と1機関(パレスチナ)を取り扱います。(アルファベット順)
アルジェリア、バハレーン、エジプト、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェイト、レバノン、リビア、モロッコ、オマーン、パレスチナ自治政府、カタール、サウジアラビア、シリア、チュニジア、 トルコ、UAE(アラブ首長国連邦)、イエメン、
これら19カ国・1機関をおおまかに分類すると、宗教的にはイスラエル(ユダヤ教)を除き、他は全てイスラム教国家でありOIC(イスラム諸国会議機構)加盟国です。なおその中でイラン、イラクはシーア派が政権政党ですが、その他の多くはスンニ派の政権国家です。また民族的にはイスラエル(ユダヤ人)、イラン(ペルシャ人)、トルコ(トルコ人)以外の国々はアラブ人の国家であり、それらの国々はアラブ連盟(Arab League)に加盟しています。つまりMENAはイスラム教スンニ派でアラブ民族の国家が多数を占める国家群と言えます。
第13回のランキングは、World Bank(世界銀行)の一グループDoing Businessがおこなったビジネス環境に関する世界各国のランキング(Economy Rankings)2017年版についてMENA諸国をとりあげて比較しました。
* Doing Businessのホームページ:http://www.doingbusiness.org/
1.「Economy Rankings – Doing Business」について
「Economy Rankings – Doing Business 2017」は、世界190の国あるいは地域のビジネス環境をランク付けしたものであり、当該国・地域でビジネス活動を行う場合の難易度を知る目安になる。判定は以下の10項目について順位付けを行い、それら10項目の順位の加重平均によって総合順位(Ease of Doing Business)が決められている。
(1) Starting a Business (起業)
(2) Dealing with Construction Permits(建設許可)
(3) Getting Electricity (電力事情)
(4) Registering Property(登記)
(5) Getting Credit(信用取得)
(6) Protecting Investors(投資家保護)
(7) Paying Taxes(徴税)
(8) Trading Across Borders(通関)
(9) Enforcing Contracts(契約強制力)
(10)Resolving Insolvency(清算)
ランク付けの対象となった国・地域の数は190であるが、そのうちMENAは19カ国及びパレスチナ自治政府の20であり全ての対象国がランク付けされている。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0391ImfWeoOct2016.pdf
(世界の平均伸び率は3%台前半で推移、低下し続ける中国!)
5.世界および主要地域・国のGDP成長率の推移(2013~2017年)
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-B-2-11.pdf参照)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-B-2-04.pdf参照)
(1)世界および主要な地域・国
2013年(実績)から2017年(予測)までの5年間の経済成長率の推移を見ると世界全体では3%台前半で推移しており今年は3.1%、来年は3.4%とみられている。
地域別で見ると2013年に5.1%の成長率を達成したASEAN-5か国はその後も他の地域を大幅に上回り5%前後の安定した成長を続けている。産油国を多く抱えたMENA地域は石油価格の低迷により2013年から2015年までは2%台の成長にとどまっているが、今年および来年は3%以上の成長が見込まれている。
主要国では日本の成長率は2013年の1.4%から2014年にはマイナス成長に低下、その後の2015年、16年も0.5%の成長にとどまる。来年は今年より若干改善されると予測されているが(+0.6%)、先進国の中で低成長にあえいでいる。これに対して米国の経済は先進国の中でも特に好調であり5年間を通じて2%前後の成長を維持している。
中国は2013年および14年の成長率が7%台であったが、2015年以降は6%台に低下しており、5年間で見ると2013年の7.8%が2017年には6.2%と毎年成長率が鈍化している。これとは逆にインドは5年間で6.6%(2013年)→7.2%(2014年)→7.6%(2015年~2017年)と2015年には中国の成長率を上回ると共に5年間を通じて7%前後の高い成長を維持している。ロシアは2015年に3.7%のマイナス成長に陥り、今年もマイナス0.8%と見込まれ、来年漸くプラス成長(+1.1%)に転ずる見通しである。
(2)MENA諸国
MENAでGDPが最大のトルコは2013年の経済成長率が4.2%であった。その後成長率は鈍化したが3%台の安定成長を維持している。世界最大の産油国でトルコに次ぐGDP大国であるサウジアラビアの5年間の成長率(実績・予想)は2.7%(13年)→3.6%(14年)→3.5%(15年)→1.2%(16年見込み)→2.0%(17年予想)であり、油価が急騰した2010年代前半のような大きな伸びは期待できない。
サウジアラビアを含むGCC6か国の平均成長率も3.5%(13年)→3.1%(14年)→3.1%(15年)→2.1%(16年見込み)→2.5%(17年予想)と今年および来年の成長率は従来に比べてかなり低い水準になりそうである。同じ産油国でもイランは2013年の1.9%のマイナス成長から2014年以降はプラス成長に転じており、特に経済制裁解除後の今年および来年は4%以上の成長が見込まれている。
(完)
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2016年10月27日
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0391ImfWeoOct2016.pdf
(MENAで断トツのカタール!)
4.2016年の一人当たりGDP
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-B-2-10.pdf参照)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-B-2-03.pdf参照)
日本の一人当たりGDPは37,304ドル、米国は57,294ドル、ドイツは42,326ドルである。米国は日本の1.5倍、ドイツは1.1倍である。また韓国は27,633ドルであり、米国の2分の1以下、日本の7割強である。BRICsと呼ばれる有力新興国のロシア、中国、インドはそれぞれ8,838ドル、8,261ドル、1,719ドルである。ロシアは前回(4月版)では中国を下回っていたが、今回は再度逆転している。インドは今年、来年と中国を上回る7.6%の高い成長率が見込まれているが、一人当たりGDPはまだまだ低く、中国の5分の1、日本の20分の1、米国の30分の1に過ぎない。
MENA諸国の一人当たりGDPは各国間の格差が極めて大きい。LNGの輸出で潤うカタールの一人当たりGDP60,733ドルは米国をしのぎ日本の1.6倍で世界のトップクラスである。MENAで一人当たりGDPが1万ドルを超える国はカタールのほかUAE(38,050ドル)、イスラエル(36,557ドル)、クウェイト(26,146ドル)、バハレーン(24,119ドル)、サウジアラビア(19,922ドル)、オマーン(15,080ドル)およびレバノン(11,271ドル)の8か国である。
上位7カ国のうちイスラエルを除く6か国はGCC諸国であり、石油あるいは天然ガスの恩恵を受けていることがわかる。特に6か国の中で人口がバハレーンに次いで少ないカタールは他を大きく引き離している。GCC6か国の平均一人当たりGDPは30,675ドルに達する。
しかし同じ産油国でありながらリビア、イラン、イラク、アルジェリアなどは一人当たりGDPが5千ドル前後であり、GCCと大きな格差がある。MENAで最も貧しいのはイエメンであり同国の一人当たりGDP(1,075ドル)は実にカタールの60分の1にとどまっている。
なお一人当たりGDPは各国のGDP総額を人口数で割ったものであるが、IMF統計における計算の母数となる人口は特にGCC諸国の場合注意すべき点がある。例えばカタールの人口は約260万人で同国の一人当たりGDP60,733ドルは同国のGDP(1,570億ドル。前項参照)をその人数で割ったものである。しかし同国人口のうち80%以上は出稼ぎ労働者が占めており、カタール国籍を有する自国民は40万人足らずと言われる。通常、統計上の人口は国籍を有する者のみが対象で一時的な出稼ぎ労働者は含まないが、カタールの一人当たりGDPには出稼ぎ労働者も含まれており実態を正確には表していないと言える。このことは同じように外国人比率が高いUAE或いはクウェイトについても言えることであり、3分の1が外国人であるサウジアラビアの場合も程度の差はあれ同様である。
このような要素を加味してGDPを算出した統計は見当たらないが、カタール、UAE、クウェイトの実際の一人当たりGDPはIMF公表数値の数倍に達すると考えられ、これら湾岸産油国の一人当たりGDPが世界のトップクラスであることは間違いない。
(続く)
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