2017年07月
(注)本シリーズは「マイライブラリ(前田高行論稿集」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0418MenaRank4.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その4)
2017.7.26
前田 高行
3.FDI Inward Stock(FDIインバウンド残高)
(高いFDIインバウンド残高を誇るサウジアラビア!)
(1) 2016年末のFDI Inward Stock(FDIインバウンド残高)
(表http://menarank.maeda1.jp/4-T05.pdf 参照)
2016年末のMENAのFDIインバウンド残高(FDI Inward Stock)は総額1兆916億ドルであり、世界全体の残高26兆7,300億ドルに占める比率は4.1%であった。同年中の全世界のFDIインバウンドに占める割合(3.1%)より1%高い。
残高の最も多い国はサウジアラビアの2,315億ドルであり、MENA諸国の中で唯一2千億ドルを超えている。2位はトルコで1,329億ドル、3位はUAEの1,179億ドル、4位はイスラエルの1,127億ドル、5位はエジプトの1,023億ドルでありこれら5カ国が残高1千億ドルを越えている。上位5カ国がMENA全体に占める割合は64%に達する。これら5カ国のうちトルコは前年度より126億ドル減少しているがその他4カ国はいずれも70~80億ドルほど増加している。
6位以下10位まではレバノン(610億ドル)、モロッコ(548億ドル)、イラン(485億ドル)、カタール(339億ドル)、ヨルダン(321億ドル)であり、200億ドル台にチュニジア、バハレーン、アルジェリアの3か国が並んでいる。リビア、オマーン、クウェイト及びシリアは100億ドル台であり、前年の残高が266億ドルであったイラクは今年急減し100億ドルを割っている。イエメンは29億ドル、パレスチナ自治区はMENAで最も少ない26億ドルにとどまっている。
2016年の単年度FDIインバウンド(本レポート第1章参照)の順位と比較すると、単年度ではイスラエル1位、トルコ2位、UAE3位、エジプト4位、サウジアラビア5位であり、これに対して残高ではサウジアラビア1位、トルコ2位、UAE3位、イスラエル4位、エジプト5位である。双方は同じ顔ぶれでありこれら5カ国はMENAの中で外国投資家の人気が高いことがわかる。
なお日本、米国、中国の流入残高はそれぞれ1,867億ドル、6兆4千億ドル及び1兆4千億ドルである。MENAトップのサウジアラビアに比べると、日本は同国よりやや少なく、米国は28倍、中国は6倍である。またMENA全体の投資残高(1兆920億ドル)は、中国のそれよりやや少なく、日本の6倍、米国の6分の1である。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
(注)本シリーズは「マイライブラリ(前田高行論稿集」で一括してご覧いただけます。
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(MENAなんでもランキング・シリーズ その4)
2017.7.24
前田 高行
(2) 2011-2016年の対外投資額(FDIアウトバウンド)の推移(続き)
(増減の波が大きいクウェイトとカタール、着実に増加しているサウジとUAE!)
(b)GCC6カ国の対外直接投資(FDIアウトバウンド)の推移
(図http://menarank.maeda1.jp/4-G03.pdf 参照)
GCC6カ国の2011年から2016年までの対外投資(FDIアウトバウンド)を各国別に比較すると、2011年の対外投資額はクウェイトの108億ドルが最も大きくカタールとならんで100億ドルを超えている。その他の5カ国はサウジアラビア34億ドル、UAE22億ドル、オマーン12でバハレーンはマイナス9億ドルであった。
2012年にはクウェイトとカタールの両国は大幅に減少、その他の4カ国は微増あるいは微減であったため、6か国の差は縮小した。2013年にはクウェイトが再びトップとなったがその後は2014年マイナス105億ドル→2015年プラス54億ドル→2016年マイナス63億ドルと激しい増減を繰り返している。クウェイトの投資家が対外投資にかなり敏感で神経質に反応しているのではないかと推測される。これに対してUAEは2012年以降毎年着実に増加し2015年には167億ドルと5年間で7.2倍に拡大、2016年は若干落ち込んだがGCC6カ国の中では飛び抜けて高い対外投資水準を示している。
サウジアラビアのFDIアウトバウンドもUAEほどではないものの毎年着実に増えており、2011年の34億ドルから2016年にはGCC2位の84億ドルに達している。カタールは2011年の101億ドルをピークに増減を繰り返しているが、増減の幅はクウェイトほど大きくなく、2016年は79億ドルであった。同国は天然ガスの輸出が好調であり、政府系ファンド(SWF)による欧米の企業或いは銀行に対する出資・買収が盛んである。クウェイトとカタールは石油・天然ガスの価格高騰により国内に余剰資金が溢れているにも関わらず自国の経済規模が小さいため国内での投資機会が乏しく、国内資本が海外に向かっているのである。
オマーンとバハレーンは過去6年間を通じて大きな変化は見られず投資規模はほぼ10億ドル未満にとどまっている。両国はサウジアラビア、UAEなど他の4か国に比べ石油・天然ガスの産出量が少なく余剰資金が少ないことがFDIアウトバンドの少ない理由である。
GCC各国の海外投資動向は余剰オイルマネーの額に比例し、国内経済の規模に反比例すると考えられる。つまり石油・天然ガスの生産量が多い国は多額の余剰マネーが発生しその投資先を国内外に求める。その場合人口が多く国内経済規模が大きなサウジアラビアでは国内での投資機会が多く資金は国内に向かうが、人口が少ない割にオイルマネーが豊富なUAE、クウェイト及びカタール各国は余剰資金が海外に向かう傾向がある。
(続く)
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2017年07月23日
(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf
2017.7.23
荒葉一也
同じGCCの一員であるクウェイトが仲介役として乗り出しサバーハ首長はリヤドとドーハの間でシャトル外交を繰り返している。しかし諸外国にとっては所詮GCC君主制国家の内輪喧嘩であり、当事者同士で話し合い解決するのがベストと見ている。先進国の中では最も利害関係が深い米国のホワイトハウスも当初は「Family issue (家庭の問題)」と突き放した姿勢であった[1]。
しかし問題解決の糸口を見い出せないままATQ4か国とカタールは互いを非難し、自らの正当性を主張するPR合戦の様相を呈している。これ以上事態がエスカレートし、万一ペルシャ(アラビア)湾からの石油或いは天然ガスの供給に問題が生じれば日本、中国、インドを含むアジア各国は大きな影響を受けることは間違いない。日本の場合、サウジアラビア、UAEに石油を、またカタールに天然ガスを頼っているため、どちらか一方の肩を持つ訳にはいかない。日本自身が調停に乗り出す可能性もないではないが、世界的に石油・天然ガスは余っており中東以外からも買い付けやすい状況を考えれば、ここは下手に調停役を買って出た挙句どちらか一方から恨みを買うという最悪のリスクを考えれば静観するのが得策であろう。
ところが米国のトランプ政権はこのまま「Family issue(家庭の問題)」として静観ばかりしていられないようである。エネルギー需給の面だけで見ればシェール・オイル及びシェールガスの増産により米国はエネルギーの自給率を高めており、サウジアラビア・UAEの石油或いはカタールの天然ガスは米国にとって大きな問題ではない。
それでは米国にとってこれら湾岸の国々に対する死活的利益が何かと言えばそれは「軍事的利益」なのである。わかりやすく言えばそれはサウジアラビア(及びUAE)にもっと多くの武器を売りつけることであり、一方カタールに対してはウデイド空軍基地を、またバハレーンに対しては海軍基地を引き続き利用できることなのである。
トランプ政権にとって武器の輸出拡大は国内産業を活性化し雇用を確保することにつながり選挙公約を実現する手段となる。そしてペルシャ(アラビア)湾に自国の空軍基地、海軍基地を維持することはイラン、トルコ或いはロシアににらみを利かせイスラエルを支えるという「偉大な米国」或いは「アメリカ・ファースト」政策にピッタリなのである。付け加えて言うなら民主党政権を破り共和党政権を樹立したトランプは中東から太平洋に軸足を移そうとしたオバマの足跡を消し去ることで自己の存在感を高めようとしていると考えられなくもない。
彼の中東外交はさしあたり成功しているようである。オバマ時代に最悪になった米国とサウジアラビアの関係は劇的に改善し、サウジアラビアを最初の外国訪問地に選んだトランプ大統領はサルマン国王から大歓迎を受け1,100億ドルと言われる巨額の武器契約を取り付けたのである[2]。そしてカタールのウデイド空軍基地はイスラム国(IS)の偵察基地、攻撃発進基地として成果を上げている。これはシリア・アサド政権と結託し中東でのプレゼンスを高めていたロシアを抑え込む効果も発揮している。
米国ではティラーセン国務長官が紛争の調停に当たった。因みにティラーセンは国務長官就任前は国際石油企業ExxonMobilのCEOであった。ExxonMobilはサウジアラムコ創設時のメンバーであり、現在もサウジアラビアと深いつながりがある。同時にExxonMobilはカタールの天然ガス事業にも合弁事業として参加している。このためティラーセンはCEO時代に頻繁にサウジアラビアとカタールを訪問しておりそれぞれの事情に精通した第一人者である。
しかし外交問題の責任者としての国務長官とこれまでの民間企業CEOとではかなり勝手が違ったようである。ティラーセンはサウジアラビアとカタールそして仲介役のクウェイトを精力的に駆け巡るシャトル外交を展開したが思うような結果は出なかった[3]。
最近の報道ではクウェイトの調停が実を結んだのであろうか、UAEからは態度軟化のシグナルが出ている。そして28日にはカタールのタミーム首長が外交関係修復のための協議に応じるとテレビで演説した[4]。彼が一連の問題について発言するのは6月初めの国交断絶以来1か月半ぶりのことである。4か国とカタールが一刻も早く無益な対立を解消することを願うばかりである。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
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[1] Demands presented unreasonable: Doha
2017/6/25 Arab Times
http://www.arabtimesonline.com/news/demands-presented-unreasonable-doha/
[2] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom
2017/5/21 Arab News
[3] No light seen at the end of Qatar tunnel
2017/7/13Saudi Gazette
http://saudigazette.com.sa/article/512813/SAUDI-ARABIA/Rex-Tillerson
[4] Emir says Qatar ready to talk but "sovereignty must be respected"
2017/7/21 The Peninsula