2008年03月10日
愚者の笛―ハンドボール問題に見るクウェイトの深い傷口(5)
(注)HP「マイ・ライブラリー」に一括掲載しました。(2010.1.6追記)
(第5回)IOCとFIFAにも叩かれ四面楚歌のアハマド殿下
アハマド殿下の率いるアジア・ハンドボール連盟(AHF)が、日本及び韓国に罰金を科し、それを払わない場合はイランで行われるアジア男子選手権の参加を認めない、という強硬措置を決めた直後から、事態は思わぬ方向に動き出した。ハンドボールやサッカーさらにはオリンピック委員会など各種スポーツ団体のアジア連盟で絶大な権力をふるってきたアハマド殿下に対して、国際オリンピック委員会(IOC)の他国際サッカー連盟(FIFA)や国際ハンドボール連盟(IHF)などの上部団体が一斉にアハマド非難を始めたのである。
さらにバハレーン人で元AHF副会長のモハンマド・アブル氏までが、1998年のジュニア選手権のクウェイト・バハレーン戦についてIOCに再調査を訴えるなど、まさにアハマド殿下は袋叩きの状態である 。アブル氏は、すでに決まっていた日本人審判をクウェイト側が試合直前にUAE審判に替えたと述べている。また彼はAHFの役員と審判の間で実際に賄賂の授受があったか否かの証拠はないものの、これは湾岸のハンドボール界では周知の事実である、と証言している。
IHFがイランの男子アジア選手権の運営権を取り上げたことに対し、当初は対抗措置も辞さないと強気の姿勢のAHFであったが、同大会を来年クロアチアで行う世界選手権の代表選考会と認めないとIHFが宣告するに及び、AHFはいつのまにか腰砕けとなった 。
さらに追い討ちをかけるように、2月27日、国際オリンピック委員会(IOC)のミロ理事名による書簡がクウェイト社会労働相宛に届いた。IOCは書簡の中で、もしクウェイトオリンピック委員会がオリンピック憲章に適格と認められない場合はしかるべき罰則と制裁を課す、と警告したのである 。そして文書には、クウェイトがオリンピック憲章に従う旨の誓約文を遅くとも3月31日までに提出しなければ、4月始め開催予定のIOC最高会議に報告する、とまで付け加えた。もしそのような事態になればクウェイトの北京オリンピック参加も危うくなる。またIOCに符合して国際サッカー連盟(FIFA)がクウェイトの連盟資格を剥奪する可能性があるとの報道も流れた。サッカーはハンドボールと共にクウェイトで最も人気の高いスポーツである。北京五輪大会を含めクウェイトがこれら国際スポーツ大会から排除されれば、国民の失望は計り知れないであろう。
イランで行われたハンドボール・アジア男子選手権大会においてクウェイトは銀メダルを獲得した。選手団がクウェイト空港に降り立った時、彼等を出迎えその労をねぎらったのはアハマドの実弟タラールであり、そこにはアハマド本人の姿はなかった 。「中東の笛」と呼ばれる愚挙を影で指図したアハマド殿下は今や四面楚歌の状態であり、国際スポーツ界からレッドカードを突きつけられ退場を迫られている。
以上の一連の事実はクウェイト発行のArab Times紙から拾い上げたものである。本シリーズ第3回「アハマド殿下はどう出る」で触れたようにArab Timesはサバーハ首長家の中ではアハマド殿下が属する主流派に敵対する反主流派サーリム系の御用新聞である。反主流系とは言え同紙がこれほどまでにあからさまに王族がらみの問題をとりあげることは珍しく、通常なら首長あるいは首相などサバーハ家の有力王族が密かに介入して報道を控えさせたはずである。その意味からすれば、アハマドが身内からも見放された、と見るのが適切なのかもしれない。金満国家のクウェイトで傍若無人に振舞う一人の王族が引き起こした今回の問題は、クウェイトの現在の体質そのものを現していると言って間違いなさそうだ。
(第5回完)
(本シリーズは過去3年間にわたるクウェイトのインターネット新聞のモニタリング結果による筆者の憶測記事であり、内容の真偽は保証の限りではありません。)
これまでの内容:
(第4回)裸の王様、サバーハ家
(第3回)アハマド殿下はどう出る?
(第2回)イラクのクウェイト侵攻がもたらしたもの
(第1回)五輪ハンドボール予選騒ぎ
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp
(第5回)IOCとFIFAにも叩かれ四面楚歌のアハマド殿下
アハマド殿下の率いるアジア・ハンドボール連盟(AHF)が、日本及び韓国に罰金を科し、それを払わない場合はイランで行われるアジア男子選手権の参加を認めない、という強硬措置を決めた直後から、事態は思わぬ方向に動き出した。ハンドボールやサッカーさらにはオリンピック委員会など各種スポーツ団体のアジア連盟で絶大な権力をふるってきたアハマド殿下に対して、国際オリンピック委員会(IOC)の他国際サッカー連盟(FIFA)や国際ハンドボール連盟(IHF)などの上部団体が一斉にアハマド非難を始めたのである。
さらにバハレーン人で元AHF副会長のモハンマド・アブル氏までが、1998年のジュニア選手権のクウェイト・バハレーン戦についてIOCに再調査を訴えるなど、まさにアハマド殿下は袋叩きの状態である 。アブル氏は、すでに決まっていた日本人審判をクウェイト側が試合直前にUAE審判に替えたと述べている。また彼はAHFの役員と審判の間で実際に賄賂の授受があったか否かの証拠はないものの、これは湾岸のハンドボール界では周知の事実である、と証言している。
IHFがイランの男子アジア選手権の運営権を取り上げたことに対し、当初は対抗措置も辞さないと強気の姿勢のAHFであったが、同大会を来年クロアチアで行う世界選手権の代表選考会と認めないとIHFが宣告するに及び、AHFはいつのまにか腰砕けとなった 。
さらに追い討ちをかけるように、2月27日、国際オリンピック委員会(IOC)のミロ理事名による書簡がクウェイト社会労働相宛に届いた。IOCは書簡の中で、もしクウェイトオリンピック委員会がオリンピック憲章に適格と認められない場合はしかるべき罰則と制裁を課す、と警告したのである 。そして文書には、クウェイトがオリンピック憲章に従う旨の誓約文を遅くとも3月31日までに提出しなければ、4月始め開催予定のIOC最高会議に報告する、とまで付け加えた。もしそのような事態になればクウェイトの北京オリンピック参加も危うくなる。またIOCに符合して国際サッカー連盟(FIFA)がクウェイトの連盟資格を剥奪する可能性があるとの報道も流れた。サッカーはハンドボールと共にクウェイトで最も人気の高いスポーツである。北京五輪大会を含めクウェイトがこれら国際スポーツ大会から排除されれば、国民の失望は計り知れないであろう。
イランで行われたハンドボール・アジア男子選手権大会においてクウェイトは銀メダルを獲得した。選手団がクウェイト空港に降り立った時、彼等を出迎えその労をねぎらったのはアハマドの実弟タラールであり、そこにはアハマド本人の姿はなかった 。「中東の笛」と呼ばれる愚挙を影で指図したアハマド殿下は今や四面楚歌の状態であり、国際スポーツ界からレッドカードを突きつけられ退場を迫られている。
以上の一連の事実はクウェイト発行のArab Times紙から拾い上げたものである。本シリーズ第3回「アハマド殿下はどう出る」で触れたようにArab Timesはサバーハ首長家の中ではアハマド殿下が属する主流派に敵対する反主流派サーリム系の御用新聞である。反主流系とは言え同紙がこれほどまでにあからさまに王族がらみの問題をとりあげることは珍しく、通常なら首長あるいは首相などサバーハ家の有力王族が密かに介入して報道を控えさせたはずである。その意味からすれば、アハマドが身内からも見放された、と見るのが適切なのかもしれない。金満国家のクウェイトで傍若無人に振舞う一人の王族が引き起こした今回の問題は、クウェイトの現在の体質そのものを現していると言って間違いなさそうだ。
(第5回完)
(本シリーズは過去3年間にわたるクウェイトのインターネット新聞のモニタリング結果による筆者の憶測記事であり、内容の真偽は保証の限りではありません。)
これまでの内容:
(第4回)裸の王様、サバーハ家
(第3回)アハマド殿下はどう出る?
(第2回)イラクのクウェイト侵攻がもたらしたもの
(第1回)五輪ハンドボール予選騒ぎ
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