2017年07月
2017年07月21日
(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0415SovereignRating2017July.pdf
2017.7.21
前田 高行
3. 2014年7月以降の格付け推移 (続き)
(カタールが首位グループ脱落、急落するサウジ、オマーン、バハレーン!)
(2)GCC6カ国の格付け推移
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)
GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2014年7月時点ではUAE、クウェイト及びカタールの3か国が格付けでは上から3番目のAAであった。サウジアラビアは1ランク下のAA-であり、オマーンはA、バハレーンは最も低いBBBにランクされていた。バハレーンの格付けは投資適格としては下から2番目であるが、6か国はいずれも投資適格の格付けであった。
オマーン及びバハレーンは他の4カ国に比べ原油あるいは天然ガスの生産量が少なく財政的に脆弱であり、2012年の「アラブの春」の騒乱で国内が乱れ、他の4か国の支援を得て漸く体制を維持する有様であった。このため他のGCC諸国よりも評価が低かった。
2014年年央をピークに石油価格の急落が始まると、最初に経済力の弱いオマーンとバハレーンを直撃した。こうして2015年上期には、オマーンはA-に格下げ、またバハレーンも投資適格としては最も低いBBB-に格下げされた。さらに同年下期にはオマーンはA-からBBB+に再引き下げされている。そしてこの時サウジアラビアもAA-からA+に引き下げられた。それまで世界最大の産油国として原油価格の下落をしのいできたサウジアラビアであったが、同じ豊かな産油国であるUAE、クウェイト及びカタールに比べ人口圧力が高いため格付け会社S&Pは同国経済の健全性に疑問を呈した形である。
サウジアラビア、オマーン及びバハレーン3か国はその後も格下げが続き、サウジアラビアは2016年上期に2段階下がりA-となった後、現在に至っており、トップのUAEあるいはクウェイトとは4ランクの格差が生まれている。オマーンは2016年以降も毎年ランクが下がっており、今年上期にはBB+と格付けされたが、これは投資不適格の範疇である。同国は過去3年間で5段階格下げされたことになる。GCC6カ国の中で最も格付けが低いバハレーンは昨年上期には投資不適格のBBに格下げされ、更に下期には1ランク低いBB-となり現在に至っている。
人口が少なく石油収入が豊富なUAE、クウェイト及びカタールは石油価格暴落にもかかわらず健全な財務状況を維持しており、S&Pはこれら3か国に対しトリプルA、AA+に次ぐAAの格付けを付与してきた。しかし今年6月になり、カタールのみがAAからAA-に引き下げられた。
財務の健全性ではこれら3か国に優劣はないにもかかわらず、カタールのソブリン格付けが引き下げられた背景にあるのは、同月はじめ、GCCの同盟国サウジアラビア、UAE、バハレーンがエジプトと共にカタールと断交、陸路、海路、空路を閉鎖しカタールに対する経済制裁を発動したことにある。国交断絶、経済制裁の理由としてこれらの国々はカタールがイスラーム同胞団を含むイスラーム過激主義を支援し、GCCが敵視するイランを支援したためだとしている。カタールは事実無根と反発しているが、食糧、建設資材などをUAE、サウジアラビアなどからの輸入に依存しているカタールにとっては大きな問題である。問題解決には時間がかかるものと見られ、S&Pが同国の格付けを引き下げたのはそのためである。
以上
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前田 高行 〒183-0027
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(カタール)国営通信偽報道事件はUAEのハッカーの仕業と断定。
(サウジ)国王直属の「国家治安局(Presidency of State Security)」を創設。内務省の権限大幅削減。
(サウジ)資本市場庁(CMA)長官にAl-Quwaiz任命。
(サウジ)サウド家王子の暴行事件がビデオで流れ警察が逮捕。 *
(アブダビ)ADNOCのガソリンスタンド・コンビニ経営子会社の株式公開。HSBCなどを起用。
(ドバイ)国連の世界都市データ協議会(WCCD)とMoU締結、MENA・南アジアのデータハブに。
*王子の氏名はSaud bin Abdulaziz bin Musaed bin Saud Al Saudと報じられており、故サウド第二代国王の子孫(第5世代王族)と見られる。
2017年07月20日
(注)本シリーズは「マイライブラリ(前田高行論稿集」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0418MenaRank4.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その4)
2017.7.20
前田 高行
(2) 2011-2016年の対外投資額(FDIアウトバウンド)の推移
(3年連続100億ドル超の対外投資を続けるUAE!)
(a)MENA諸国の対外直接投資(FDIアウトバウンド)
(表http://menarank.maeda1.jp/4-T04.pdf 参照)
MENA地域の2011年から2016年までの対外投資額は2011年の420億ドルに始まり、その後は減少と増加を繰り返し2016年は447億ドルであった。世界全体に占めるMENAの比率は2.2%(2014年)と3.8%(2013年)の間を上下している。
2011年のMENAの対外投資の合計額420億ドルは同年の中国(747億ドル)の6割弱であったが、その後中国の対外投資が大きく増加した結果、2016年はほぼ4分の1となっている。日本と比べると2011年は日本がMENAの2.6倍であったが、その後日本の対外投資は毎年1千億ドル台を超えており、2016年には日本はMENAの3倍になっている。
MENAの対外投資を常にリードしているGCCについては次項に詳述するが、GCC以外の主な国を見ると、まずイスラエルの対外投資額は92億ドル(2011年)→33億ドル(2012年)→55億ドル(2013年)→37億ドル(2014年)→99億ドル(2015年) →125億ドル(2016年)で非GCC諸国の中では高い水準を維持しており、同国が対外投資に積極的であることがわかる。これに対してエジプトは「アラブの春」の2011年の対外投資は6億ドルにとどまり、その後もさらに少ない2~3億ドルの水準が続いている。ムバラク体制の崩壊後ムルシ・イスラム政権が短期間でシーシ軍事政権に交替するなど経済が混乱したことが対外投資に大きく影響しているようである。
中東でエジプトと並ぶ大国であるトルコ及びイランについては、まずトルコの対外投資は「アラブの春」の2011年の騒乱期は20億ドル台の低い水準にとどまったが、その後2012年には41億ドルに増加、2014年、2015年もそれぞれ67億ドル、48億ドルの高い数値を示した。但し2016年には29億ドルと6年前の水準に戻っている。イランは経済制裁の影響でFDIインバウンドも低い水準にあるが(1-2-a参照)、FDIアウトバウンドはさらに低く過去6年間のうち5年は一桁台であり、2016年はMENA19か国中の13位にとどまっている。
(続く)
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2017年07月19日
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2017.7.19
前田 高行
3.2014年7月以降の格付け推移
ここでは2014年7月以降現在までの欧米・アジア主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。
(2015年上期から2016年上期に格下げが続出)
(1) 欧米・アジア主要国の格付け推移
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)
2014年7月以降のドイツ、米国、英国、中国、日本、インド、ロシア、ブラジル、ギリシャ9か国の格付けの推移は以下の通りである。
ドイツは過去3年間常に最高のトリプルAの格付けを維持している。英国は一昨年末までドイツと並びトリプルAの格付けを受けていたが、昨年前半に一挙に2段階下がり、現在はAAである。同国は昨年6月の国民投票によるEU離脱決定が懸念され、ソブリン格付けの引き下げにつながった。米国は財政赤字が悪化したことなどにより数年前から格付けはトリプルAより1ランク下のAA+を続けている。現在の英国のソブリン格付けAAは米国よりも低い。
ドイツ、米国、英国を最上級格付け国とすれば、中国及び日本はこれに次ぐ格付けランクを保っている。両国は2015年上期までは共に最上級(AAA)から3階級下のAA-の格付けであった。しかし2015年下期に日本は1ランク下のA+に格下げされ、中国は従来通りのAA-を維持したため両国の間に格差が生まれた。世界的な景気後退の中でも国内経済に支えられた中国が比較的堅調に推移していることを評価されたのに対して、日本は景気後退の影響をまともに受けた形である。
新興経済国BRICsを構成しているブラジル、ロシア、インド及び中国のうち、中国を除く3カ国は2015年1月時点では共にBBB-であり投資適格では最も低いランクであった。しかし2015年上期にロシアが1ランク下がり投資不適格のBB+に下がった。その後、ブラジルの経済が急激に悪化、同国の格付けは2015年下期にロシアと同じBB+に格下げされ、昨年上期にはさらに1ランク下がって現在に至っている。この結果今年7月現在の3カ国の格付けはインドがBBB-、ロシアはBB+、ブラジルはBBであり、インドは投資適格であるが、ロシア及びブラジルは投資不適格とされている。
なお欧州金融危機の引き金となったギリシャの格付けの推移を見ると、2014年7月時点ではB-であった。その後同年下期に若干改善され格付けはBとなったが、金融危機が表面化し財政緊縮策が不可避になった2015年上期には一挙に4ランク下がりCCC-となった。S&Pの定義ではCCCは「債務者は現時点で脆弱であり、その債務の履行は、良好な事業環境、財務状況、及び経済状況に依存している」とされ、ギリシャは破綻の一歩手前にあるとみなされていた。その後同国の状況は改善傾向にあり、今年7月現在の格付けは3年前と同じB-に戻っている。
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