2017年01月

2017年01月18日

エピローグ

 

2.増え続ける中東の難民

国家間の戦争或いは国内で内戦が勃発すると何の罪もない市民に多くの犠牲者が出る。それは戦火に巻き込まれる死者や負傷者という形だけではなく、戦火に追われて住み慣れた土地や家を失い異郷を彷徨う難民になる者も少なくない。

 

第二次大戦後の中東で難民が最初に発生したのはイスラエル独立戦争(第一次中東戦争)であった。彼らはパレスチナ難民と呼ばれ、イスラエル国内のパレスチナ自治区と周辺のヨルダン、レバノンに逃れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に登録されたパレスチナ難民は450万人に達するとされる。レバノンには12の難民キャンプがあり45万人が劣悪な環境の中で暮らしている。

 

パレスチナ難民問題が解決しないまま、最近になってさらに大規模な難民が発生した。「アラブの春」を契機にシリアで政府軍と反政府軍が衝突、さらに過激なイスラーム原理主義組織が「イスラーム国」(IS)の樹立を宣言するに及んで、シリア、イラクにまたがる紛争地帯で大量の難民が生まれたのである。「難民」を「量」として十把一絡げにしてしまう「大量の難民」という言い方には良心の呵責を感じるがほかに適切な呼び方が無い。

 

シリア紛争で国外に逃れたシリア難民は約410万人、国内で避難生活を送っている人々は760万人に上ると言われる。実にシリアの総人口の約半数であり、世界の避難民総数の5分の1を占める規模に達している。シリアの内戦が泥沼状態になると共に国内避難民への救援物資は滞り、満足な栄養や医療が行き渡らなくなった。彼らはトルコ、レバノン、ヨルダン等の周辺国の難民キャンプを目指したが、キャンプ自体がすでに飽和状態である。

 

そこで彼らは陸路伝いに徒歩で西ヨーロッパ、中でも移民に優しいとされるドイツを目指す。シリア難民の多くは都会暮らしの中流階級出身である。彼らは故郷の街にいるころから西ヨーロッパの平和で豊かな生活を知悉しており、一方「イスラーム国」(IS)の野蛮で非文明的な行状をインターネットで見るにつけ、ISが自分たちの街を支配した場合の恐怖感に怯えた。だから彼らはISの足音が近づくと、一切合財の家財道具を投げ売りしてトルコに逃げ延び、そこから西ヨーロッパを目指したのである。


55難民
 

彼らは着の身着のままで地中海を渡ろうともがく貧しいアフリカ難民とは異なり、難民ではあっても無一物ではなかった。難民の定義づけではアフリカ難民は経済難民であり、これに対してシリア難民は政治難民である。そのシリア難民が命の次に大切にしたものがスマートフォンであった。徒歩で西に向かう彼らはスマートフォンで現在の居場所を確認するとともに、先を行く知人友人からどこの国境検問所が難民を受け入れそうか、或いは国境が閉鎖されている場合は無断越境が可能なルートを探る。さらにそれらの情報を自分たちの後を追っている友人や親戚に知らせる一方、すでにヨーロッパに移住している親族と連絡を取り合って落ち着き先を探す。スマートフォンはまさに命綱であった。

 

 

 しかしヨーロッパ各国の難民の受け入れも限界に近付いたようである。各国の経済負担の限界を超えたというよりもむしろ大量の移民がもたらす市民自身の失業に対する不安感或いはイスラームテロなどに対する政治的社会的恐怖心が蔓延してきた。すでに多くのアフリカ難民がヨーロッパの大都市周辺に定住し、そこで生まれ育った移民二世たちの失業率は高く、彼らのある者はイスラームの過激思想に染まり、自暴自棄に陥り都市での自爆テロに走るようになった。他方、白人たちの不安を掬い取るように極右勢力は移民排斥、イスラーム排斥を主張して国民の支持を集めている。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

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2017年01月16日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0395MenaRank9.pdf

(MENA
なんでもランキング・シリーズ その9)

 

5.主要6カ国及び日本の項目別世界順位(レーダーチャート)

(図http://menarank.maeda1.jp/9-G02.pdf 参照) 

 サウジアラビア、UAE、トルコ、エジプト、イランおよびイスラエルに日本を加えた7カ国の総合指数及び7つのPillar(項目)の世界順位をレーダーチャートで比較してみる。

 

レーダーチャートは最も外側が世界順位1位であり内側の中心は世界151位である。また最上段の総合順位以下時計周りの1から7までの数字は各Pillarを示している。各分野の世界順位を結ぶ輪が各国の状況である。レーダーチャートの輪が外側に広がっているほど世界での順位が高く、また輪の形が真円に近いほど各分野のバランスが取れていることを示している。

 

(1)UAE、イスラエルと日本の比較

 総合指数が世界16位の日本と23位のUAEおよび30位のイスラエルを比較すると、3カ国は多くの項目で高い順位を得ており、(4)のTransport infrastructureはUAEが世界2位、日本は世界5位とトップランクに入っている(イスラエルは36位)。その一方(2)Foreign market accessは日本とUAEは130位台でイスラエルも93位と振るわない。

 

日本とUAEはほぼ同様の傾向を示し、(4)輸送インフラ、(5)輸送サービス、(6)ICT利用度、(7)操業環境の各項目では両国いずれも世界20位以内に入っている。これに対してイスラエルはこれらの分野ではいずれも日本およびUAEの順位より低いが、この両国が際立って世界順位の低い市場アクセス(分野1及び2)では日本及びUAEを上回っており、レーダーチャートの図形が全体的に安定した状態である。

 

(2)トルコ、サウジアラビア、エジプト及びイランの比較

 総合順位はトルコが59位、サウジアラビアは67位で世界の上位グループであり、エジプトとイランはそれぞれ世界116位、132位と下位グループである。従ってほとんどの項目でサウジアラビアとトルコがエジプトあるいはイランを上回っているが一部の項目では4カ国の順位に変動がある。

 

例えば(2)Foreign market accessではエジプトが世界54位で4カ国の中では最も高くトルコ(88位)、サウジアラビア(125位)を大きく上回っている。また(6)Availability and use of ICTsの項目ではサウジアラビアが世界40位であるのに対し、トルコ(74位)、エジプト(86位)であり、サウジアラビアと他の2カ国との格差が大きい。これは(7) Operating environmentの分野でも同じ傾向が見られる。イランは(3) Border administration 及び(7) Operating environmentの分野でエジプトをわずかに上回る点を除けば、いずれの分野項目でも世界順位が他の3か国を相当程度下回っている。

 

 4カ国のレーダーチャートの広がり具合を比べるとトルコが比較的真円に近く全体のバランスが取れていることがわかる。これに対してサウジアラビアは(2)Foreign market access及び(3) Border administrationの順位が低くいびつな形となっている。同国は(6)Availability and use of ICTs(7)Operating environmentの評価が高いが市場の開放度及び通関体制に問題を抱えている。またエジプトは(3) Border administration の評価が極めて低いなどちぐはぐな状況である。イランは全体的に世界順位が低く、特に(1)(2)の市場アクセスの改善の余地が大きい。

 

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本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

           前田 高行         183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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2017年01月15日

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
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(MENA
なんでもランキング・シリーズ その9)

 

4. 過去5回(2009~2016年)の世界順位の推移

(http://menarank.maeda1.jp/9-T02.pdf 参照)

(http://menarank.maeda1.jp/9-G01.pdf 参照)

2009年、2010年、2012年、2014年及び2016年の過去5回すべてにランク付けされたMENAの国はGCC6か国のほかトルコ、エジプト、イスラエル、アルジェリア、ヨルダン、モロッコ及びチュニジアの13か国である。

 

全世界の評価対象国の数は2009年が121カ国でありその後毎回増加し2014年には138カ国に達し、今回の2016年は2カ国減って136カ国である。各国の世界順位の推移を単純比較することは若干問題があるが、ここではその点を無視して各国の世界ランクとMENAにおける順位の推移を見てみよう。

 

UAEは過去5回を通じてMENAのトップである。同国の国際順位は18位(09年)→16位(10年)→19位(12年)→14位(14年)→23位(16年)であり、2009年以降は4年連続して世界の上位20か国に名を連ねていた。これを日本及び米国と比較すると、日本は23位(09年)→25位(10年)→16位(12年)→8位(14年)→16位(16年)であり、また米国は16位(09年)→19位(10年)→23位(12年)→14位(14年)→22位(16年)である。これら3カ国の順位争いはシーソーゲームの感がある。

 

MENAの2位は2009,2010年はバハレーン、2012年はオマーン、2014年カタール、2016年イスラエルとほぼ毎年顔ぶれが異なっている。このうちカタールの世界順位は35位(09年)→34位(10年)→32位(12年)→19位(14年)→43位(16年)と2009年から2014年までは急速に順位を上げたが、2016年は過去5年間で最も低い40位台に沈んでいる。地域における技術先進国イスラエルの場合は、29位(09年)→26位(10年)→28位(12年)→29位(14年)→30位(16年)と順位にほとんど変化がなく貿易円滑度が安定していることをうかがわせる。

 

サウジアラビアは2009年の42位から2012年には世界27位まで躍進したがその後は45位(14年)→67位(16年)と急速に順位を下げており、世界の上位国から中位国に転落している。エジプトは2009年の75位をピークにその後は毎年順位を下げ、今回は100位以下の116位にとどまっている。またMENAの世界平均順位は51位(09年)→53位(10年)→64位(12年、14年)→72位(16年)であり5回連続して下がっている。

 

因みに日本、米国、中国及びインドの過去6回の世界順位は以下のとおりである。

日本:23位(09年)→25位(10年)→16位(12年)→8位(14年)→16位(16年)

米国:16位(09年)→19位(10年)→23位(12年)→14位(14年)→22位(16年)

中国:49位(09年)→48位(10年)→56位(12年)→45位(14年)→61位(16年)

インド:76位(09年)→84位(10年)→100位(12年)→96位(14年)→102位(16年)

 

(続く)

 

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